現実逃避超空間
作者/ 風そら

52
「やだ、面倒」
咲子はすたすたと向こうへ歩いて行ってしまった。
おい、お前、
そこまでやって逃げる気か
「あ、こういうのは?」
咲子はくるりとこちらを向いた。
「今からボクは帰る。でも、夜明けまでにボクを見つけられたら君の勝ち。仲間になってあげる」
要はかくれんぼか…
だが、何秒数えるかも指定してこないということはなにか技があるのか
「いいぜ、そういうの。30秒で見つけ出してやる」
俺だって10億人に一人の称号は伊達じゃないぜ。
まだちょっとしか時間たってないけど
「じゃぁ、バイバイ」
俺はじっと咲子を見つめる。
が、
「あれ?」
その時、俺は初めて咲子をあの男の影と重ねた。
――伊藤
目に見えないほどの高速移動。
だが伊藤のそれは普通じゃない。
TSウィルスは超能力エネルギーは発せられないからだ。
だが分かったことは二つ。
あいつはTPウィルス感染者、そして
「絶ッてェ見つけてやるッ!!!!」
俺は上を見上げて高そうなビルを探し、その屋上に飛び乗った。
…もちろん一飛びではなく、ちょこちょこと窓辺に足をかけてちょっとずつ。
そして俺は下界を見下ろした。
ほとんど真っ暗ではあるが多少見える部分はある。
いくら早く走れても、スタミナ…体力の限界はある。
あの速さで行っても1kmが限度か。
地理的条件を考えて、海側に出たとは考えにくい。
この方角に必ず逃げている。
俺はスッと、高性能サーモグラフィを取り出すとそれを目につけた。
2095年の最新科学をなめちゃいけない。
拡大機能もついているため、かなり便利。
しかも、使用可能範囲が4000m。
これで見つからないわけがない。
美佳がいたらもっと簡単に見つかるだろうに。
俺はそれらしきそれをしらみつぶしに探していく。
ズームしては戻し、戻してはズームしてを繰り返し、ようやく人影を発見した。
裏路地のような場所に一人座り込んでいる。
「よっと」
俺はビルから飛び降りた。
『ガバキッ!』「つっ!!」
案の定あちこち骨折。
だが、すぐさま立ち上がり走り出す。
どこだぁ?
よく顕微鏡なんかを覗いてるときに、低倍率でなら見つけたけど高倍率だと…
っていう感じに陥っている。
勘を頼りにあちこちをうろつきまわる。
やがて、ようやくさっきの座り込む人影を発見した。
「みーつーけたっ」
俺はその人影の前に飛び出した。
「――うるせーなぁ、俺ァ酒が飲みてェんだよこの、クソばばァ」
あ?
おい、じじぃ、舐めてんのか?
一瞬自分が人違いだったということを忘れてキレかかる。
が、そんな怒りを吹っ飛ばすほどの朗報が俺のポケットから聞こえてきた。
「直人から…」
俺は携帯を耳に当てる
「あい?」
『あい?じゃねーよ。ルティアが見つかったかもしんねぇって美佳が言ってっから今すぐ品川駅来い』
「品川ぁ?つーか俺今重要な人材を『いいから来いって。待ってっから』
「えーそんな…」
その声が届いたかどうかはわからないが電話は切れてしまった。
俺は大きなため息をついた。
が、待っている人を無視するわけにもいかない。
「しょうがねぇなぁ」
俺はそういって酔っ払い親父に別れを告げた。

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