現実逃避超空間

作者/ 風そら



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「奴ら、東北に行く気だな…」
若い男が言った。

「東北って言ったら裏世界の入り口のほうか」

部下の見張りから戻ってきたジャケットの男が、高速に移動する三つの赤点を遠目に見つめながら言った。

「意図的にそっちに向かってる可能性も0ではない、な」
声が低めの男が煙草を吸いながらつぶやいた。

「一人は抗ウィルスを持ってることだしな…」

「裏世界に入られたら後々面倒だ。もう始末した方がいいんじゃ…」
「いや、幕僚長の指示が第一だ。あと30分…いや、20分で俺は行く」

若い男の提案を遮ってジャケットの男が言った。


「おいおい、殺すなって指示だぜ?あんたが行ったらクレーターが出来ちまうぜ」

ドスの利いた声で男は言う。


「安心しろ、俺は雑魚相手に本気はださねぇ。

 それより、交渉部からの報告は?」

ジャケットの男は事務椅子に倒れこんだ。


「政府側はまだ金で解決しようとしているらしい。
 『例』の物はまだ手に入ってないとのことだ」

「チッ、博士は昏睡するは政府は渋るわでなんも進展がねぇな。
 政府側は国民になって言ってるんだ?」


「謎のテロリストが政権をよこせと言っている…と」

管理室の中にジャケットの男の笑い声が響く。


「政権をよこせ、か… そりゃぁ渋っても仕方ねぇわな」



ジャケットの男は後ろを振り返ると黙り込んだ。



(次はいよいよアメリカか…?)