二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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【完結】風林火山プリキュア!
日時: 2017/08/01 13:12
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=31539

初めまして!愛と言います!
今日からは、オリジナルのプリキュア、通称オリキュアの小説を書きたいと思います!
初の試みなのでグダグダとかになると思いますが、暖かい目で見てやって下さいw
よろしくお願いします!

追記:上記URLにて風林火山プリキュアの劇場版という名目の中編を載せています。良かったらそちらも見てやってください。

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Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.150 )
日時: 2017/06/02 15:30
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第22話「徐かなる林!キュアフォレスト生誕!」1

<皐月視点>

 ふと、瞼を開くと、見覚えのない天井が広がっていた。
 ここは……?
 そう思っていた時、部屋の扉が開く。

「皐月はまだ目を覚まさないライ?」
「だから分からないって。気長に待つことしかできな……」

 部屋に入って来たのは、小動物を頭に乗せた空色の髪の少女。
 彼女達の顔を見た瞬間、私は、自分が元に戻れたことを確信した。

「えっと……おはようございます。千速、ライデン」

 私が名前を呼んだ瞬間、千速は無言で私を抱きしめてきた。
 突然のことに驚いていると、少し体を離して、不安そうに千速が私の顔を覗き込む。

「本当に……本当に皐月なんだよね……?」
「そうです。皐月です。……ずっと迷惑をかけてしまい、申し訳ありません」
「うわぁぁぁんッ!」

 まるで子供のような泣き声をあげて、千速は縋りつくように、さらに強く抱きしめてくる。
 私はその頭を撫でて、彼女の頭の上にいるライデンに視線を向けた。

「ライデン……ただいま」
「皐月……皐月ぃ!」

 ライデンまで抱きついてきて、私は少し困惑しつつも、胸が熱くなった。


 それから千速が落ち着いたのは、私の様子を見に来てくれた朱莉さんと蜜柑さんに泣いているところを見られてからだ。
 未だに赤面し、私の隣で不貞腐れている姿は、昔を思い出す。

「それにしても、まさか冥姫が皐月さんだなんて、未だに信じられないよ。……何があったの?」

 朱莉さんの言葉に、私はグッと唇をかみしめる。
 すると、ソッと手を握られた。

「千速……」
「もし思い出したくないなら、無理しなくても良いからね?」
「そうだよ。……皐月さんだって、辛かっただろうし……」

 蜜柑さんの言葉に、私は少しの間口を噤んだ後、「いいえ」と千速の手を握り返した。

「大丈夫です。少しでも、罪滅ぼしをしなければいけませんから」
「そっか……もし辛かったら、言ってね」
「ありがとうございます」

 千速の手を離すと、私は深呼吸をして、口を開いた。

「私達がいた村では、幽鬼軍の元になったであろう怨念が封印されていた祠があったんです。ある日、一人で外出していた私は、ついその祠を開けてしまい……中に引きずり込まれました」
「でも、そんな悪い祠なら、入ったらダメだってお母さんとかが説明したハズじゃぁ……」

 朱莉さんの言葉に、私は「確かにそうですねぇ」と呟いた。
 すると、千速が苦笑した。

「うーん……実は、その祠が悪いところだっていうのは、村では十一歳になった時に教えられるんだ。それまでは、基本妖精と生活を共にするから、祠には近づかないだろうって。子供って、絶対近づくなって言われると近づきたくなるものだし、言いつけをちゃんと守る年齢になるまではね」
「あの時はライデンが近くにいなかったんです。元々、祠自体も村の外れにありますから」

 私の言葉に、朱莉さんは「なるほどねぇ」と納得した声をあげた。

「それで……その後は?」

 蜜柑さんの言葉に、私は静かに頷いた。

「それからは、怨念からできた影に体を取り込まれ、私の記憶から奴等は自らの体を作り上げました。それから、まるでついでのように、私の記憶を消し……冥姫として……」
「そんなことがあったのか……」

 朱莉さんは、そう言ってうんうんと頷いた。
 しかし、すぐにパンッと手を打った。

「でも! もう皐月さんは私達の仲間だもん! これからは四人で戦いを……」
「あ、その件……なんですけど……」

 私の言葉に、三人は不思議そうな顔をしてくる。
 それに私は……真っ黒に染まったアウラシュリフトロレを取り出し、ソッと床に置いた。

「これは……」
「冥姫の時に使っていたアウラシュリフトロレ……です……」
「……そっか、怨念に染まって……」

 蜜柑さんの言葉に、私は「申し訳ありません……」と頭を下げた。
 しかし、すぐに朱莉さんが「良いよ良いよ!」と断る。

「皐月さんだって悪気があったわけじゃないんだし! 林の書が無いなら無いで、私達三人で戦うよ!」
「でも……」
「大丈夫。……皐月さんには、もう無理をさせたくないだろうし」

 蜜柑さんは、そう言って千速に視線を向けた。
 千速はそれに苦笑し、肩を竦めた。

「そういうことだから、皐月は気にしなくても良いよ。元々三人で戦っていたわけだし」
「でも……」

 私はそう言いながら、自分の手を見つめた。
 今まで迷惑を掛けた分三人の力になりたいのに、なんで私は、戦えないのだろう……。

Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.151 )
日時: 2017/06/03 16:07
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第22話「徐かなる林!キュアフォレスト生誕!」2

「冥ちゃん……いなくなっちゃったんだ」

 気怠そうに言うオルコの言葉に、オウガは「そうだなぁ」と返答する。
 すると、オルコはスクッと立ち上がった。

「……ん? どうした?」
「ちょっと散歩。ついでに……冥ちゃんを連れ戻そうかなって」

 オルコはそう笑顔で言うと、空間に穴を作り、その中に飛び込んだ。

−−−

 それから朱莉さん達が帰り、手持ち無沙汰になった私は、ベッドに倒れ込んだ。
 千速に聞いたのだけれど、どうやら、彼女がお世話になっている和子さんという老婆に頼み込んで、私も居候させてもらえるらしい。
 食費が一人分増えるというのに、なんと寛容な人だろうかと、少し驚いてしまった。
 ……それはさておき。

「戦いにも参加できず、ただこうして居候するだけ……屑ですね、私は」

 自分で言ったその言葉は、やけに胸に突き刺さった。
 ……よく考えたらこの状況は、過去の私じゃないか……。
 親が過保護だった、というのもあるが、家から出るわけでもなく、ただひたすら勉強かお守りを編むかをするだけで、家の役になんて立たなかった。

「あの頃と……まるで同じですわ……」

 そんな私を外に連れ出してくれたのが……千速だ。

「そういえば、千速は?」

 同じ部屋ではないことは分かっているけど、まだ未知のものが多い世界で一人になるのは、なんだか危険な気がする。
 ライデンは近くにいるけれど、幽鬼軍を相手にした場合は、少し心細い。

「ライデン。千速がどこにいるか、分かりますか?」
「うーん……今は自分の部屋にいると思うライ。この部屋のすぐ隣ライ」
「そうですか」

 私はそう言いながら、立ち上がる。
 どうやら私がいたのは角部屋らしくて、部屋を出ると、すぐ隣に扉があった。
 扉に白い紙が貼ってあり、そこには、少し汚い文字で『千速』と書いてあった。
 それを見た瞬間、私は自分の顔が綻ぶのを感じた。

「これを見るのは二度目ですけど……これは千速が自分で?」
「あぁ……慣れない家で、自分の部屋を間違えないようにって」
「そうですか」

 白い紙を少し指で撫でてから、私は微笑み、ドアノブに手を掛ける。
 ゆっくりと扉を開くとそこには……何かを熱心に編む、千速の姿があった。

「千速……?」
「ひゃう!? って、皐月?」

 驚いた様子で言う千速に、私は「はい?」と首を傾げた。
 すると、千速はムゥッと頬を膨らませた。

「もぉ……驚かせないでよ。今お守り編んでるのに」
「フフッ、ごめんなさい」
「全く……。それで、どうしたの?」
「いえ……一人でいるのが少し寂しかったので……」

 私の言葉に、千速は少しキョトンとした後で、微笑んだ。

「しょうがないなぁ。じゃあ、その辺に座ってなよ。先にお守りを編んでしまうから」
「はい。……ところで、なんで急にお守りを?」

 なんとなく気になって、私はそう聞いてみた。
 すると、千速は恥ずかしそうに笑い、両腕の袖を捲って手首を晒した。
 唐突なことに、私は首を傾げた。

「えっと……?」
「覚えてるかな。昔、お守りを交換したよね?」

 その言葉に、私は「あぁ……」と納得した。
 お守り。物持ちが良くて、今でも私の手首にしっかりと巻き付いている。
 冥姫になっても、自分から捨てようとは思えなかった、大切なもの。

「それが切れちゃってさ。新しいお守りを作ろうかな、って」
「そうなんですか……どんなお願いをしたんですか? 前にあげた時は、本当の願いが決まるまで大切にする、って言ってましたよね?」

 私が聞くと、千速は「うッ」と声を漏らして、俯いた。
 少し間を置いた後で、口を開く。

「……皐月にまた、会えますように……って」

Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.152 )
日時: 2017/06/04 18:03
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第22話「徐かなる林!キュアフォレスト生誕!」3

「……皐月にまた、会えますように……って」

 その言葉に、私は呆然とする。
 千速はそれに恥ずかしそうにはにかんだ。

「皐月は大切な友達だもん。……皐月が元に戻って、家に運ぶ途中で、切れちゃってさ」

 そう言って頬を掻く千速に、私は「そんなことが……」と呆けた。
 千速は「あはは……」と笑ってから、お守りに目を向ける。

「あれが私と皐月を繋いでくれたんじゃないかって、思って。だから、また作っておこうかと」
「そうですか……」
「そうだ。良かったら、一緒に作らない?」

 千速の言葉に、私は「はい?」と首を傾げた。
 すると、千速は白い歯を見せて笑い、私の手を取った。

「四年間も離れていたんだよ? 久しぶりに一緒に作りたいな」
「……仕方ないですね」

 私は腰を下ろし、千速が傍らに置いていた糸を数本手に取る。
 それから早速編んでみると、四年ぶりだと言うのに、自然と手が動いて、テキパキと一本の紐が編み込まれていく。

「へぇ……久しぶりなのに上手いね。……で、その糸の意味は?」

 千速の言葉に、私は自分が編んでいたお守りを見つめた。
 無意識に取ったその糸は、オレンジに黄緑の二色だ。
 そうだなぁ……意味を、考えるとするなら……。

「オレンジは希望、黄緑は友情……ですから、今まで闇に染まっていた分、これからは千速や、朱莉さん、蜜柑さんとの友情を大切にしつつ、未来に向かって進んでいく……という、意味でしょうか」
「あ、その言い方。もしかして、さっき考えた?」
「フフッ。どうでしょうか?」

 私がそう言っていた時、ずっと私の手元を覗き込んでいた千速が「あっ!」と声をあげた。

「ここ、結ぶ場所が違うよ」
「えっ?」
「この編み方で行くと……こうやって」

 後ろから抱き込むような形になって、千速は、私が編んでいる途中のお守りを編み始める。
 千速の香りが鼻孔をくすぐり、気付いたら私の頬を、涙が伝っていた。

「ホラこうして……って、皐月どうしたの? どこか痛い?」
「えっ? あぁ、いや、違うんです……ただ、嬉しくて……」

 私が涙を拭いながら言うと、千速は「嬉しい?」と首を傾げた。
 それに頷き、私は彼女の手を取った。

「はい……やっとここに戻れたんだ、って。芽衣として、ではなく、皐月として……千速と一緒にいられるのが嬉しいんです……」
「……もう二度と、皐月をあんな目に遭わせないよ。私が……守るから……」

 その言葉と同時に、千速は私を強く抱きしめた。
 私はそれに「ありがとうございます」と呟き、彼女の細い腕に自分の手を添える。
 なんで、私は彼女のために戦えないのだろう。
 林の書に選ばれたにも関わらず、なんで……。

Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.153 )
日時: 2017/06/04 23:04
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第22話「徐かなる林!キュアフォレスト生誕!」4

「できた……」

 私は呟き、お守りを掌の上に乗せた。
 まるで絡まるように、黄緑色の糸と、オレンジ色の糸が編みこまれたお守り。
 初心者向けの三つ編みから糸の種類を増やした、四つ編み。
 久しぶりだから、これくらいが私にはちょうどいいかと思った。

「完成しました……千速」
「本当だ。やっぱり、皐月は上手いね」

 千速の言葉に、私は微笑み、彼女の手首に巻き付けようとする。
 その様子に、千速は「ちょっ!」と声をあげた。

「どうしたのですか?」
「どうしたの……じゃないよ。このお守りは皐月が作ったんだから、自分で付けなよ」
「そう言われましても……私にはすでに千速から貰ったお守りが……」

 そう言って袖を捲ろうとした時、私は、違和感を抱いた。
 そこにはお守りが無く、慌てて辺りを見渡してみると、床に、昔千速が作ってくれたお守りが転がっていた。

「あぁ!」
「ん? あぁ、十歳の時に作ったやつ? 切れたってことは、願い事が叶ったわけで……」

 そう言って切れたお守りを自分の目の高さまで持ち上げて、千速は私を見た。
 私は、それに気恥ずかしくて少し縮こまりつつ、「えっと……」と視線を彷徨わせた。

「私、は……千速とずっと一緒にいられますように、って、願ったんです。今思うと、この願いって、無期限ですけどね」
「確かに……でもあれから冥姫になったりしたからね。……つまりさ、もう私達はずっと一緒にいられるわけでしょう?」

 千速の言葉に、私は少し呆けた後で、「そうですね」とはにかんだ。
 すると千速は微笑み、自分の手からお守りを解いて、私の腕に巻き付けた。

「え、あの……」
「これは、皐月が付けてなよ。……皐月には昔から迷惑かけたし、せめて、これは自分のお願いのために」

 その言葉と同時に、私の頭に、咄嗟に一つの願いが浮かんだ。
 ———変身したい———
 ———千速達と一緒に、戦いたい———

「……ありがとうございます」
「そんな、お礼を言われるほどのことじゃないってば」

 千速がそう言って笑った時、ドアがコンコンとノックする音が聴こえた。
 やがて扉が開き、老婆が入ってくるのが分かった。

「あ、かz……おばあちゃん」
「千速ちゃん。ちょっと晩ご飯のおつかいを頼めないかしら。私は、今日は少し体調が優れなくてねぇ……」

 その言葉に、千速は微笑み「分かった。じゃあ何を買えば良いのか教えて?」と言って微笑み、机の上にある紙に、老婆が言う言葉を書き写していく。
 しばらくその様子を傍観していたところで、私は、その老婆が、千速の言っていた和子さんなのではないだろうかと少し考えた。

「あ、あの……!」
「おや、貴方が皐月さん……かい?」
「は、はい! きょ、今日からその、お世話になります……よろしくお願いします!」

 私は慌ててそう言って頭を下げると、和子さんは「まぁまぁ」と嬉しそうに微笑んだ。

「可愛らしい顔の子ですねぇ。何があったのかは聞きませんが、自分の家だと思って、くつろいでくださいね」
「は、はい……」
「それでは、私は晩ご飯を作るので」

 和子さんは微笑んでそう言い、部屋を出て行った。
 少し間を置いてから、千速は私の手を握った。

「千速?」
「一緒に買い物に行こう? 一人でいても、アレだろうし」
「ん……分かりました」

 私がそう言って手を握り返すと千速は笑みを浮かべた。
 それから、二人で一階に下りて、外に出る。
 芽衣としては何度か出た外だけど、皐月としては、初めてだ。

「わぁ……」
「迷子にならないように、ちゃんと手、握っててね。芽衣としてなら、スーパーには行ったことあるだろうけど」

 そう言って私の手を握る千速に、私は「はい」と頷いた。

Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.154 )
日時: 2017/06/04 22:28
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第22話「徐かなる林!キュアフォレスト生誕!」5

「よし。全部買えたし、帰ろっか」

 レジ袋を手からぶら提げた千速の言葉に、私は「そうですね」と同意した。
 それから外に出た時、見覚えのある姿が見えて、私は足を止めた。

「あ、冥ちゃんお久しぶりだねぇ。いや、今は皐月ちゃん、だっけ?」
「オルコ……!」

 金髪の軽そうな男。オルコ。
 彼は、普段の軽薄そうな笑みとはどこか違う、暗い笑みを浮かべて、少しずつ私の元まで歩いてくる。
 すると、千速が私とオルコの間に立った。
 その様子に、オルコは「へぇ?」と言う。

「皐月ちゃんを守るんだ?」
「もう……皐月に手出しはさせない……ライデン。皐月を連れて逃げて」
「なっ……千速!」
「分かったライ!」

 そう言って人間の姿に変身したライデンは、私の腕を掴む。
 どうにかそれを振りほどき、私は千速の元に駆け寄ろうとした。
 しかし、千速が「来たらダメ!」と叫んだ。

「ここは、私一人で大丈夫」
「でも……!」
「ごめん。私、皐月を守りながら戦える自信無い。だから、皐月は……朱莉達を呼んできて。それまでは、どうにか持ちこたえるから」

 そう言って微笑む千速に、私は手首に巻いたお守りに手を伸ばす。
 少しでも……千速に迷惑を、かけないようにしなくちゃ……。

「分かった。ライデン、行きましょう」
「お、おぉ!」
「させないよ! 邪悪なる魂よ! 我に仕えよ! いでよ、オンネーン!」

 その言葉に振り向くと、そこには、馬の姿をしたオンネーンがいた。
 千速はアウラシュリフトロレを取り出し、変身しようとしている。
 私はそれに唇をかみしめ、それでも目を背け、ライデンに腕を引っ張られて、走る。

「なんで、私は変身できないのでしょうか……」

 そんな言葉が口から漏れる。
 それに、ライデンからの返答はない。
 しかし、私はそう愚痴を言わざるを得なかった。

「冥姫として、あの三人に迷惑をかけて、折角元に戻っても、変身できなくて、守られてばかり……こんなの……」
「きっと、皆は皐月のこと、足手まといとか思っていないだろうし、皐月が気にする必要はないさ」
「でも……」

 何か答えようとしていた時、ちょうど、私達が向かう先の角から、朱莉さんと蜜柑さんが出てくるのが見えた。
 朱莉さんは私の方を見ると「あっ!」と声をあげて笑顔を浮かべた。

「皐月さん! どしたの?」
「実は、オンネーンが出て……すでに、千速が戦っています」
「本当!? こうしてはいられない! 蜜柑!」
「う、うん!」
「「プリキュア! フォースオーラチェンジ!」」
「侵掠すること、火の如し! キュアフレイム!」
「動かざること、山の如し! キュアモンテ!」

 変身を終えた二人が走りだすのを眺めながら、私はへたり込んだ。
 あの二人がオンネーンの元に戻った今、私がすることは何もない。
 ……何も……。

「皐月……?」

 心配そうに顔を覗き込んでくるライデン。
 私はそれに「なんですか?」と首をかしげてみた。
 すると、ライデンは「んっ」と手を差し出してくる。

「心配なんだろ? 行こうぜ。近くで見守るくらいは……できるだろ」
「……ありがとうございます」

 私が手を握ると、ライデンはなぜか顔を赤くし、無言で私の手を引いた。
 やがて、オンネーンが暴れているであろうスーパーの近くに着いた瞬間、千速が近くの建物に背中を打ち付けた。

「千速!」
「どりゃああああッ!」

 その時、朱莉さんがそう叫んでオンネーンに殴りかかる。
 しかし、オンネーンはそれを躱して、朱莉さんを蹴り飛ばした。
 さらに、蜜柑さんがその隙に攻撃しようとするが、すぐさま攻撃されて、吹き飛ばされる。

「ぁ……ぁぁ……」
「あぁ、冥ちゃん。後は君だけ、だけど……君は恐らく、変身出来ないんだよね?」

 その言葉に、私は懐にしまったアウラシュリフトロレを握り締めた。
 直後、邪悪な気配が伝わってくる感触がして、慌てて握る手を緩める。
 そんな動作をしただけで、オルコはニヤァと陰鬱な笑みを浮かべた。

「やっぱりそうだ。ね、大人しく戻ってきなよ」
「お、お断りします! もう、千速達を傷つけたくは……」
「へぇ……」

 ニヤリと笑ったオルコは、そう言うと、オンネーンに何か手で指示を出した。
 すると、オンネーンは、倒れ伏す千速に近づき……その足を乗せ、力を込め始めた。

「千速ッ!」
「良いのかなぁ? 断り続けるなら、彼女だけじゃなくて、他の二人も痛めつけちゃうけど」

 その言葉に、私は動きを止める。

「皐月ッ! そんな男の言葉、聞いたらダメだよ!」

 千速の叫びに、私はその場でたじろいだ。
 どうすればいい……どうすれば……?
 このまま断れば、千速が……でも、もしオルコの誘いを受けたら、私はまた、己の手で三人を傷つけてしまう……。
 でも、じゃあ……一体……私は……。

「アウラシュリフトロレ……」

 私はアウラシュリフトロレを取り出し、ギュッと握り締めた。
 相変わらず禍々しい怨念が溢れ出てきて、気味が悪い。

「……お願いします、アウラシュリフトロレ……私に、力を貸して下さいッ!」

 咄嗟に、そう叫んだ。
 しかし、アウラシュリフトロレからの反応はない。
 それでも、私は必死に叫ぶ。

「お願いします! 私に、力を! アウラシュリフトロレッ!」
「皐月さん、もうやめて! 大丈夫、私達、まだ、戦えるから……」

 ボロボロになった朱莉さんの言葉に、私は涙をこぼす。
 お願い……力を貸して……私はただ……———

「———……私は、ただ……千速とまた、笑い合いたいだけなんです……」

 そう呟いた瞬間、アウラシュリフトロレが輝きを放つ。
 やがて光が止むと、そこには……桃色に染まったアウラシュリフトロレがあった。

「なに……まさか!」
「……プリキュア、フォースオーラチェンジ」

 そう呟いた瞬間、巻物が展開され、文字が舞う。
 これが、変身というものなのだろうか……?
 そう思っていると、千速達が着る衣装を緑色にしたようなものが体にまとわりつき、髪が伸びる。
 やがて変身が終わると、脳裏にセリフが浮かび、勝手に口と体が動いてポーズを決める。

「徐かなること、林の如し! キュアフォレスト!」


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