現実逃避超空間

作者/ 風そら



57【第五章】 決 意



朝俺が起きた時には、直人の姿は見当たらなかった。
常時【SPACE】内は適温に保たれているので野宿しても寒いことはない。

そこら辺を歩き回っていると、何やら座り込んでだれている様子の直人が目に入った。
テッテと走って近づくと、直人は碁盤に一人で向かっていた。
なんだ、直人囲碁やるのかと思い覗き込むと、碁石の代わりに拳銃の弾が数個立っていた。
「お前、何してんの?」
俺は中腰で聞いた。が、直人は「いや」と答えるだけで、片づけてしまった。
「そういや、昨日お前が言ってたやつは?」
「あぁ」
直人の言葉は逃げてるのが丸わかりだったが、聞かれていることに答えないわけにはいかない。
俺たちは戻ってドラム缶のもとへとかけた。


二人で、青い、さびかかっているドラム缶を見つめて沈黙が続く。
「手伝ってくれ」
俺は直人に言うと、二人係でふたを外しにかかった。
しばらくして、銅鑼をたたいたような音と共にふたは開いた。
中身はまだ見ていない。
俺は直人と目を合わせると、そーっと中をのぞいてみた。
そこには濃いピンク色に変色した炎が昨日よりも半分ほど少なくなってたまっていた。
「どういうことだ」
直人は淡々と言った。
お前、もうちょっとリアクションを学んだらどうだ?という言葉は口には出さず、俺は頷いた。
「炎を一定容量ある空間に長い間ためておくと、どんどんその質が上がってくんだ。量は少なくなるけど」
「…なるほど。つまりこれを続けて行けば伊藤にも負けない炎ができるってか」
俺は静かにうなずく。
とりあえず…、と俺は昨日のように金色の炎を流し込んだ。
色は再びオレンジ色に近い黄色に変化するが、このままでは量が持たない。
俺はふたを閉めた。
「このままやってみて様子を見よう」

俺らは美佳と咲子のもとへ歩き、二人を起こしにかかった。
が、咲子は寝袋にスッポリとはまったまま出てこようとはしない。
サナギかお前は。
美佳の方はもとから目が覚めていたらしく、直人が声をかける前に起き上がった。
美佳に協力を求めるが、「これはだめね」とお手上げである。
仕方がないので咲子は放っておいて昨日の話について美佳に聞いた。

どうやら美佳は俺が担いだ時から寝ていたらしい。
もっとも、どこから記憶がなくなったかは本人もわからないらしいが。
俺と直人は手短にそのことについて話すと、美佳はしばらく考えるそぶりをして口を開いた。
「こうなったらルティアを探すのが定石ね」
俺はてっきり博士のことについて話すかと思ったが、意外と心は強いらしい。
自分の父親が作った組織に自分は狙われている。
それは子にとってどんな苦痛になるのか、俺は知らない。


直人は頷くと、俺たちは朝日が昇ると同時に咲子をリンチで叩き起こした。