現実逃避超空間

作者/ 風そら



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『ズドンッ!』
射撃は直人の方から行われた。
一瞬で二人は身を隠す。

「さてと、まずはお前から行くか」
直人は金時に向きなおすと、銃を乱射した。
金時は電柱の裏で思考回路をフル回転させた。

トカレフか…
装填数は8発。ならば、その後に飛び出すか?
いや、もう一丁持っている可能性も……
どちらにしろ一瞬の隙ができる。そこを突けば…

『ズドン!』
8発目――
最後の銃声が聞こえた。
金時は飛び出し、銃を構え、それを直人の脳天に向ける。

『ズドンッ――』
「!!?」

あるはずのない9発目が、直人のトカレフから放たれた。
それは一直線に金時の肩をかすめる。

「どういうことだ…!?」
「知りたいか?」
動揺する金時に、直人はトカレフを上に放った。

「俺はなぁ、事件が起きてからある訓練をしてんだよ」
「訓練…?」
金時の顔に汗が垂れた。
「そうだ。【SPACE】にいるからこそできる、あれをな――」

金時の顔にはますます困惑の表情が浮かびあがった。

「まだわからねぇか?物体の具現化だよ。自分の思った物はすべて出てくる。
 俺はその座標を正確に操る練習を続けてきてんだよ」
「座標を…操るだと…?」
金時は背筋が凍った。
「じゃぁ…」 リロード
「あぁ、俺は再装填を必要としない。念じればもう弾は入ってるんだからな」

明らかに金時がひるんだ。
すかさず直人は銃を金時に突きつけるが、反射は金時の方が一枚上手だった。
『ガチンッ!!』
「!?」
金時の銃からは、何やらおかしな音がすると、それ以上の反応はなかった。
何度も引き金を引くが、銃はうんともすんともいわない。

「残念だが、その銃の中に『異物』が詰まってる。使い物にはならねぇよ」
「ってめぇッ!!」
脇から小型のナイフを取り出した金時は、それを思いっきり直人めがけて投げつけようとする。が――

『とん…』
という音と共に、金時の首に、宙に浮くナイフの刃先が触れていた。
「!!!!」
「やめとけって。動くと頸動脈切れるぞ?
 もっとも、俺がこのままスパッとやってもいいけどな」
「てめ……」
金時の顔は完全に恐怖に支配されていた。

「俺はな、別にお前に銃で綺麗に勝ちたいわけじゃねぇんだよ。
 俺はお前らを止めるためならなんだってするぜ?」

カランッと、金時のナイフが地面に落ちる。
直人操る浮かんだナイフは、未だ金時の首筋に触れたままだ。

「……やりたい放題やってくれてんじゃねぇか」
「!!」
そして直人は気づいた。
――背後からの影に――

『ドフッ!!』

デイソンは幻影鎚で直人の後頭部を殴りつけると、そのまま吐き捨てるように言った。
「俺を忘れてんじゃねぇよ。第一、金時より俺の方が危険だろ?」
「デイソン、それ俺への侮辱」

金時が何事もなかったかのように、地面に転がる二つのナイフを取り上げた。
デイソンは薄く笑う。

「実際そうだろうが」


直人は深い眠りに落ちた。