二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 【完結】風林火山プリキュア!
- 日時: 2017/08/01 13:12
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=31539
初めまして!愛と言います!
今日からは、オリジナルのプリキュア、通称オリキュアの小説を書きたいと思います!
初の試みなのでグダグダとかになると思いますが、暖かい目で見てやって下さいw
よろしくお願いします!
追記:上記URLにて風林火山プリキュアの劇場版という名目の中編を載せています。良かったらそちらも見てやってください。
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- Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.346 )
- 日時: 2017/09/13 20:35
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
風林火山外伝「雷と陰の話」6
あれから、化け物はなんとか倒した。
しかし、影津から生まれた黒い靄は消えることなく、むしろ増えて行くような気がした。
無限に増殖し続ける化け物。
大人曰く、あれは自分達の怨念の感情から生まれたもの……らしい。
とりあえず、火燐と風音のアイデアで、その怨念から生まれた化け物をオンネーン、そして、オンネーンを作り出している存在……影津の変わり果てた姿のことは、怨気と呼ぶことにした。
理由……そんなもの、あの影のことを影津と呼びたくないからだ。
私だけじゃなく、皆、あの靄が影津であることを認めたくないのだ。
そして何より、影津があんな存在になったことで、戦争が終わったという事実を、認識したくないのだ。
不幸にも、戦争は影津の犠牲により終戦した。
オンネーンの登場によりそれどころでは無くなったのと、影津が怨念の感情エネルギーを吸い取ったため、人々から恨みの感情が消えたのだ。
正直、影津が怨念の感情エネルギーを取り除き、処分すれば良かったのではないかと思った。
でも、結局は誰かがその身を犠牲にして、オンネーンを生み出さなければいけなかった。
怨念は消えない。
そう簡単に消えるものではない。
……だから、影津が犠牲になっただけだ。
いっそのこと、あの化け物と影津が別物であるということにできれば、どれだけ楽だったか。
でも、そう思えないのだ。
だって……化け物が、私にだけ攻撃しないのだから。
皆は言う。このオンネーンとの戦いは、私が鍵であると。
化け物から一切狙われない私なら、きっと突破口を切り開けると。
ただ問題は……私に影津を倒す覚悟が出来るかどうか、だ。
正直言うと……無理だ。
私だけを攻撃しない影津が。
あんな姿になって、自我ももう無いハズの影津が。
私は、愛おしくて仕方がないのだ。
影津は、大切な幼馴染だ。
隣同士の家に生まれ、物心ついたその瞬間から、一緒にずっと生きてきたのだ。
だからこそ、同じプリキュアになった時、私は積極的に彼女を守った。
彼女は私がいないとダメな子だから。
共依存とでも言うのかもしれない。
影津も私も、お互いに依存し合っていた。
彼女も私を頼っていたし、私は彼女という存在に癒しを求めていた。
影津は私にとって、一種の精神安定剤だった。
小さい頃から一緒だったから、まるで、もう一人の自分のように感じていた。
彼女と一緒にいる時が、私にとって一番幸せだった。
だからこそ、大切な影津を自分の手で消し去ることなんて出来ない。
影津は、私が一番守ってあげないといけない子だから。
ずっと守ってあげていた私に消される……。
もし本当に私が彼女の存在を浄化した時、影津は傷つくだろう。
裏切られたと、私を恨み続けるだろう。
でも、じゃあ……私は一体どうすればいいんだろう。
- Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.347 )
- 日時: 2017/09/14 23:09
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
風林火山外伝「雷と陰の話」7
草木も眠る丑三つ時。
屋敷の縁側で、私は膝を抱えて、外に見える暗い林を見つめていた。
ここのところ……眠れない。
否、眠れるわけがないのだ。
だってもう、私の傍には……影津がいない。
「私は……これから、どうすればいいんだろう……」
そう呟いて、膝を抱えている腕に額を乗せた時だった。
「眠れないの?」
突然声を掛けられ、私はビクンッ! と体を跳ね上げた。
慌てて振り向くと、そこには、こちらに歩いて来る火燐の姿があった。
「隣、良い?」
「……うん」
頷くと、火燐は優しく笑って、私の隣に並んで座った。
胡坐をかきながら、彼女はボーッと遠くを見つめた。
「……火燐……」
「……影津のこと、後悔してるんでしょ?」
彼女の言葉に、私は俯く。
すると、火燐は私の方に視線を向けて、ニッと笑った。
「気持ちは分かるよ。だって、雷香と影津は幼馴染だったんでしょ?」
「……そういえば、火燐も、風音と……」
「そっ。幼馴染。あと、確か山那と林檎もそうらしいけど」
火燐の言葉に、私はゆっくりと寝室を見た。
月夜に照らされる布団の一角には、手を繋ぎ合って添い寝をする山那と林檎の姿があった。
二人の姿を観察していると、同じようにそれを見ていた火燐はクスクスと笑った。
「あの二人は本当にラブラブだねぇ。私も風音にあれくらい甘えてみたいよ」
「……でも、なんだかんだ、信頼し合ってるじゃない。そういう幼馴染も良いと思うよ」
私の言葉に、火燐は困ったように笑って「そうかなぁ」と返す。
彼女の言葉に「そうだよ」と便乗すると、火燐は「ありがと」と言って、暗い林に視線を向けた。
「……雷香と影津も……信頼し合っていたんでしょ?」
「……」
「幼馴染が大事なのは、私達は全員理解している。だから、雷香が仮にこの戦いから降りても、責めるつもりはないよ」
彼女の言葉に、私は唇を噛んだ。
拳を握り締めると、爪が肌に食い込んで、血がにじむ。
そんな私の様子に、彼女は悲しそうに笑った。
「辛いよね……あんなことに、なって……」
「……私、どうすればいいのかな……」
そう漏らしながら、私は俯いた。
だんだん耐え切れなくて、目に涙が滲む。
「私……もう、どうすればいいのか……分からないよ……!」
「……影津はさ、死ぬならきっと、雷香に殺されたいと思うハズだよ」
その言葉に、私は言葉を失う。
顔を上げると、火燐は優しく笑った。
「だって、影津は雷香のこと、大好きだもん。あんな姿になっても、雷香を傷つけないくらいには」
「……でも……」
「……影津は、もう、元には戻れないよ」
火燐の言葉に、私は胸に杭を打たれたような、鋭い痛みを受けた。
咄嗟に胸を押さえ、私は火燐を見つめる。
すると、火燐は私を、真剣な目で見つめて来た。
「私だって、影津は殺したくない。……でも、このまま彼女を放置するわけにはいかない。雷香に押し付けるってわけじゃないよ? ただ……影津のことを考えるなら、せめて、雷香が決着をつけるべきだって、思うんだ」
「……私が……」
「うん。……もし雷香が嫌なら、私がやる。でも、影津の為を思ったら……」
そこまで言うと、火燐は一度目を背け、少ししてから、もう一度私を見つめて来た。
真剣な表情で、「お願い」と言ってくる。
確かに、今私達に影津を戻す術は無い。
だったら私に出来ることは……影津に、トドメを刺すこと……?
『雷香ちゃん!』
影津の笑顔が蘇る。
しかし、試したことは無かったが、もしかしたら浄化したら彼女が元に戻るかもしれない。
もし戻らなかったら……いや、後ろ向きな考えはよそう。
それに、少し冷静になって考えてみると、このままあの姿で生かしても、彼女が苦しいだけだ。
だったら、いっそのこと、楽にしてあげた方が……?
「……分かった。私、やるよ」
そう口にすると、火燐が息を呑んだ。
私はそれに立ち上がり、夜空に浮かぶ満月に向かって拳を突き上げた。
「私、やる……影津を……この手で……」
覚悟は、出来た。
きっと明日も、影津から生まれた化け物が暴れるだろう。
その時に……私は彼女を、倒す……。
- Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.348 )
- 日時: 2017/09/14 22:47
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
風林火山外伝「雷と陰の話」8
「いやぁ、はっはっは……この量は予想外」
翌日。オンネーンが現れたという情報を聞きつけ、私達は現場に向かった。
正直、大した量じゃないと思っていた。
また数匹程度のオンネーンを相手にすることになるのだろうと思っていた。
「これは……最早軍隊だね」
山那の言葉に、私は賛同せざるを得ない。
確かに、これは最早軍隊だ。
ひしめくオンネーン軍……異形の生物が大量に並ぶと、ここまで気色悪いものか。
そう思っていた時、そのオンネーン集団を見つめていた火燐が口を開いた。
「軍隊かぁ……これは敵戦力にも名前を付けねば」
「……今考えること?」
林檎の冷めた言葉に、火燐は「良いじゃん!」と言って林檎の方に振り向く。
それから熱心に力説を始めようとする火燐に、林檎が「分かった分かった」と言って制する。
「それで? 名前付けるならさっさと決めれば?」
「そうこなくちゃ! というわけで風音! いっちょカッコいい名前よろしくぅ!」
自分で決めるんじゃないんかい!
そうツッコミを入れようとした時、私は、火燐の手が震えているのが分かった。
……緊張しているんだ。
彼女も、きっと怖いんだ。
巨大な化け物を相手にする機会など今まで無かったわけだし、それがかなりの量なのだ。
しかし、緊張しているのは自分だけではない。メンバー全員が緊張している。
だから、その空気を和ませるためにも、彼女はこんなことを言っているのだ。
「そうねぇ……ユウキ軍とかどう?」
そしてそれに無表情のまま答える風音。
彼女は冷静沈着ではあるが、どこか抜けている部分がある。
基本的には火燐を窘めたりする方ではあるが、たまに天然ボケをして、逆に火燐を困らせたりする場面がある。
だからこそ、お互いに支え合って、対等な立場で本音を言い合えるのだろう。
「おお〜! 勇気軍! 良いねカッコいい!」
「……勇気じゃない。幽霊の幽に、鬼で……幽鬼」
はしゃぐ火燐に、そう小さい声で訂正して視線を逸らす風音。
そして、右手で服の裾を弄り始める。
前に火燐が、コッソリ風音の癖を皆に暴露していたことがある。
嘘をついている時は瞬きが多くなって、照れている時は服の裾を弄るらしい。
つまり、今は照れているのだ。……なんだかんだ、火燐のことが大好きなんだな。
「の、暢気に話してる場合、なのかな……」
怯えながら林檎の腕を抱きしめ、そう呟く山那。
彼女の様子に林檎は優しく笑い、山那の頭を撫でた。
「大丈夫だよ、山那……私達なら、きっと……」
「林檎ちゃん……」
風音のように普段から冷静沈着で、無愛想な林檎。
でも、山那に対してだけは、優しくなる。
怖がりな山那は、プリキュアになってから心はかなり強くなった。
それでも、本当に怖い時は、一番に林檎を頼るのだ。
皆、一番に頼る相手は幼馴染。
私と影津にあったような友情が……彼女達の中にも、あるんだ。
それに私は、無意識に自分の顔が綻ぶのが分かった。
彼女達も、大切な人の為に戦うのだ。
私一人じゃない。皆、私と同じ、大事なものを背負って戦うのだ。
だから……私がここで、逃げるわけにはいかない。
「ははっ……それじゃあ皆」
私がそう促すと、全員が私を見た。
プリキュアのリーダーは火燐なのに、今は、私がリーダーみたい。
でも、そんなことどうでもいいか……。
私は笑い、ゆっくりと、幽鬼軍の方に顔を向けた。
「さぁ、行こう……全ての戦いを、終わらせるために……」
私の言葉に、全員が頷く。
そしてアウラシュリフトロレを構え、叫んだ。
「「「「「プリキュア! フィフスオーラチェンジ!」」」」」
大切な人を守るため。
大切な人を取り戻すため。
大切な人との明日を掴むために。
私達は……戦う!
- Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.349 )
- 日時: 2017/09/16 23:19
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
風林火山外伝「雷と陰の話」9
「侵掠すること、火の如し! キュアフレイム!」
「疾きこと、風の如し! キュアウィング!」
「動かざること、山の如し! キュアモンテ」
「徐かなること、林の如し! キュアフォレスト!」
「動くこと、雷霆の如し! キュアサンダー!」
「「「「「レジェンドプリキュア!」」」」」
名乗りを終えた瞬間、大量のオンネーンが襲い掛かる。
私達は咄嗟に後ろに跳び、距離を取る。
「雷香!」
その時、名前を呼ばれる。
振り向くと、そこにはこちらに顔を向ける火燐の姿があった。
「雷香、私と風音でここは食い止める! その間に、向かって!」
「で、でも……!」
「林檎と山那は雷香の援護! オンネーンが雷香を攻撃するとは思えないけど、念の為!」
「で、でも……!」
不安そうに聞き返す山那に、火燐はすぐに口を開く。
「影津を止められるのは雷香しかいない! だから、私達で全力で援護するんだ!」
「でも、火燐ちゃん達だけで時間稼ぎなんて……!」
山那の言葉に、火燐は笑顔を浮かべ、風音の手を握った。
「大丈夫! だって、私には風音がいるもん!」
「火燐……!」
火燐の言葉に、風音は驚いたように目を見開く。
しかし、すぐに優しく笑うと、火燐の手を握り返した。
……風音の笑顔なんて、初めて見た。
「うん……ここは、私達で何とかする! だから、三人は早く影津を!」
「……分かった……絶対に、死なないでね」
林檎の言葉に、火燐と風音は頷き、オンネーン達に向かう。
「侵掠の火よ!」
「疾き風よ!」
「「我に集い、力と成れ!」」
二人がそう声を合わせると、火を纏った風がオンネーン集団を蹴散らしていく。
目の前に道が広がるのを見て、私はすぐに走り出す。
あくまで山那と林檎は援護役。
私が自分から走って……影津を止めに行かなければ!
そう思っていた時、目の前にオンネーンが躍り出る。
「しま……!」
驚き、咄嗟に立ち止まりそうになる。
しかし、オンネーンは私の顔を見た瞬間、すぐに私の目の前から離れ、山那や林檎を攻撃した。
……まさかこのオンネーン……私を攻撃しないだけでなく、邪魔もしないのか?
「ッ……山那! 林檎! 後のことは頼んだ!」
全部説明する時間はない。
私はそれだけ叫ぶと、オンネーンの相手に手こずる二人に背を向け、奥に駆ける。
あの四人がオンネーンに殺されるより前に、影津をどうにかしなければ!
そう思いしばらく走っていると、やがて、歪で巨大な靄を見つけた。
「……影津……?」
咄嗟にそう名前を呼んでみるも、返事は無い。
ただ、黒い靄が近くにある物に付く度に、オンネーンを生み出す。
「影津ッ!」
咄嗟にそう名前を呼び、私は影津の体———オンネーンを生み出す怨気———に触れた。
指先が触れた瞬間、どす黒い感情が流れ込んでくるのが分かった。
「うッ……!?」
その瞬間、世界の全てが憎くなる。
戦争を繰り返した村人達が。
私と違って、大切な人との未来が約束されている火燐達が。
そして……私を置いていなくなった、影津が。
「ぅッ……ぁあッ……影津ッ……!」
負の感情の激流に流されそうになるのをなんとか堪えながら、私は必死に影津の体である怨気に抱きつく。
その瞬間、気味の悪い感触が私を襲う。
鳥肌が立ち、氷塊を服と肌の間に投げ込まれたような寒気が背中を這いずり回る。
しかし、なんとか堪え、私はさらに強く影津を抱きしめる。
「影津ッ……もう止めてッ……!」
そう叫ぶ。
叫びながら、私は、ひたすら強く影津を抱きしめた。
「影津……本当は、こんなことしたくないんでしょ!? 大好きな皆を傷つけたりしたくないんだよね!?」
———……イ……———
一瞬、声が聴こえた。
私はすぐに影津から体を離し、彼女の声に耳を傾ける。
———ニクイ———
しかし、その声は、私の期待とは大きく違った。
———スベテニクイ———
———ケシタイ———
———キエロ———
その声は、影津の声に雑音が混じったような声だった。
まさか、これは、影津の心の声……?
「影津……確かに、私も皆憎いよ。村の人達が戦争なんてしなければ、影津はこんな姿にならずに済んだ。火燐達の存在が、影津の心を追い込んでいたなら、火燐達がいなければ良かったって思う。……私が、影津の気持ちに気付いていれば……こんなことにはならなかったかもしれない」
そう言いながら、私は腕を黒い靄の中に突っ込んだ。
さらに気味の悪い感覚。
でも、これが全て影津なら……愛する者による痛みなら、私は耐えられる。
「でもさ、恨んでも、物事は解決しないよ? だから、一緒に帰ろ? 帰ったら……一緒に、全部滅ぼしちゃおうよ」
———ァァ———
影津の声を聴きながら、私は深呼吸をする。
これで決める。
全身全霊を込めて、影津を浄化して……彼女を取り戻す。
- Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.350 )
- 日時: 2017/09/17 20:42
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
風林火山外伝「雷と陰の話」10
「行くよ、影津。……ちょっと痛いかもしれないけど」
私の言葉に、影津は答えない。
でも、それで良い。
これ以上彼女の声を聴いたら、きっと、私は思いとどまってしまうから。
「動く雷霆よ! 我に集い、力と成れ!」
そう叫んだ瞬間、腕に雷が纏う。
ちょっとした雷じゃダメだ。もっと、巨大な雷じゃなければ!
私は拳を握り締め、さらに力を込める。
すると、体から力を吸い取られるような感触があった。
ここで死んでしまっても良い。
影津が、それで楽になるか、元に戻れるなら……。
私の全てを、この一撃に懸ける!
だから、その気持ちに応えてくれ……アウラシュリフトロレよ……。
選ばれた者の気持ちに応え現れる伝説の書……アウラシュリフトロレ……。
そのアウラシュリフトロレによる長い伝説だとか、堅苦しい事柄はよく知らない。
ただ、もしコイツを使って影津を元に戻せるかもしれないのなら、私はそれに賭けるしかない!
「今、大いなる伝説よ! 我等に力を貸し給え!」
そう叫んだ瞬間、暗い闇の中に眩しい閃光が煌いた。
数瞬後、両手で持てるくらいの、固い感触と確かな重みがあった。
深く考えている場合ではない。
これを使って、影津を元に戻す!
すでに満身創痍。
足から力は抜けそうで、意識も朦朧とする。
でも、ここで気を失うわけにはいかない。
せめて、影津をどうにかするまでは!
「影津うううううううッ!」
叫びながら、私は手に持った固い何かに力を込める。
すると、さらに光は強くなり、闇を打ち消していく。
やがて、巨大な雷がその固い何かを中心にして……弾けた。
「ひゃぁッ!?」
巨大な雷に体を弾かれ、私はその固い何かから手を離した。
地面を転がり、体を打ち付ける。
いつの間にか、変身は解けていたようだ。
鈍い痛みを感じながら、私は影津の方向に視線を向けた。
「影津ッ!」
そこには……影津の姿はどこにも無かった。
辺り一面の地面は黒く焦げていて、焦げ臭いにおいが辺りに充満していた。
私は鼻を押さえながらフラフラと立ち上がり、ゆっくりと、雷の暴発の中心地に向かう。
「……何、これ……」
そこには、金色に輝くからくり時計があった。
時計の針は、長針も、短針も、秒針も。全てが十二時をさした状態で、止まっている。
何だ……これは……。
「雷香!」
その時、名前を呼ばれた。
一瞬影津を期待して振り向くが、そこには、こちらに向かって覚束ない足取りで走って来る火燐達の姿しかなかった。
「皆……」
「さっきの雷は……一体……それに、影津は……!」
火燐の問いに、私はもう一度時計に視線を向けてみた。
さっき、この時計から出た雷が、影津を消してしまった。
よく見れば、周りにいたハズのオンネーン軍団も消えている。
まさか、消えた……? 影津も……オンネーンも……。
そう思っていた時、林檎が私の隣に来て、時計をジッと見つめた。
「林檎……?」
「雷香……この時計は?」
「え……えっと、雷の書の力、使ったら……出てきた」
「……そう……」
林檎はそう呟くと、時計を持ち上げた。
すると、先ほどまでの輝きが消え、白と金で装飾されたごく普通の時計に変わる。
それと同時に、体中を何かに舐め回されるような不快感が駆け巡った。
「林檎ちゃん……それ危ないやつだよきっと……」
怯えた表情で山那はそう言い、林檎に後ろから抱きつく。
腰の辺りに腕を回し、林檎の肩に顎を乗せて、林檎が持つ時計を見ている。
そんな山那の頭を撫でて、林檎は微笑んだ。
「大丈夫だよ、山那。……多分だけど、これ、怨気を閉じ込めているんじゃないかな」
「怨気を?」
私が聞き返すと、林檎は頷く。
「多分、この時計は、怨気を閉じ込めていられる時間を表しているんだと思う。普通の時計での一秒が、この時計でどれくらいの時間で表せるのかは分からないけど」
「……そっか……」
私がそう返すと、林檎は微かに目を伏せ、時計を地面に置いた。
とりあえず、この時計の処遇は大人に任せよう。
まぁ、危険なものだし、最終的にはどこかで保管することになるんだろうけど。
でも、一つだけ分かるのは……。
「……影津には……もう二度と会えないって、ことだよね」
私の言葉に、全員が顔を上げた。
私はそれに何も言わず、空を見上げた。
影津。もし貴方が死んだのなら、今頃、どこかで私を見守ってくれているのかな。
……影津。
会いたいよ、影津……。
どうしたら……貴方に会えるかな?
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