現実逃避超空間
作者/ 風そら

32
「!!!!!」
「お帰り」
命綱を身体に括り付け、それを車のセンターピラー、つまり中央部にある柱に固定させながら言った。
今回はやけに長いなと思っていはいたが、内容に関する関心はほとんどない。
「千里眼か。何が見えていたんだ?」
ルティアがエンジン部分を何やらいじくりながら言った。
「コンバーター…」
聞きなれない単語を発する美佳を無視するわけにはいかない。
最初に反応したのは直人だった。
「なんだ、それ」
美佳はかぶりを振った。
「わからない、でもそれを政府が持ってて、CSAが取ろうとしてるっていうのは見えた」
「コンバーターは英語で変換機を意味するが」
ルティアが依然顔を上げずにぼそっとつぶやく。
だが気になることがあった。
「そういやお前、どういうタイミングで発動するんだ?それ。
いっつも貧血で倒れたみたいになってるけど」
美佳は顔をしかめた。
「よく分かんない。でもCSAに関することはよく見える気がする」
「そいつは便利だな。ついでにコンバーターの利用目的も見れればいいんだが」
すべての準備を整えた直人がボンネットから飛び降りて言った。
腰には命綱、足にはローラースケートと、車から飛び降りて戦闘を行えるようルティアが提案したものだった。
言うまでもないが直人はこういうことが得意だ。
俺も得意だ。
ただし直人とは得意のレベルが違うのだ。
『ピ―ピ―ピ―』
不意に助手席から機械音が聞こえた。
何かと全員で助手席を見つめるが、しばらくして美佳が「あっ」と何かを思い出したように助手席に飛びこんだ。
出てきた美佳はパソコンを手にしていた。
「さっきの質問タイムの時にCSAの内部情報を奪取してたの。
今クラッキングが終わったところだと思う」
美佳はパチパチとキーを激しく叩き込む。
なるほど、さっきのそれはこういうことだったのか。
「出た」
しばらくして美佳はパソコンの画面をこちらに向けた。
ルティアもエンジンから離れ、画面を見つめる。
画面には『7』という名のフォルダの中に入っている『TS-Virus』と『Report2』というファイルが表示されていた。
「TSウィルス?聞いたことがないな」
美佳はそれに応え、TS-Virusのファイルを開いた。
ファイルはWordで作られていた。

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