二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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【完結】風林火山プリキュア!
日時: 2017/08/01 13:12
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=31539

初めまして!愛と言います!
今日からは、オリジナルのプリキュア、通称オリキュアの小説を書きたいと思います!
初の試みなのでグダグダとかになると思いますが、暖かい目で見てやって下さいw
よろしくお願いします!

追記:上記URLにて風林火山プリキュアの劇場版という名目の中編を載せています。良かったらそちらも見てやってください。

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Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.226 )
日時: 2017/07/09 17:14
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第34話「目指せ不動の生徒会長!蜜柑に清き一票を!」3

「……え?」

 つい、私は聞き返した。
 それに、皐月ちゃんは続ける。

「蜜柑は、まず……生徒会長になりたいんですか?」
「うっ……」

 つい、私は目を逸らした。
 なりたいかなりたくないか聞かれると、なりたくない……。
 でも……私は、楽しそうにポスターのデザインを考えている朱莉ちゃんの顔を見て、自分の頬が緩むのを感じた。

「なりたくは、ないかな……」
「じゃあ、なんで嫌だとハッキリ言わないのですか?」
「……朱莉ちゃん、かな……」

 私の言葉に、皐月ちゃんは首を傾げる。
 彼女の反応に私は苦笑しつつ、続けた。

「朱莉ちゃん、あんなに楽しそうに、私の為に考えてくれて……あんなに期待されてるのに、ここでやめる……なんて、言いにくいし」
「……では蜜柑は、朱莉のために生徒会長になるのですか?」
「え……?」

 ついキョトンとしてしまった時、皐月ちゃんは身を乗り出してきた。

「蜜柑が生徒会長になってやりたいことは……無いのですか?」

 その言葉に、私は口を噤んだ。
 生徒会長になって……私がしたいこと……。

「蜜柑が、朱莉に言われて仕方なくやっているようにしか見えなくて……もしその程度の気持ちなら、秀樹さんにも失礼ですし、生徒会長選挙に出ない方が良いと思うのです」
「私、は……」

 私がしたいことって……何なんだろう……。
 あぁ、そっか……私には、生徒会長になってやりたいことがないんだ。
 生徒会長になっても、これじゃあ意味がない。

「今すぐ決断しろ、とまでは言いませんが……真剣に生徒会長を目指している人もいるのですから、もう少しその人たちの気持ちも考えるべきかと……」

 その言葉に、私は俯く。
 生徒会長になって私がしたいこと、か……。

「ていうか、こういうグッズも良いけど、挨拶とかもして認知度を……あ〜! やることがいっぱいだぁ!」

 その時、朱莉ちゃんがそう言って頭をガリガリと掻いた。
 せわしないなぁ、相変わらず……でも、それが私の為にしてくれていることだから、何も言えない。
 ……せめて、朱莉ちゃんの期待には応えたい。
 でも、皐月ちゃんの言う通り、それだけの理由でやるのは違う気がする。

「私がしたいこと……か……」

 もう一度呟いてみても、答えは出ない。
 朱莉ちゃんなら、ここで考えても仕方ない、と振り切れるんだろうけど、私にそこまでの潔さはない。
 とはいえ、どうすることもできなくて、ただ笑顔で悩みを隠すだけだった。

Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.227 )
日時: 2017/07/09 22:36
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第34話「目指せ不動の生徒会長!蜜柑に清き一票を!」4

「できた!」

 それから数日後の昼休憩。
 朱莉ちゃんのその言葉を聞いて、私は肩から力が抜けた。
 生徒会長選挙用のスピーチの原稿が出来上がったのだ。

「できたって……もう生徒会長選挙は明日よ? 覚えられるの?」
「あ、うん……これくらいの原稿なら余裕だよ」

 不安そうに聞いてくる千速ちゃんに、私はそう言ってみせる。
 すると、千速ちゃんは「本当かなぁ?」と訝しむように聞いてくる。
 なんで疑うのかなぁ……。

「この原稿……本当に蜜柑が考えたのですか?」

 皐月ちゃんの問いに、私は首を傾げる。
 彼女は、それに少しムスッとした表情をした。

「だって、こんなのただの綺麗事の羅列でしかないじゃないですか」
「そ、そんなこと……」
「皐月……どうしたの、そんな、急に……」

 心配そうに聞く千速ちゃんに、皐月ちゃんはハッとする。
 私はその様子に苦笑しつつ、書き終えた原稿を見る。
 綺麗事の羅列……確かにそうだ。
 どこにでもありふれた、偽善者の戯言でしかないだろう。
 でもしょうがない。まだ、私がしたいことが見つかっていないのだから。

「まぁまぁ……とりあえず、そろそろ授業始まるし、今日のところはこの辺でお開きにしようよ」

 朱莉ちゃんの言葉に、皐月ちゃんは未だに不満そうな表情をしつつ、自分の席に向かっていく。
 彼女の後ろ姿を眺めつつ、私は原稿を見つめた。


 翌日。
 結局あれから特にやりたいこともなく、選挙の演説の日がきた。
 その日は一日中胃痛が酷く、昼食すらも残してしまった。

「ねぇ、蜜柑……本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だよ……うん……」
「……そうは思えない顔色だけど」
「え、そんなに?」

 いよいよ演説会場の体育館に向かう道中。
私はそう言いつつ、朱莉ちゃん達に顔を向けてみた。
 朱莉ちゃんはそれに大きく頷き、隣では、皐月ちゃんが曖昧な笑みで私を見ている。
 ……そんなに、なのか……。
 呆然としていた時、トントンと肩を叩かれた。
 見ると、そこには三年生の女の人が立っていた。

「えっと、立候補者の遠山蜜柑さん……ですか?」
「えっ? はい……」
「立候補者の方はステージに上がってもらうので、こちらに来てください」
「あ、わかりました」

 私はそう返事をしつつ、朱莉ちゃん達の方に顔を向けた。

「頑張ってね、蜜柑っ」

 拳を作って言う朱莉ちゃんに私は頷き、女の先輩についてステージの上手の方に案内される。
 そこにはすでに岩室君がいて、私を見てニコッと爽やかな笑顔を浮かべた。

「遠山さん」
「あ、ごめん。待たせちゃったかな」
「ははっ、集合時間も何も無いだろう? それに、演説の開始時間はまだだからね。遅れてもいないし」
「そ、そっか……」

 私はそう言いつつ、彼の手元に視線を向ける。
 彼は、恐らく原稿が書いてあるであろう紙を持っていて、それを確認しているようだった。
 念のため持って来ていて良かった……。
 私も紙を取り出し、それを見る。
 一応暗記はしているが、緊張のあまり忘れる可能性が高いから。

「それにしても、まさか遠山さんが立候補するなんてね。意外だよ」

 しばらくして、岩室君はそう口を開いた。
 それに、私は「そうかな?」と聞き返した。
 すると、彼は頷いた。

「あぁ。君は僕が記憶している限りでは、すごく引っ込み思案で大人しい性格だろう?」
「うん……って、私のこと覚えてるの?」

 私がついそう聞くと、岩室君は笑顔で頷いた。

「君だけじゃないさ。一応、全校生徒の顔と名前とクラス。それから、簡単な性格の特徴くらいは覚えているよ」
「すごいなぁ……私なんて、同じ学年でも自信ないくらいなのに」
「君は仲がいい子とはあまり話さないタイプだからね。……だからこそ驚いたんだよ。君が、こうして全校生徒の前で発表することを立候補したということが」

 その言葉に、私は曖昧に笑っておいた。
 私が自分から立候補したんだと勘違いしているのだろう。
 ここは、ちゃんと訂正をしておかなければ。

「あはは……実を言うと、私が自分から立候補したんじゃないの」
「そうなのかい? ……もしかして、火場さん?」
「まぁ、ね……あはは……」

 誤魔化すように笑っていると、岩室君は優しく微笑んだ。

「でも、人に決められたからって、逃げずにこうしてこの場に来ているじゃないか。その勇気はとてもすごいよ」
「そうかなぁ……」
「あぁ。たとえ結果がどうあれ、その勇気は誇れるものだ」
「……何かそれ、私が落選することを前提に話していない?」

 私がつい指摘すると、岩室君は「いや、そんなことは……!」と狼狽する。
 その様子に笑いつつも、私は、緊張が多少和らいでいるのを心の中で感じていた。

Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.228 )
日時: 2017/07/10 21:24
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第34話「目指せ不動の生徒会長!蜜柑に清き一票を!」5

『それでは、最初に岩室秀樹君よろしくお願いします』

 アナウンスの言葉に、岩室君は「はいッ」と返事をして立ち上がり、教壇? の前まで歩いて行く。
 私はその様子を見つめながら、ゆっくり前方に視線を向けた。
 全校生徒いるだけあって、大勢の人間がただ一点、岩室君だけを見つめている。
 自分の立場でもないのに、手に汗をかいてしまう。
 こんなことで大丈夫なのかな……次私なのに……。

「やれやれ……くだらないな」

 その時、ステージ脇の方から声がした。
 聞き覚えのある男性の声に、私はすぐにパイプ椅子から立ち上がり、そちらに視線を向けた。
 そこには、赤い和服の男が立っていた。

「……貴方はッ……」
「全く……この程度の小集団の長を決めて何になると言うんだ。結局俺達の手で支配されるというのに」
「遠山さん下がってッ!」

 岩室君はそう言って私の腕を引き、私と、男の間に立つ。
 岩室君の態度に男は「やれやれ……」と呆れたように漏らす。

「そうやって、力のない弱者が粋がって、目障りだな。どけ。俺はお前の後ろにいる強者にしか興味は無い」
「遠山さんが強者……?」
「貴様が知る必要などない」

 男はそう言うと腕に影を纏わせた。
 私はそれに寒気が走り、咄嗟に岩室君の腕を引く。

「邪悪なる魂よ! 我に仕えよ! いでよ、オンネーン!」

 そう言うのと同時に、マイクの音を流すスピーカーがオンネーンと化す。

「な、なんだあの化け物は……」
「岩室君。それより、全校生徒の避難を!」

 私の言葉に、岩室君はハッと我に返って、全校生徒達の方に視線を向ける。
 生徒のほとんどは混乱状態で、我先にと出口の方に向かっている。
 先生達が誘導はしているが、それでも、やはり限度がある。

「でも、遠山さんは……」
「私は自分でなんとか逃げられるから……お願い」

 岩室君の目を見ながら、そう訴える。
 彼はしばらく困惑したように私と全校生徒を交互に見ていたが、やがて、コクッと頷くと、マイクを取ってステージから飛び降りる。

『皆さん落ち着いてください! 先生の指示に従って、順番に出口を出て!』

 ここに使われていたのがワイヤレスマイクで良かったと思いつつ、私はステージ脇に行く。
 するとそこには、すでに三人がいた。

「蜜柑ナイス。岩室君いたから中々変身出来なかったよ」

 朱莉ちゃんの言葉に、私は苦笑する。
 そしてすぐに全員でアウラシュリフトロレを構え、オンネーンに視線を向けた。

「それじゃあ……行くよ、皆」
「「「「プリキュア! フォースオーラチェンジ!」」」」
「侵掠すること、火の如し! キュアフレイム!」
「疾きこと、風の如し! キュアウィング!」
「動かざること、山の如し! キュアモンテ」
「徐かなること、林の如し! キュアフォレスト!」
「風!」
「林!」
「火!」
「山!」
「「「「プリキュア!」」」」

 変身を終えた瞬間、ステージに置いてあったパイプ椅子が投げ飛ばされる。
 私達はそれを躱し、オンネーンに視線を向ける。
 すると、オンネーンは力を込めるような体勢をした。
 ……?

「あのオンネーン……何してるのかしら?」
「さぁ……? とりあえず、今の内に!」

 駆けだす朱莉ちゃんに、私は、胸騒ぎがするのを感じた。
 すぐに「危ないッ!」と叫び、咄嗟に朱莉ちゃんを背中から押し倒して伏せる。
 次の瞬間、鼓膜が破れそうなほどの爆音が響いた。
 咄嗟に伏せたので直撃は免れたが、背後から壁が崩れるような音が聴こえて、私はすぐに体を起こした。

「まさか、音だけで壁が……」

 ゆっくり起きながら皐月ちゃんが言った言葉に、私は振り向く。
 そこには、壁に空いた大きな穴が……。

「な……!」

 それを見た瞬間、私は血の気が引くような感覚がした。

「とにかく、少しでも物を破壊しないように、外に出て戦おう!」

 朱莉ちゃんの言葉に、私達はすぐに飛び出す。
 その間私の脳裏には、破壊された壁の光景が焼き付いて離れなかった。

Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.229 )
日時: 2017/07/11 22:04
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第34話「目指せ不動の生徒会長!蜜柑に清き一票を!」6

 外に出た瞬間、オンネーンの音波攻撃のようなものが飛んでくる。
 咄嗟に避けると、音波は私の頬を掠め、体育館の壁をまた粉砕する。
 オンネーンを倒せば修復することは分かっている。
 でも、なんでだろう……この嫌な感覚は……。

「モンテ! 危ない!」

 その時、千速ちゃんがそう言って私の腕を引く。
 何が起こったのか理解するよりも前に、私がいた場所にオンネーンが攻撃を仕掛けているのが見えた。

「ごめん、ありがとう……」
「全く、気を付けなさいよ?」

 千速ちゃんの言葉に、私は「ごめんごめん……」と笑いつつ、オンネーンに視線を向ける。
 このオンネーン……一筋縄じゃいかない。
 それこそ、千速ちゃんや朱莉ちゃんの技で牽制できれば良いのだが、音波での攻撃がかなりの威力を誇るため、恐らく相殺される可能性が高い。
 とはいえ、向こうは連発できるわけではなさそうなので、せめて少しタイミングをずらせば……いや、こちらもレジェンドクロックを渡す時間などでタイムラグがあるし、これはきっとうまくいかない。
 サンダーブレスやデュアルバーストでは力不足だし、どうすれば……。
 その時、オンネーンの攻撃がこちらに向いているのが分かった。

「モンテ!」
「動くこと、雷霆の如し! サンダーブレス! モンテ!」

 咄嗟にサンダーブレスを装着する。
 直後、オンネーンの音波攻撃がこちらに飛んでくるのが分かった。

「不動の山よ! 我に集い、力と成れ! プリキュア! モンテムーロ!」

 咄嗟に壁を作る。
 しかし、サンダーブレス如きの力で敵うわけもなく、その壁はあっさり破壊されて、私の体ごと吹き飛ぶ。
 やがて、バゴォッ! という粉砕音と共に背中に衝撃を受け、気付いたら私は、学校の二階にある私達の教室の中に突っ込んでいた。

「モンテッ!」

 遠くから朱莉ちゃんの声がする。
 早く行かないと……。そう思うのだけれど、それより、私は自分のせいで惨状と化した教室を、しばらくの間呆然と見つめていた。

「あぁ……ここは……」

 掠れた声が漏れる。
 全てが崩れた瞬間、まるで、そこから最後のピースを見つけ出したかのように、私の中で何かがはじけた。
 あぁ、そっか、私は……———。

「皐月ちゃん……私がしたいこと……見つけたよ……」

 私はそう呟き、自分の体で破壊され大きな穴が空いた壁の前に立つ。
 すると、オンネーンがこちらを見て、音波攻撃の構えに入る。
 私はサンダーブレスを構え、そして……叫んだ。

「レジェンドクロックッ!」

 すると、目の前がバチィッ! という音と共に弾け、レジェンドクロックが現れる。
 直後、オンネーンの音波攻撃がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。
 私はサンダーブレスを付けた手をレジェンドクロックに掲げ、叫ぶ。

「不動の豪山よ! 我に集い、力と成れ! プリキュア! モンテスクード!」

 そう叫んだ瞬間、目の前に巨大な岩の盾が現れる。
 一つの丸い岩を囲うように、いくつかの岩が付いたそれは、まるで、岩でできた巨大な花のようだった。

「わ……」

 つい、それに私は見惚れる。
 直後、その盾によって音波攻撃は弾かれ、霧散する。
 キィンッ……という微かな音が響く。

「皆……今だよっ!」

 私はそう叫び、校舎から飛び降りて三人の元に駆け寄った。
 そして、レジェンドクロックを囲う。

「「「「今、大いなる伝説よ! 我等に力を貸し給え! レジェンドクロック!」」」」

 そう叫んだ瞬間、レジェンドクロックから光が飛んできて、三人の手首と私のサンダーブレスに絡まる。
 やがて、それより派手な腕輪に変わるのを見ながら、私たちは次の言葉を叫んでいく。

「侵掠の業火よ!」
「疾き烈風よ!」
「不動の豪山よ!」
「徐かなる森林よ!」
「「「「今、四つの力よ! 我等に集い、力と成れ!」」」」

 すると、巨大な手裏剣が出てきて、私達はそれに乗って飛んでいく。
 やがて、オンネーンの頭上に行くと、私達は叫んだ。

「「「「プリキュア! オールターンオフイリュージョン!」」」」

 そう叫んでから手裏剣から離れると、それはゆっくりと落下していく。
 私達はそれに背を向けて着地し、胸の前で指を組む。

「「「「忍ッ!」」」」

 背後から爆発音がするのを聞きながら、私は修復されていく校舎を見つめていた。

「蜜柑……なんだか晴れやかな顔をしていますね?」

 そう言って微笑む皐月ちゃんに、私は頷いた。

「うん。やっと見つけたの。……私が、生徒会長になって、したいこと」

Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.230 )
日時: 2017/07/12 22:36
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第34話「目指せ不動の生徒会長!蜜柑に清き一票を!」7

 あれから学校は無事に謎の力で修復し、生徒会長選挙は再開された。
 岩室君のスピーチは無事に滞りなく済み、やがて、私の番になる。

『遠山蜜柑さん、お願いします』

 アナウンスが聴こえ、私はパイプ椅子から立ち上がり、少しずつ、ステージの真ん中の教壇のようなものの前に立つ。
 呼吸が荒くなり、手に汗を掻く。
 心臓の音がやけに大きく頭に響くのを感じながら、私は、マイクの前に立った。
 ゆっくりと深呼吸し、お辞儀をする。

『ガンッ』

 体育館に響く音と、頭に感じる鈍い痛み。
 私は、自分が頭をマイクにぶつけてしまったことを知る。
 顔を上げると、まばらに笑い声が聴こえてくる。
 極度に感じていた緊張もあってか、私は、自分の頭の中が真っ白になるような感覚がした。
 そこで、とあることに気付き、血の気が引くのを感じた。

 どうしよう……スピーチの内容、忘れた……。

「遠山さん……大丈夫?」

 背後から岩室君の声がする。
 しかし、私はそれに答える余裕がない。
 微かなざわつきが訪れるのを感じつつも、私は、視線を彷徨わせ、無意識に自分達のクラスの方を見た。
 すると、ちょうど朱莉ちゃん達を見つける。
 彼女達の姿を見た瞬間、私は、肩の荷が下りるような感覚がした。

 そうだ……スピーチの内容を覚えていないのなら、今考えれば良い。
 朱莉ちゃんに流されて、弱気なまま考えた綺麗事の羅列じゃない。
 戦いの中で……ううん。それだけじゃない。今までの学校生活で見つけた、私の答えを。
 生徒会長になって、私がしたいことを、伝えるんだ。

「『この度生徒会長に立候補させていただきました。二年一組、遠山蜜柑です……』」

 とりあえず、自己紹介をする。
 喉から絞り出した声は、マイクを通して、スピーカーにより全校生徒に届く。
 私はそれを聴きながら一度深呼吸をして、また口を開いた。

「『私は……小さい頃から、何をしてもダメダメで、運動もできないし、鈍くさくて、いつも人に迷惑を掛けてばかりで……』」

 私がそう言った瞬間、朱莉ちゃん達が驚いたような表情をしたのが見えた。
 膝が震える。考えが上手く言葉にできない。
 でも、伝えなくちゃ……私の言葉を……意志を……!

「『でも、小さい頃から、私を支えてくれた友達がいます。今年に入ってからは、新しい友達もできて、彼女達は、鈍間な私を待ってくれました。でも、前に立つのではなく、隣に並んで、一緒に笑い合ったり、時には、喧嘩をする時もあるし……私はそんな、友達との当たり前の日常が大好きです。そして、そんな日常が溢れるこの学校が大好きです。だから、私が生徒会長になったら、大好きな学校を……そして、皆の輝く笑顔を守りたいです』」

 言い切った。
 一息でかなり喋った気がする。
 私は深呼吸をして、ゆっくりと口を開く。

「『……終わりです』」

 そう呟くように言って、頭を下げる。
 次の瞬間、拍手が沸き上がって、空気が揺れる。
 すると、体から力が抜けるような感覚がして、咄嗟に教壇の縁を掴んで踏みとどまる。

「すごく良かったよ、遠山さん」

 背後から声を掛けられて振り返ると、岩室君がそう言って手を差し出してきていた。
 私はそれに「ありがとう」と答え、彼の手を握り返した。


「ついに選挙結果発表かぁ〜」

 廊下を歩きながら、朱莉ちゃんはそう言う。
 それに、私は苦笑する。

「多分ダメだと思うけどね……でも、仮に落ちていても、私、自分の気持ち伝えられたから、満足かな」

 私の言葉に、朱莉ちゃんは「むー……」と頬を膨らませた。

「蜜柑の演説、とても良かったですよ」

 皐月ちゃんの言葉に、私は、なんだか急に恥ずかしくなって、つい朱莉ちゃんの背中に隠れた。
 その様子に、千速ちゃんが呆れたように笑った。

「変わらないわね、蜜柑は。って、そんなことしている内に、着いたけど」

 その言葉に、私は顔を上げる。
 見ると、そこには掲示板に、投票結果らしきポスターが貼ってあるのを見つけた。

「おー! さぁて、結果はどうなってる〜?」

 興味津々に身を乗り出す朱莉ちゃんに苦笑しつつ、私は彼女の肩越しにポスターを見た。
 そして、フゥ、と息をついた。

「なんで落ちてるの!?」
「割と接戦なんだけどねぇ……数票差って感じ?」
「まぁ、仕方ないよね。岩室君、カリスマあるし……私より向いてるよ。生徒会長」
「でも〜!」

 不満そうに言う朱莉ちゃんに苦笑しつつ、私は口を開く。

「でもね、私はこれで良いんだ。流石に生徒会長なんて荷が重すぎるし……今回の件で、大事な物が分かった気がするから」
「遠山さん」
「ひゃぅッ!?」

 唐突に名前を呼ばれ、私は変な声を漏らした。
 振り向くと、そこには、軽く手を挙げてこちらに歩いてくる岩室君の姿があった。

「岩室君……」
「まさか、蜜柑に自分の当選を自慢しに来たの!?」

 威嚇するように言う朱莉ちゃんに、岩室君は「僕はそこまで腹黒じゃないよ……」と言って苦笑した。
 私は朱莉ちゃんを宥めつつ、前に出る。

「岩室君。当選おめでとう」
「ありがとう……って、そんな話がしたいんじゃなくて」
「……?」

 話を遮る岩室君に、私は首を傾げた。
 彼はその様子にフッと笑って、ポスターに視線を向けた。

「今回、正直、遠山さんとここまで接戦になるとは思わなかった」
「まぁ、それは私も……」
「でしょう? これは、きっと君の想いの力だと思うんだよ。実際、僕も、遠山さんの演説にはとても感動してね」
「はぁ……?」

 話の意図が掴めず、つい、間抜けな感じの返答をしてしまった。
 岩室君はそれに少し苦笑したが、すぐに真面目な感じの顔になる。

「それで、実は、生徒会副会長は、会長の推薦で決まるんだ」
「……?」
「基本的には生徒会の中から選抜することがほとんどなんだけど、一般生徒から選ぶこともあって、それで……」

 そこまで言うと、彼は少しだけ息を整えるようにして、口を開いた。

「生徒会副会長を、遠山さんにしてほしいんだ」

 それを聴いた瞬間、私は呼吸が一瞬止まった。
 予想外の出来事に、しばらく放心する。

「えっと……私なんかで、良いの?」
「あぁ。君なら、きっと一緒にこの学校を引っ張っていけると思うんだ。……ダメかな?」

 彼の言葉に、私は朱莉ちゃん達に視線を向けた。
 皆、笑顔でただ見守っている。
 ……私の判断を、きっと、信じてくれているのだろう。
 やっぱり、友達がいたら……安心する。

「私で良いのなら……喜んで」
「本当!? 良かった……」

 安心した様子で言う岩室君に、私はつい、クスッとだけ笑った。

「それじゃあ、まず色々と書くものがあるから……とりあえず生徒会室に来てもらえるかい?」
「うんっ」
「えっ!? 今から一緒に弁当食べるんじゃ……!?」
「朱莉ちゃん……もしかして、生徒会の忙しさとか考えずに推薦したの?」
「うッ……」

 どうやら図星だったらしい。
 分かりやすい反応を示す朱莉ちゃんに苦笑しつつも、私は岩室君について歩き出す。

「ちょッ……蜜柑カムバーック!」

 背後からの声に、私と岩室君はほぼ同時に苦笑を浮かべた。


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