現実逃避超空間

作者/ 風そら



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『ザンッ!!!!』
突然、右肩から左腰に掛けて鋭い痛み――というより熱が走った。Tシャツが赤に染まる。

「っぐ、あぁっ!!」
悠斗はガクンと膝を落として胸を手で握りしめた。
血を吸い、重くなったTシャツが絞られ、ポタポタと液体が滴る。

「情けはねぇよ?」
背中から伊藤の声が聞こえた。いや、上から降ってきた――

見上げるとそこには黒い剣――否、雷剣――
振り落される前に、悠斗は反射でカエルのように前に飛んだ。
グシャァッとコンクリートの割れる音が響き渡る。

悠斗は後ろを振り向く。が――






『ドフッ』

その胸に間髪を入れずに槍が突き刺さった。
声を上げずして、悠斗は血を吐いた。そのまま後ろに吹っ飛ばされる。

「情けはねぇって言ったろ。
 正直残念だよ。君にはもうちょい期待してたのに。
 所詮仲間も守れず倒れんのか。アニメっぽくパワーアップぐらいしろよ。つまんねぇ」

伊藤は悠斗に背を向けると、手をひらひらと振った。そして美佳へと歩み寄る。


その姿を見て、悠斗の頭の中で確実に何かが切れる音がした。


「おい……」
悠斗はゆっくりと起き上がり、口を開いた。
伊藤はくっと後ろを向き、悠斗を見据える。

「まだ終わってな『ゴフッ』っ……!」
突如顔面に黒い火花を散らす膝が飛んできた。顎を下から蹴り上げられる。

ゴキッ、という音と共に、悠斗は十数センチ、地面から飛び上がった。


「情けはねぇ、っつっただろ。決め台詞なんかを悠長に待ってられねぇよ」


悠斗は無残に落下する。

「がっ!、ハッ……!」
ズルッと上半身をねじって、悠斗は伊藤の背中を睨みつけた。


もう、どうにもすることが出来ないのか。


もはや体は動かず、炎の「ほ」の字も出ない。
ルティアも、そして咲子も、ピクリとも動かなかった。











ちきしょう――









胸の奥で吐き捨てたその時、遠くから足音が聞こえてきた。
伊藤が後ろを振り返り、遠くを見据える。

駆け足でやってきたその人物は、ひどく汗をかいていた。

「はぁ。。。はぁ。。。お前さん。。。はぁ、はぁ。。。
 老人を。。。あま、り、はぁ、走らせるもんじゃぁ。。。ないぞ、はぁ。。。」

「!、し、ら…m……カハッ!」
悠斗は口をあけたが、思う様に声が出ない。声の代わりに血を吐いた。

白水はゴン、と抱えていたドラム缶を下ろした。

――ベッコベコになってしまっている。


「お前さんあけるぞ!」
白水は、ドラム缶の取っ手に手を付けた。

悠斗も思いっきり声を振り絞る。
「っ、いいぞ!!!」

白水はガンッとふたを開けた。







――破壊音。




閃光があたりを埋め尽くし、悠斗の身体が少しずつ力を取り戻していく。
そして――









          
「……これで、タイだろ」
「…そのようだな」

伊藤は顎をクイと持ち上げた。


立ち上がり、腕を突き出す悠斗の腕には――




黒い、稲妻――


発酵しすぎたTエネルギーは、炎からワンランク上がって雷と化していた。
今、それが悠斗の身体にまとわりつく。

伊藤はフッと笑った。
「…だが、君のその雷は単なる『オプション』。それ以上でも以下でもない。
 俺はほぼ無限にそれを繰り出せる。勝負はもうついているはずだ」

それに対して、悠斗も笑った。

「そんなの、やってみなきゃ分からねぇだろうが!!」





        雷    V  S    雷





その勝敗に、ファレン救出の全てがかかっていた。