現実逃避超空間

作者/ 風そら



74



『ズダンッ!!!』
一発の銃声で、伊藤は右にふらっとバランスを崩した。
見ると左のこめかみから鮮血が噴き出している。

が、倒れる寸前で伊藤はガッと足を地面につけ、それを支えにして直立した。
ククク、と異様な笑い方と共に、伊藤は空を見上げた。

「いやはや、速くなったよ、ずいぶんと」
ふっ、と目の前に影が現れたかと思うと、そこにはほかならぬルティアの姿があった。

「あ、お前あそこで待ってろって……!!」
「待てるか。私が来なかったらお前たちの寿命はあと一分だ」
ルティアは後ろを向かずに言い放った。

金属製の異様な剣を取り出すと、ルティアはそれを伊藤に突きつけた。
バチンッと剣に電撃が走る。

「先日は力を抑えていたからな。今回ばかりは本領発揮だ」
「お好きにどーぞ」
ボッと黒焔をあげた伊藤は、一瞬のうちに悠斗の前にいた。悠斗は腕に炎をまとい、思いっきり殴りかかる。

『ガンッ!!!!!』
黒と金の炎がぶつかり、辺りに火花が散った。
反動で後ろに退いた伊藤に、容赦なくルティアの斬撃が食らわせられる。
が、横に薙ぎ払われた剣を飛び越えるようにしてジャンプした伊藤は、
そのまま火炎弾を二つ、悠斗とルティアに向けようとする。

『ズパシャッ』
突如伊藤の腕に白い水しぶきが上がり、炎は弱まった。見ると咲子が水圧銃を放っていた。

伊藤は空中で空を蹴るようにしてバックステップをとると、5mほど離れた地点に着地する。
が、悠斗は先回りしていた咲子から放水の援助をもらいながら伊藤の左腹部を殴りつけた。

ガッ、と地面を強く蹴る音がすると、いつの間にか伊藤は悠斗たちの10mほど後ろの地面に立っていた。
      、、、、
「やっぱこれじゃまともに戦えねぇな……」
すりすりとわき腹をさすりながら伊藤は頭をかいた。そして次の瞬間――

『ズバアアアアアァァァァンッ!!!!』
「「「!!?」」」

伊藤の全身から黒い稲妻がほとばしった。
コンクリートの地面が切り裂かれるようにして亀裂が入った。

「やっぱこうじゃねぇとな」
そう言い残して伊藤は消えた。

しかし次の瞬間、ルティアの背後に現れた伊藤は、鞭状に変化させた黒い稲妻をルティアの背中に叩きつけた。

「―――――――ッ!!!!」

ルティアが言葉にならないほどに悶絶した。咲子がバッと銃口を伊藤に向ける。
しかし、伊藤はゆっくりと咲子に振り向いた。

「消せるか?それで」
『バシュッ!』
銃口から一筋の水線が発射されたが、それは伊藤の身体に当たると、ジュゥっと言って煙を上げた。

そして伊藤の腕から一本の黒い雷が咲子の右手に命中する。
「った!!」

水圧銃を取り落した咲子はボタボタと垂れる血を左手で押さえつけながら倒れた。

伊藤の眼差しは悠斗に向けられる。


「次はお前か」

その時悠斗は確信した。





――殺される、と――