現実逃避超空間

作者/ 風そら



19



現実世界、総合制御センター中央管理室――



「いいのか?軍が動いたなんて嘘ついて」
黒いジャケットを羽織った男が、事務椅子に腰を下ろしながら言った。

電源がすべて落とされているため、頼れる明かりは太陽しかないわけだが、それもビルがすべて遮ってしまっている。

薄暗い管理室の中には、数人の男たちが集っていた。


「あぁ、貴重な人材は早めに回収しておくべき。それが外の状況を多少ごまかすことになってもだ」
リーダーらしき、サングラスをかけた男が、まだ現れない太陽を窓越しに眺めながら言い放った。


「そうかい。まぁ俺らはどうでもいいけど」
ジャケットの男はそういうと、事務椅子を180°回転させてスルスルと扉のほうに近づいた。


「どこ行くんだ?」
別の男が言った。かなり若い。

「ちょっくら見張りの奴ら見てくるわ。
 あいつ昔っからサボりやすくてね。」

ジャケット男はそういうと、椅子に座ったままドアを開け、廊下に出て行った

室内にドアの閉まる音が響き渡る


「これからどうするんだ?報告によると、抗ウィルスを持ち歩いてる女がいるとか……」

やや声が低めの中年の男がリーダーの男に聞く。

「情報源は?」

この質問には、リーダーの男ではなく若い男が反応した。


「昨日、ログアウトしようとした男を追っていた担当が他のもう一人に撃たれたらしい。
 その後、数人の担当を送ったところ全滅。相当の実力を持っていることが分かった。」
「それで?」
「ヴァーリーが確認のため幻影を送ったところ、葬られたうえ、鎌を持った女に『麻酔』と偽られ高濃度の抗ウィルスを打たれた」

中年の男が報告を終えると、室内に沈黙が流れた


「最初に出てきた『もう一人』ってのは男か、女か?」
「男だ」

リーダーの男は、すぅっと息を吸い込むとこちらを向いた


「抗ウィルスはまだ外には出していないはずだ。
 つまりデータだけを外部から盗まれたかスパイに取られたかのどっちかだ。

 これは抗ウィルスだけではなくウィルス自体を持っている可能性もあるということだ。
 これが何を意味するか…諸君はわかっているはずだ。

 まぁ俺からは何も言わない。好きにしてくれて構わない。
 ただ、その三人のIDと現在地だけは常に把握しておけ、いいな」


リーダーの男はそれで言葉を切った