二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- (吹雪物語) 世界への挑戦!編 完結
- 日時: 2016/11/08 00:24
- 名前: しろお (ID: Gu5gxE0Z)
時々URLが光っていますが、アフロディのサイドストーリー以外はyoutubeです。なので音量注意です! 世界編からは、吹雪っぽい曲以外にもサイドストーリーのキャラごとのイメージ曲をつけて遊んだりしてますので、よかったら聞いてみてくだされ
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- Re: (吹雪物語) 世界への挑戦!編 ( No.505 )
- 日時: 2013/10/17 21:03
- 名前: 南師しろお (ID: 5oEh1Frl)
今日の国立競技場は満員だった。ガンバ大阪と鹿島アントラーズの決勝戦である。
試合はすでに始まっている。ピッチを横から見渡せる、観客席の最前列に吹雪達はいた。
「吹雪君、足怪我しちゃって残念だったね」珠香が言った。「これから本大会だったってとこなのに」
「うん。でも幸い軽いし、歩けないこともないからすぐ治るよきっと」
そのころ、スタジアムのすぐ外にある試合中継の監視をするモニターカーに、一件の不審な電話がかかってきた。
「おい4カメ、なにしてんだちゃんとうつせ!」
「あのー金子さん」
「今忙しいんだ!」
「あの、電話が……」
「電話?」
「すんません。ちゃんと断ってはみたんですが、さっきから何度も『ディレクターを電話にださないと後悔するぞ』って」
金子は舌打ちをして面倒くさそうに席を立ち、「しょうがねえなあ」と悪態をつきながらヘッドフォンを外して首に降ろす。
「はい、ディレクターの金子ですけど何の用? あんた誰?」
『一度しか言わないからよく聞け。右サイド側正面3の観客席、手すりに乗り出してるガキどもを見ろ』
「はあ? おい、今13カメ空いてるよな。右サイドの観客席映してみろ」
最前列に、四人固まって少年たちがいた。吹雪たちである。
「見たぞ。この子達がどうした? は? 帽子被ってるボウズの……下のグラウンド? ああたしかにボールがひとつ落ちてるな。それがどうしたんだ? 別に珍しいことじゃないだろう」
「そこだ行けー!」
「おわっ」
鹿島アントラーズのチャンスの場面、あわやゴールというところで、興奮した吹雪のつきあげた手が、荒谷の被る藁の帽子に当たり、ひらひらとグラウンドに落ちた。
そのとき、そのすぐ側にあったボールが急にバウンドし、次には音もなくしぼんだ。吹雪は目を細める。
(なんだあのボール……?)
吹雪はリュックサックに入れていた小刀を取り出し、グラウンドに飛び降りた。怪我をしていないほうの方の足だけでバランスよく着地すると、すぐさまボールに駆け寄りそれを手に取った。
(普通のサッカーボール。穴がある、パンクしたのか?)よく見ると、穴は反対の方にもあった。
警備員が吹雪に近づいてきた。
「おい。君だめじゃないか。って……君吹雪くんじゃないか? FFIにでてる……」
「あ、どうも」
「いくら君でも、そんなことをして他のお客さんが真似して入ってきたら危険なんだ。困るよ」
「ごめんなさい。でも、帽子落としちゃって……」
「帽子? ああ、これか」
まさかとは思ったが、吹雪はあるものを探した。ラバーコートの地面を見回すと、一箇所不自然に小さな穴が開いていた。すかさず小刀をその穴に刺す。
「帽子ってこれだろ? 裏口から一旦出て、また席に戻ってく……あ、こらなにするんだ! 勝手なことするな!」
吹雪は警備員に取り押さえられた。しかしその右手には、探し当てたものがしっかりと握られている。それは、銃弾だった。その様子をモニタールームの13カメはしっかりと映していた。すぐにディレクターの金子は、警察に連絡をした。
「発砲ですよ発砲! 誰かがスタジアムで発砲したに違いありません!」
金子は必死に説明をする。中年のひげづら男、鬼瓦刑事が「で、誰が撃たれたんです?」と訪ねた。
「撃たれたのはボールです。右サイド側のグラウンドにあった」
「ふうむ。まだ本物の拳銃かはわからんな。エアガンをつかったいたずらかもしれん。試合は中止せず続行させましょう」
「たぶん、トカレフだと思いますよ」
四人の少年少女らが、どこからともなくあらわれた。そう言ったのは、そのなかの長髪を後ろで結んだ少年だった。
「きみたちはなんだね」
「名乗るとしたら、白恋探偵団、ってところですよ」 中学生くらいの少年が答える。刑事はその顔には見覚えがあった。たしか、FFIに出場していた吹雪だ、と。
吹雪は手に持っていた銃弾を、刑事に見せた。
「警備員も気づいてないみたいだったから、なにかと思ってラバーコートに降りたんです。そして、これを見つけました」刑事はそれを受け取り、まじまじと見つめる。
「7.62ミリ弾。ロシア製か……」
「地球にはこんなことわざがある。火のないところに煙は立たぬ。その銃弾を使えるロシア製の銃は、中国経由でよく日本に回ってくるトカレフと見てまず間違いないね、この緑川リュウジの見たところ。威力殺傷力共に高い銃だけど、銃声が聞こえた無かったのはたぶん、撃ったやつは銃口を加工してサイレンサーを……」
「よく知ってるな君」
「ええ、昔兵士として訓練されてましたから」
「ああ、エイリア学園のレーゼか。とにかくこれが銃弾なのは明白。作戦変更だお前ら、すぐに試合を中止させて観客の安全を確保するぞ」
「だ、だめです!」金子は叫んで鬼瓦を制した。「実は犯人から脅迫があったんです。試合を中止させたり観客を逃すような真似をしたら、無差別に銃を乱射する、と」
「なんだと!? ということは、犯人はなにか要求をしませんでしたか」
「はい。ハーフタイムまでに5000万円を用意しろと……バッグにつめて、置き場所はまた後で連絡すると」
緑川は長いもみあげを指でまわしながら、話を聞いている。試合開始からまだ10分ほどしか経っていない。残り35分、脅迫事件を前にして場の空気は緊迫している。こりゃ面白くなってきたな、緑川はそう思い笑った。
「いったい何者なんだこいつ」荒谷と真都路は若干ひいている。
- Re: (吹雪物語) 世界への挑戦!編 ( No.506 )
- 日時: 2013/10/17 21:01
- 名前: 南師しろお (ID: 5oEh1Frl)
「犯人は東京テレビジョンに恨みを持った人物、あるいはテロリストか。犯人の声に聞き覚えは?」
鬼瓦に訊かれ、金子は「聞き取りづらい、くぐもった声でした」と答えた。
「なるほど。布を当てて識別不可能にしているとわけか。で、5000万円は用意しましたか」
「ええ。今、こっちに向かっているそうです」
「よーし、私服警官を総動員して、観客席に散らばせ。こんど犯人が電話をかけてきたときが勝負だ。すべての携帯電話を使用している客を取り押さえるんだ」
警官達が出動していく。危険だからと吹雪たちはその場を去ろうとしたが、金子が呼び止めた。
「そこのきみ…女の子かい?」と荒谷を見て言う。
「見て判らないの、おじさん」真都路が怒った口調で言う。荒谷は今日はスカートを履いていた。
金子はたじろぐ。
「ああ、ごめんごめん。でもおかしいな、犯人は帽子を被ったボウズと言っていたのにな…」
吹雪は驚いて、鬼瓦の名を呼んだ。
「鬼瓦さん。下手に犯人を取り押さえたら、まずいよ!」
「どういうことだ」
「ボールは僕らの真下にあったんだから、犯人は僕らの近くにいたってことだよね」
「ああ。拳銃の射程距離はたかが知れてるし、下手に外したりしたら死傷者がでるからな」
「だったらなんで犯人は、紺子を男の子だと思ったのかな。スカートを履いているのに」
「そりゃきっと、壁でスカートが見えなかったから…」
「壁で見えないってことは、犯人は僕らの真正面、つまり反対側のスタンドにいたってことだ。でもそこからは拳銃じゃ撃てない。つまり、僕らを監視しながら通話していた人物と、ボールを撃った人物は別。犯人は少なくとも、ふたり以上いるってことだよ…」
「なにっ。おい、総員に伝えろ! わしの命令まで動くなと!」
吹雪は地面を見つめ、考えをまとめる。
どうするんだ、と自分に問いかける。この少ない手がかりで、この競技場の中から、どうやって。
結局のところ、いまだ吹雪たちは警察の近くにいる。
「犯人は双眼鏡を持っているかもしれないね」
と吹雪が言うと、緑川が「ケータイのカメラ機能なんてのもありえるぜ」
さらに荒谷が「望遠鏡とかオペラグラスもそうだよね」と言うが、真都路は「みんな詳しいなあ」と感心するばかりだ。
金子が持っていた受話器が鳴り、空気が張り詰める。
「は、犯人からでしょうか」金子は顔を真っ青にして鬼瓦にたずねた。
「いいですか金子さん、こちらで今ケータイを使用している人物を洗い出しています。できるだけ会話を伸ばしてください」
「わ、わかりました…」
鬼瓦は金子の持つ受話器にケーブルをとりつけ、会話の内容が聞こえるようにした。
「ディレクターの金子です」
『……』
「あ、あのディレクターの」
『なぜすぐ電話に出ない。まさかサツにちくったんじゃねえだろうな』
「いや……その」
『まあいい。前半40分になったら五番ゲートの裏に金を置け。こちらで回収する』
- Re: (吹雪物語) 世界への挑戦!編 ( No.507 )
- 日時: 2013/10/17 21:11
- 名前: 南師しろお (ID: uzSa1/Mq)
四人はスタンドに戻ってきていた。
「ねえ、戻ってきちゃってよかったのかな」
真都路が、獲物を逃した猫のように落胆して背を丸めている。
「いいんだよ。あとは警察に任せておけば」
「……吹雪君って変わったよね。昔はこういうときは、すっごく頭良くて、事件を解決しちゃうくらいすごかったのに」
「犯人は拳銃を持ってるんだ」
おとなしい吹雪が、あきらかに雰囲気を変えて鋭い声で場を制した。「遊びじゃないんだ」
「俺はノリノリだけどな」
緑川は片方の耳にイヤホンをつけて、なにやら携帯電話をいじっている。なにをしてるんだ、と吹雪は訊く。
「刑事の無線に、盗聴器をしかけておいたんだ。内容がわかるぜ」
「むだな詮索はよせよ、緑川くん」
「むだ? 無駄だって? サッカーに関わるものとして俺はこういう事件は許せないね」
「僕らになにができる。いたずらに危険を増やすだけだ。さいあく命を落とすんだぞ」
「俺は今日確信した。俺の人生の意味を。兵士として育てられたこの能力、人助けのために使えるなら本望だ。吹雪お前はいいのか。なにもできないとあきらめたら、救える人だって救えない」
吹雪は家族とのことを思い出し、うなだれる。
「きっとなんとかしてくれる。警察は優秀なんだ」
「いま犯人の捕獲は失敗したようだ。要求どおり現金入りのバッグを置き、五番ゲート裏で片方はつかまえたようだが、もうひとりが電話で脅しをかけ警察も手出しができなくなり解放したらしい。吹雪おれたちは無力だろうか。マークされてない俺たちにしか、できないことがあるんじゃないかこの状況。一寸の虫にも五分の魂だぜ」
吹雪はためらったが、緑川をにらみつけた後、もう片方のイヤホンを奪うようにして耳につけた。
かすかだが、犯人らしき男の声が聞こえる。おそらく犯人の持っていたケータイ電話を通じて、もうひとりの犯人は喋っているのだろう。
『みせしめにひとり殺すか?』
『や、やめてくれ。警察は手を引く』
『いいだろう。だが東京テレビジョン、罰として料金追加だ。そうだな、10億。10億用意しろ』
『そ、そんな無茶な!』おそらくこれは金子の声だろう。
『なんだあ!? 俺の分は払えねえってのか!』
俺の分という言葉に吹雪はひっかかりを覚える。
『それからスタンドにいるデカは目障りだから全員退かせろ。わかってんだろうな、テキトウに撃っても誰かには当たるんだ』
『わ、わかった』
そう答えたあと小声で、鬼瓦は無線を発信する。
『どうだ。さっきの電話のときマークしておいた8人のなかで、今も電話を使っているやつは!?』
『い、いません』
『こちらもです』
『馬鹿な…! なぜだ!』
『どうした? まさかお前らに見つけられるほどマヌケじゃないぜ。それに警官の位置は把握している。スタンドの一列目新聞を読んでいる女、3番ゲートまえマスクをしている男。ほかにも全員だ。もっと言ってやろうか』
「これは……まずいな」
「どういうことなの吹雪くん」紺子が訊いた。
「うん。犯人は要求金額に10億円をさらに上乗せしてきた。今は前半ロスタイムで残りはハーフタイムと後半合わせても一時間ちょっとだ。ひとつの会社がそんな短時間に、十億はたぶん準備できない。犯人もそれをわかってるだろう」
「じゃあなんで……」
「ようやくことの大きさに気づいたみたいだな、吹雪」
「ああ。緑川くんの言うとおりだった。おそらく犯人は最初から誰かを殺すつもりなんだ。金額うんぬんっていうのはミスリード……そっちに警察の気をひかせておいて、おそらく犯人はこの試合中に誰かを殺す気だ。無差別脅迫なんかじゃない、計画殺人なんだ……」
- Re: (吹雪物語) 世界への挑戦!編 ( No.508 )
- 日時: 2013/10/17 21:13
- 名前: 南師しろお (ID: 4VTwAiyE)
後半が始まって、15分が経過している。試合終了まで時間はあと30分しかのこされていない。死のカウントダウンと試合のカウントダウンがまさに同じものとなっている。
『どういうことだ! なぜテレビカメラにも不審人物がうつっていない!』
盗聴器の向こうから鬼瓦の焦る怒声が響いてくる。
『鬼瓦刑事。もうひとりの男は車で逃走しました。追跡はしていますが脅迫されている立場上、あまり派手には通行できず、交通が困難で……』
『仕方ない。しかしなぜ犯人は我々の行動を見て取るようにわかる……! まさかカメラマンが選手を放って観客を……というのは無理があるか……くそっ』
『あの、刑事さん』
『金子さん。お金は?』
『一億ちょっとしか……』
『やはりそうに決まっている。新聞紙かなにかを詰めてごまかせ。45分程度で10億など町をかけずりまわっても日本の銀行ではとても集められないことは犯人も……。待てよ。犯人もわかっているならまさか。本当の狙いは、殺人か!? 本当になにもないですか金子さん、東京テレビジョンないで怨恨ができるような出来事は……』
『はい、私がきく限りではなにも……』
「ねえおじさん」
吹雪が金子の袖を引っ張る。
「犯人からかかってきた電話の声って、みんな同じ人だった?」
「ああ。三回とも同じだったと思うよ」
「じゃあ、電話をしてきた人と、ボールを撃った人が別人なんだから、お金をとりに来た人が拳銃を持ってた人ってことだよね」
「それもそうだ。金をとりにきた男が持っていたケータイから、ヤツの声がしたからな」
「でもお金をとりに来た人って、拳銃持ってなかったんでしょ? 来る前に仲間に拳銃を渡したんだね。ふたりとも持ってたんだったらお金をとりにいくとき持って無いはずないもんね」
鬼瓦はこれをきいて機敏に動き出し、ビデオに残っている映像を確認する。
金をとりにきた男はカメラに映っていたが、特に拳銃をとりだすような素振りはみせずにカメラから外れてしまった。
吹雪は内心焦っていた。もはや試合はロスタイムに突入しているが、犯人はときどき映ってもすぐにどこかへ移動してしまう。
爪をかじる吹雪を横目に、緑川が「焦るなよ」と呟くように言った。「急がば回れだ。人間は時間の流れに逆らうことはできないんだからな」
「わかってる……」
試合は鹿島アントラーズが2−1でリードしている。鹿島の選手が放ったシュートが、ポストをかすめて外にでる。
「ああー!」
紺子と珠香が悲嘆の声をあげた。
「こんなときにのんきだな君たち」と吹雪は半ば呆れた様子で言う。
「ちがうよ! わたしたちちゃんと犯人追ってるんだよ!」と珠香が言い、紺子が「ほら、犯人うつしたと思ったらまたすぐ画面かわっちゃった」と言った。
たしかに13カメに犯人がうつったとき、やたらとすぐに動かしているような気もする。
「しかたがない。残ったものは試合終了と共に観客席に突入しろ!」
モニターカーから刑事が一斉にとびだす。残ったのは、緑川と荒谷、真都路だけだ。
「吹雪は?」
緑川がふたりに訊いたが、ふたりとも首をかしげる。
- Re: (吹雪物語) 世界への挑戦!編 ( No.509 )
- 日時: 2013/10/17 21:19
- 名前: 南師しろお (ID: ynZeEQwF)
グラウンドのピッチ外の部分で、吹雪は歩いていた。
「やっと見つけたよ、おじさん」
吹雪の目の前にあるのは選手が走るピッチと、スタジアムの観客などを撮るテレビカメラマンだった。
「あなたですよね。東京テレビジョンを脅していたのは。あなたならテレビカメラであたりを見回しても不自然じゃないし、ケータイ電話に繋げたイヤホンマイクをインカムの下につけて喋っていても怪しまれない。それに、東京テレビジョンを脅しているのが同じ局の社員だなんて、誰も思わないしね」
「……よくわかったな、小僧」
カメラマンの男の声には、余裕が感じられた。吹雪の体はこわばる。おそらくこの男。
「おじさんのカメラでわかったんだ。犯人がうつったときやたら避けていたでしょ。仲間を護るためにわざと映さないようにしていたんだよね。それに僕たちがいたスタンドをよく見えるのは正面のスタンド。刑事さんたちは僕の下手な推理のせいでそこに集中し、ここにいるあなたにまんまと筒抜けになってしまった」
男は懐から拳銃をとりだし、吹雪に向けた。いったいどれほどの観客がこの事態に気づいているだろうか。試合は今最高に白熱している。
「相棒の銃はいまごろどっかのゴミ箱の中にあるだろうさ。しかしな小僧、お前のおつむが上出来なところで俺たち大人には曲げられない事情ってもんがあんだ。俺の父親は立派な政治家だったんだ。だが悪いやつらに支配されてるマスコミの偏った報道のせいで潰されちまった。ま、ガキのお前には言ったところでわからねえかもしれねえが。倍返しにしてやるのさ! 東京テレビジョンは今日潰れる! なぜなら俺があそこのカメラマンを撃ち殺して世間の評価を滅茶苦茶にしてやるからな」
「やめなよ、おじさん」
「お前に何がわかるんだ! お前みたいなガキに……」
「おじさんだって、僕のこと知らないでしょ」
ガンバ大阪がクリアしたボールがピッチの外にでる。男の頭を越えて、ボールは吹雪の前に飛んできた。
「アブねえ!!」
男はとっさに叫んだが、とうの吹雪はかろやかな身のこなしでボールを受け止め、次の瞬間にはボールを蹴る体勢になっている。
「危ないのはそっちさ!」
吹雪の蹴ったボールはカメラマンの男の腹部に炸裂した。力の抜けた指から拳銃が落ち、吹雪は素早く拾い上げる。
「さすが代表の今野さん。クリアボールだけどいいパスだった」
「てめえ……なにもんだよ」
「僕は吹雪士郎。探偵じゃないよ」
「へっ……馬鹿がきがあぶねえことしやがる。弾が暴発したらどうすんだ」
「撃てないってわかってたよ。セーフティロックがかかってたからね。さっき友達に銃の仕組みを教わったんだ」
男は地面にすわりこみ、試合のほうを見た。
「ここで終わりか」
そう呟くと彼はふところからもう一丁の銃をとりだし、自分のこめかみに当てた。
「自首しなよおじさん。あなたは悪い人じゃない。僕はサッカーのことしかわからないけど、今からだって遅くないんじゃないかな」
「なに言ってんだよガキが。俺はもう終わりさ」
ピッチの中では今、得点が決まった。ロスタイムのわずかな時間の中で、大阪が点をもぎとり2−2と鹿島に追いつき、笛が鳴る。試合は延長戦へともつれこむのだろう。
「言ったとおりでしょ? まだ終わりじゃない」
延長に入ったところで男は自首した。仲間とも事前にケータイで連絡を取りあい自首をうながしたようだ。
白恋探偵団と緑川の前を、犯人の男が連れられていく。
ふいに男が吹雪に声をかけた。
「よおボウズ。おまえ、試合が延長にもつれこむってわかってたのか」
鬼瓦の睨む視線が痛いが、吹雪は答えた。
「まさか。サッカーの試合がどうなるかなんて、誰にもわからないよ。おじさんもそう思うでしょ」
「ああ。そうだな、ありがとな。実は俺にはお前くらいのガキがいるんだ。サッカーやってっから、もしかしたら会うこともあるかもな」
病室に、吹雪の手柄を祝う感謝状が飾られた。
探偵団でひさびさの快挙を祝っているところに、吹雪の苦手とする看護婦の高橋が部屋に入ってくる。おばさんと呼ぶべきかお姉さんと呼ぶべきか迷う年齢であるが、吹雪はご機嫌とりのためお姉さんと呼ぶことにしている。暗い雰囲気の、怪しげな女性である。
「ふぶきくーん……?」
「あ……た、たかはしさん……ど、どうも」
「吹雪君、この女の人は誰だっぺ!?」
紺子の喋り方はときどきなまることがある。
「このひとは高橋ミナコさん。看護婦なんだ」
「看護婦だっぺ!? どうみても病院を徘徊する幽霊……」
「ふぶきくうん……? なんか私『サッカーボールを蹴って悪い人を捕まえた』ってきいたんだけどぉ……?」
「あ、えっと……でもあんまり痛くなかったしたぶん平気なんじゃないかなーって、あはは」
「足悪くするから勝手なことしちゃだめって言ってるでしょぉ……んふふ、かわいいんだからもう……そんな顔したって許さないわよぉ」
「あ、あの……またアレやるんですか」
「そうよお……オシオキよぉ。さあ服を脱いでこっちにいらっしゃい……うふふ。今日はここで全部脱ぎなさい、全部。そうすれば女の子たちは裸でうろつく吹雪くんに幻滅してあなたは私だけのものになるのよぉぉぉぉ!!!」
「ひいい! や、やっぱり高橋さん怖い!」
熊殺しと恐れられる吹雪が、高橋を目の前に本気で泣いている。
「ふ、吹雪君になにするっぺ!? まさか破廉恥なことじゃねえべ!?」
「いくら看護婦さんでも、抜け駆けは私たち白恋探偵団が許さないです! むしろ吹雪くんが裸で歩いてたら私は……」と珠香まで言い出す始末である。
「ったくうるせえよなあ……俺あんまり今回活躍できなかったし、次回こそは……名探偵リュウジが……ぶつぶつ……」
高橋という危機が迫る白恋探偵団に、明日はあるのか!
次回こうご期待
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