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【完結】風林火山プリキュア!
日時: 2017/08/01 13:12
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=31539

初めまして!愛と言います!
今日からは、オリジナルのプリキュア、通称オリキュアの小説を書きたいと思います!
初の試みなのでグダグダとかになると思いますが、暖かい目で見てやって下さいw
よろしくお願いします!

追記:上記URLにて風林火山プリキュアの劇場版という名目の中編を載せています。良かったらそちらも見てやってください。

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Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.336 )
日時: 2017/09/02 23:47
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

番外編2「林の墓参り」

「はい。ライデン」

 そう言いながら先ほど作ったばかりのパウンドケーキを差し出すと、ライデンは驚いたように目を見開いた。
 私とスポンジケーキを交互に見てから、小さく口を開いた。

「……どうしたんだ? 皐月」
「どうした、って……パウンドケーキですよ?」
「いや、そうじゃなくて……急にどうしたんだ?」

 その返答に、私はしばらく考える。
 やがて、その言葉の意味を理解し、「あー」と声を漏らした。

「そうですか……ライデンは今日が何の日なのか知らないのですね」
「おい、なんだか無性に馬鹿にされているような気がするぞ」
「そんなことはないですよ」
「目を逸らすな」

 流石私のパートナー。視線の方向までしっかり見てくれている。
 私は観念し、仕方なく彼の目を見た。
 そんな私の様子にライデンはため息をつき、私の顔を見上げた。

「それで、どういう今日は一体何なんだ?」
「今日は二月十四日。朱莉達がいた世界では、バレンタインデーと呼ばれる日ですね」
「ばれんたいんでー?」

 バレンタインデーについて初めて聞いた時の私と千速のような反応を示すライデン。
 それがなんだか可愛くて、私は無意識に顔を綻ばせた。
 しかし、すぐに頬の筋肉を引き締め、私は続ける。

「はい。バレンタインデーです。この日は、女性が意中の異性に甘味をあげる日らしいです」
「意中の異性!?」
「えぇ。でも、最近ではお世話になっている殿方にあげたりする風習もあるらしいのです。ライデンにはいつもお世話になっていますから」

 そう言いつつ、私はパウンドケーキを改めて差し出す。
 すると、ライデンはそれを震える手で受け取り、凝視する。
 私はそれに姿勢を正し、微笑んで見せる。

「ライデン、いつもありがとうございます。頑張り屋さんのライデンが大好きですよ」

 そう言った瞬間、ライデンの顔がボンッと音を立てて真っ赤に染まった。
 それから彼の黒目の部分がキョロキョロとせわしなく動き、動揺を露わにする。

「さ、さささ皐月、お、おおオイラも……」
「では、私は少し用事があるので、少し出かけますね」

 そう言いつつ、私はパウンドケーキを数切れ小分けにして、オニギリを包んだりするのに使う竹の皮を一枚拝借し、それで包んで上から風呂敷で包んだものを肩に掛ける。
 呆然とするライデンを軽く無視しつつ、私は外に出た。
 正直、これを『彼』に渡すのはどうなのかと思う。
 恋愛対象だったわけでもないし、お世話になったどころか迷惑しか掛けられていない。
 でも……なぜかは分からないけど、渡したかった。


 家から歩いて十分程度。
 村から外れ、山のふもとにある林に入ってしばらく歩いた場所。
 そこに……それはあった。

「……お久しぶりですね。オルコ」

 それは、オルコの墓だった。
 無論、墓と言っても、地面を掘り返したら中からオルコの死体が出てくるなんてことはない。
 ただ、手頃な岩を並べ、積んだだけのもの。
 あくまで飾り的な存在だ。
 ……こんなものを作ってまで、私は、彼に許されたいのだろうか。

 私を愛し、その愛を押し殺してまで私と本気で戦い、最後はその愛故に死んでいった愚かな男。
 軽い態度に、いつもヘラヘラと笑っていて……誰よりも、真っ直ぐだった。
 彼は、悪を貫いた。真っ直ぐに、貫いたんだ。
 私のように、愛する者のために悪から正義に転じたりはしなかった。
 最後の最後まで、彼は悪という存在を貫き通したのだ。

「……今日はね、バレンタインデーと言って、意中の異性に甘い物をあげる日なんですよ」

 そう言いながら、私は風呂敷を広げ、竹の皮に包まれたパウンドケーキを取り出す。
 オルコの墓の前にそれを置き、竹の皮を広げる。
 ブドウのような見た目をした果実を使ったパウンドケーキ。
 オルコは前に、自分達が人間と食べるものは変わらないと言っていた。
 味見をした感じでは、中々美味しかったので、きっと彼も満足してくれるだろう。
 ……いや、彼のことだから、例えどんなに不味くても「皐月ちゃんが作ってくれたから美味しいよ」とか言いそうだ。
 ……その模範解答を知ることは、私には一生無理だけど。

「……オルコ……」

 私はゆっくり立ち上がり、岩を指でなぞった。
 ゴツゴツと……ザラザラとした感触が、なんだか少し不愉快。

 私はあの時、他に彼を救うという手段を選べなかったのだろうか。
 ……多分、無理。
 だって、私と彼は、敵同士だから。
 村を救うためには、彼を倒さないといけなかった。
 仮に彼を……彼等を生き残らせて、村を復活させることができても、村人たちは彼等を許しはしないだろう。
 きっと、両方を手に入れることなんてできなくて……結局私達は、どちらかを切り捨てることしかできなかった。
 そして、世の中の模範解答は、幽鬼軍を滅ぼして、村を復活させること。
 だって、幽鬼軍は……悪だから。
 それは分かってる。実際に、村を取り戻せて私は嬉しいし、現状は幸せだ。
 ……でも……。

「なんで……こんなに苦しいんですか……」

 呟きながら、私は膝をつく。
 私は彼のことを好きだったのだろうか。
 ……分からない。
 でも、胸が苦しいんだ。彼に……オルコに二度と会えないことが、悲しくて、苦しくて仕方がないんだ。

 もうすぐ、冬が明けて春になる。
 冬は嫌い。彼が死んだ季節だから。
 彼を殺した私を攻めるような、この冷たく凍てつく空気がいつか温もって、冥姫だった頃も、皐月に戻ってからも、ずっと私を愛し続けてくれた彼のように、優しく私を包み込んでくれる春が……ただひたすらに、待ち遠しい。

Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.337 )
日時: 2017/09/03 00:34
名前: 広村伊智子 (ID: /qYuqRuj)

 
金賞きたーーーーーーーー!!!!
おめでとうございます♪

いいですねー!
絶対愛さんなら取れると思ってました!


(こんな体育祭中にハチマキで両手縛られながら恋ダンスを踊り始める変態の小説が金賞を貰えるなんて!)
ですって?

いえいえいえ、

机運んで って言われて、
ついでに椅子も運んだ方がいいよね?
って、聞き返すような、
ウチの方がよほど変なので!


嬉しすぎて、
ウチもテンションおかしいです。

頭のネジ一本外れてます、きっと。


本当におめでとうございます!

Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.338 )
日時: 2017/09/03 14:00
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

番外編3「山の争奪戦」

 明日はいよいよバレンタインデー。
 今日は、バレンタインデーのチョコレートの材料などを買うために、朱莉ちゃんと共に近所のスーパーに来ている。
 毎年、私と朱莉ちゃんは手作りチョコを交換している。
 それはいつものことだけれど、今日はそれ以外にも生徒会の人たちにも、普段の感謝を込めてチョコレートをあげる。
 流石に全員に手作りチョコというのは、労力も金銭も足りないので無理だ。
 だから、小さいチョコレートの詰め合わせのようなものを買い、それを小分けにしたものをあげようと思っている。

「……蜜柑、まさかと思うけど、私と生徒会の人にだけあげるつもり?」

 朱莉ちゃんにあげる分のチョコレートを何にしようか考えていた時、朱莉ちゃんが若干引いた様子でそう言って来た。
 彼女の言葉に、私は「そうだけど?」と返した。
 すると、なぜかとても大きなため息をつかれた。
 ……?

「……勇太」

 ジト目で呟かれた一言に、私はしばらく思考停止する。
 数秒ほど考えた後で、勇太の存在を思い出し、「あぁ!」と声を上げた。
 すると、朱莉ちゃんはガクッとずっこける素振りを見せた。

「蜜柑ってさぁ、勇太に対する扱い酷いよね……」
「そ、そう……?」
「うん……まぁ、蜜柑らしいとは思うけどさ」
「何その言い方……でも、そっか……勇太もいるんだっけ」

 去年までは、嫌いな相手だったから、あげるなんて選択肢すら浮かばなかったからなぁ……。
 一応仲直りはしたし、この間のクリスマスにはマフラーだって貰ってる。
 チョコレートをあげるべきではある、のかな……。

「でも、今更私のチョコレートなんかいらないんじゃ……」
「いるよ! 絶対いる!」

 朱莉ちゃんの言葉に、私は「えぇ……」と漏らしながら、先程買ったばかりの材料達を見る。
 一応材料的に一人分も二人分も変わらないけど……さて、どうしたものか……。


 翌日。チョコレートが入った袋を片手に、私と朱莉ちゃんは登校する。

「朱莉ちゃんは、他の人にはあげないの?」
「んー……あげるほど仲良いかもよく分かんないし、作ったり買ったりするのめんどいし〜」
「あはは……朱莉ちゃんらしいね」

 そんな会話をしながら校門を潜った時、見覚えのある人影が見え、私は足を止めそうになった。
 しかし、立ち止まろうとした私の肩を朱莉ちゃんに掴まれ、そのまま前に出される。
 押され引っ張られという形で強引に歩を進まされる。
 すると、向こうも私の方に気付いたようで、私の顔を見た瞬間真っ赤になる。

「み、蜜柑……」
「勇太〜。蜜柑がアンタに渡したいものがあるんだって〜」
「ちょ、ちょっと朱莉ちゃん!?」
「なッ……」

 まさかの朱莉ちゃんの言葉に、私は動揺する。
 そりゃ、一応持って来てはいるけど……そう思っていると、朱莉ちゃんに背中を押される。
 よろめくように私は勇太の前まで出る。

「えっと、蜜柑……?」
「勇太……」

 いざ渡すとなると、かなり緊張する。
 心臓がドキドキと高鳴って、変に汗を掻いてしまう。
 なんとか深呼吸をして、私は口を開いた。

「き、今日、バレンタインだし……その、クリスマスプレゼントも、くれたから……これ!」

 そう言いながら、私は勇太にあげる用のチョコレートを取り出し、差し出す。
 すると、勇太は目を大きく見開いて、震える手で受け取った。

「ぁ……えっと……」
「お、美味しいかどうかは分かんないよ? 勇太の口に合うかも分かんないし……」
「い、いや! 貰えるだけですげぇ嬉しいよ! ありがとう!」

 勇太の言葉に、私は自分の顔が熱くなるのが分かった。
 その時、背後から肩をトントンと叩かれた。
 朱莉ちゃんかと思って振り向くと、そこには、岩室君が立っていた。

「い、岩室君……!」
「ん、やっぱり遠山さんだ。おはよう」

 岩室君はそう言って笑顔を浮かべる。
 すると、勇太が私の腕を引き、私と岩室君の間に立つ。
 ……えーっと?

「何の用だよ。生徒会長」
「いや、今日はバレンタインデーだからね。今生徒会皆にチョコ配ってるんだ。ハイ」

 そう言って岩室君は勇太を躱し、私にラッピングされた袋を渡してくる。
 中には可愛らしい、動物の形を模したチョコレートが入っている。
 ……まさかと思うけど、岩室君、全員に手作り?

「遠山さんはいつも副会長としてサポートしてくれるからね。そのお礼」

 そう言って、岩室君はニコッと爽やかに笑った。
 私もそれに釣られて笑うが、すぐに、袋の中に手を突っ込んだ。

「そういえば、私も生徒会の皆に渡そうと思ってチョコ持ってきたの。こちらこそ、いつもありがとう」

 そう言いつつ、私はチョコレートを渡す。
 岩室君はそれに優しく笑い、受け取った。
 すると、横で勇太が悔しそうな表情で岩室君を見ているのが分かった。

「ゆ、勇太……?」
「生徒会長。俺、絶対負けねぇからな」

 そもそも何の勝負をしているんだろう?
 私が首を傾げていると、隣にいた岩室君はしばらく考える素振りを見せた後で「あぁ」と返す。

「そういうこと……別に、僕はそういうの無いんだけど」
「じゃあ蜜柑に近づくな!」

 威嚇するように言う勇太に、岩室君は「そんな無茶苦茶な」と言いつつ笑う。
 なんだかよく分からないけど、こういうの、私は混ざらない方が良いかな。
 そこで、とあることを思い出し、私はその場を離れて朱莉ちゃんの元に駆け寄った。

「蜜柑?」
「これ、来る時渡すの忘れてたから」

 そう言いつつ、私は袋から、朱莉ちゃんのために作ったチョコレートを取り出し、渡す。
 すると、朱莉ちゃんは「あぁ!」と言って、同じように袋からチョコレートが入った袋を取り出し差し出す。

「蜜柑。いつも色々ありがとう。大好きだよ」
「うん。私こそ、いつもありがとう。私も大好き」

 そう言いながら、私達はチョコレートを交換する。
 今年のバレンタインデーは、今までと違う感じがする。
 もしあの時の戦いで、朱莉ちゃんまで諦めていたら、私達は今こうして笑い合えていなかったかもしれない。
 そう思うと、少しヒヤッとする。
 プリキュアとしての戦いを通して、今みたいな、当たり前の日常がすごく大切なんだって、気付けた。
 朱莉ちゃんと、毎日一緒に学校に行って、いつも通りの日常を過ごせる今が、すごく幸せなんだって。

 ……でも、もしも欲を言うなら……オウガさんも、一緒にいれば良かったのに。
 私の成長を一番よく見てくれた人。
 そりゃあ、千速ちゃん達の村を襲ったことは許せない。
 でも、根は悪い人じゃないと思うんだ。
 ただ、きっと、その優しい心の使い方が分からなかっただけの人。

「オウガさん……今の私は、強く生きれてるかな……」

 そう呟きながら、私は寒空を見上げた。
 彼だけじゃない。
 千速ちゃんや、皐月ちゃんや、ライデンちゃんや、フウマルちゃん。
 会いたい人が……たくさんいる。

「蜜柑、何してんの? そろそろ教室行こ」

 朱莉ちゃんの言葉に、私は視線を少し下げた。
 すると、朱莉ちゃんは銀縁の眼鏡の向こう側で、優しく微笑んだ。

「……うんっ」

 私はそれに頷き、駆ける。
 それから朱莉ちゃんの隣に並んで、彼女の手を握った。
 会いたい人もいる。もっと話したかった、とか、後悔もある。
 でも、私には前に進むことしかできない。
 だったらせめて、笑って、後ろを振り向かずに歩くんだ。

Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.339 )
日時: 2017/09/05 23:12
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

番外編4「火の運命論」

「ん〜。やっぱ蜜柑のチョコ美味しい〜」

 学校からの帰り道。
 蜜柑から貰ったチョコレートを頬張りながら、私は声を漏らした。
 ちなみに、蜜柑は生徒会の仕事で今日は一緒に帰れない。
 まぁ、もういつものことになっているので、慣れたけど。
 ……千速と皐月がいない生活にも、早く慣れないと。

「……大切な人を失う悲しみには、慣れる、なんてのは、ありえないんだろうなぁ……」

 そう呟きながら、私はコートのポケットに手を突っ込み、蜜柑から貰ったチョコレートとは別の……私が自分で用意した、もう一つのチョコレートを取り出す。

「ははっ……渡せないことは分かってるのに……何してんだろ、私……」

 そう呟いて、私は自分を笑う。……嗤う。
 これは、千速の分でも、皐月の分でもない。ましてや、ライデンやフウマルなわけがない。
 あの四人には、また会える可能性はある。
 ……これをあげたいのは、会えないことが確定している人。

「自分で倒したくせに……馬鹿だなぁ、私」

 そう呟きながら、私はチョコレートが入った袋を宙に放る。
 寒空に放り投げられる袋を見ていた時、とあることに気付き、私は慌ててその袋を両手で受け止めた。

「……なんで私、図書館に来てんの」

 無意識に歩いてきていた場所は、かつて、鬼人……オグルに勉強を教えてもらった図書館だった。
 なんで、ここに……もう、彼に会えるわけないのに。

「何してんだろ、私……」

 そう呟きながら、踵を返して歩き出そうとした時だった。
 遠くに見えるベンチに座る、青年を見つけたのは。

「……嘘……」

 その青年には、見覚えがある。
 私はすぐに蜜柑から貰ったチョコレートをポケットにしまい、走り出す。
 気持ちが焦り、走る度に、吐息が私の目の前を白く染める。
 やがて、そのベンチまで数メートルというところまで来たところで、私は立ち止まる。

 ……あぁ……やっぱり……。
 綺麗な黒髪に、彫りの深い整った顔立ち。
 前みたいに眼鏡は掛けていないけど、でも……彼の見た目は、オグルそのもので……。

「……オグル……?」

 掠れた声が漏れた。
 私の声に、彼は読んでいた本から顔を上げ、私の方を見た。
 正面から見ると、ますますオグルじゃないか……。
 彼は髪を耳に掛け、首を傾げた。

「……誰?」

 その言葉に、私は言葉を詰まらせた。
 彼は、オグルじゃない……ソックリなだけの別人だ。
 それに気づいた瞬間、恥ずかしくなって、私は手に持ったチョコレートの袋をポケットに乱暴に突っ込む。

「す、すいません! 人違いです!」

 なんとかそれだけ叫び、私はそのベンチの前を通り過ぎて走り出す。
 恥ずかしい。穴があったら入りたい。
 そう思いながら地面を強く蹴る。

「待って!」

 後ろから掛けられたその言葉に、私は足を止める。
 突然のことだったから足がもつれて、転びそうになる。
 しかし、今転んだら、ポケットに入っている蜜柑のチョコレートが台無しになる。
 そう思い、なんとかバランスを立て直してその場にとどまる。
 荒い呼吸を整えながら、私はゆっくりと振り向いた。

「……これ、落としたよ」

 オグル似の青年の言葉に、私は彼の手元を見る。
 そこには、私がオグルのために作ったチョコレートが鎮座していた。
 恐らく、焦っていたから落としたのだろう。
 ミスの連続だ……。

「うわわ、ごめんなさい!」

 そう言いながら、私は慌てて彼の手からチョコレートの袋をひったくる。
 冷静になって彼の顔を見てみると、髪はオグルより少し長いし、髪型は少しボサッとしてる。
 顔の彫りも、オグルに比べると少し浅い。
 でも、オグル自体の面影が強く、冷静さを欠いていたあの時の私なら、間違えても仕方ないかもしれない。

「……そっか、今日はバレンタインだから……」

 チョコレートを受け取って彼のことを観察しながら云々と考えていた時、青年はそう呟いた。
 彼の言葉に、私は顔を上げ、首を傾げた。
 すると、彼は優しく笑った。

「いや、そういえば、今日はバレンタインデーだったなぁ、って」
「えっと……覚えてなかったんですか?」
「うん。元々、そういうイベントにはあまり関心も無いし、女友達もいないから、チョコレートも貰えないし」
「え、嘘だぁ! 絶対モテそうなのに!」

 見た目がオグルに似ているからか、つい素の言葉でそう言ってしまう。
 私は慌てて口を手で塞ぎ、オグルモドキさんを見つめる。
 突然タメ口をしてしまったから、多少は驚いた様子。
 しかし、すぐに困ったように笑った。

「ははっ……そう言ってもらえると嬉しいよ。でも、僕はこの通り理系オタクでね。あまり女子とは関わらなくて」
「でも、最近の女の子って、イケメンならどんな人でもがっつきそうなのに」
「まぁ、最初は結構ガンガン来られてたかなぁ……でも、僕の中身に幻滅して、皆離れちゃうんだ」

 そう言って青年はベンチに座り、隣をポンポンと叩く。
 どうやら長話をするつもりなのだろう。
 私はそれに応じ、隣に腰掛けた。

「……正直、女の子と話すのなんて、久しぶりすぎて結構緊張してる」
「えー嘘だぁ。そういう人は隣に座らせたりしないよ〜?」
「ず、ずっと立ち話してたら、君が疲れるかなって思って……嫌だった?」
「んーん。嫌じゃない」

 私の返答に、青年は安心した様子で笑った。
 よく見ると、彼はズボンをギュッと握り締めている。
 よっぽど緊張しているんだなぁ……。

「そ、そういえば、君、なんでさっき僕の名前を?」
「え、名前?」
「うん……ホラ、おぐる、って」
「……え?」

 突然の質問に、私は聞き返す。
 すると、青年は視線をキョロキョロと彷徨わせてから、口を開いた。

「えっと……あ、自己紹介遅れたね……僕は、鬼川 おぐる、って言うんだ」
「おにかわ……おぐる?」
「そう。……両親がフランス被れでね。オグルは、フランス語で、鬼って意味なんだ」
「鬼……」

 私の言葉におぐるはクスッと笑い、鞄からノートと筆箱を取り出す。
 筆箱からボールペンを取り出し、ノートのページにサラサラと『ogre』と書いた。

「おぐれ?」
「なんでこの話の流れで間違えるのかは分からないけど、続けるね。……僕は生まれつき体が弱くて、両親は、鬼みたいに強い子になるようにという意味で名付けたんだ」
「へぇ〜」
「……でも、この名前のせいで皆からは馬鹿にされてさ。……勉強だけは出来たから、今はこうして、理系の道に進んでいるんだけど」

 おぐるの言葉に、私はただ茫然とすることしかできなかった。
 どう答えれば良いのか分からず、ただ口を開けて固まった。
 ぼんやりしている私に、おぐるは、今自分が大学生で、理系を学んでいることを話してくれた。

「……それで、その……なんで、僕の名前知ってたの?」

 おぐるの言葉に、私は言葉を詰まらせる。
 まぁ、彼も色々話してくれたわけだし、今度は私が話す番か。

「えっと……実は、昔の知り合いに、おぐるさんが似ていて……その人の名前も、オグルだったんだ」
「……そんな偶然があるのか……」
「ははっ……私もびっくり……」

 そう答えていると、無意識に、チョコレートの袋を握り締める力が強くなるのが分かった。
 クシャッという音が袋からするのを聴きながら、私は続ける。

「私ね、勉強が苦手で……特に、数学が。でも、そっちのオグルは、私にたくさん勉強教えてくれたんだ。おかげで、二学期最後の数学のテストでは、百点取って」
「へぇ、すごいじゃないか」
「うん……でも、たくさん色々なことしてもらったのに……私は、恩返しも出来なくて……それで、オグルは、私のせいで……」

 そこまで言った時、胸が苦しくなって、私は口を閉ざす。
 おぐるは、それに何も言わずに、私の頭に手を置いた。
 なんで、優しくするんだ……。
 オグルに似てる彼に慰められたりしたら……涙が出てしまう。

「エグッ……本当は、このチョコレートだって、オグルにあげたかったッ……もっと、オグルにたくさん、色々教えてもらいたかったしッ……もっと、たくさん、やりたいことだってあったしぃッ……でも、私がぁッ……」
「……僕には、君に何があったのか分かってあげることは出来ない……でも、きっと彼は、君のことは恨んでないと思うよ。だって、それだけ君を大切にしていたんだから」
「でも……でもぉッ……」

 涙を流していると、頬に手を当てられ、おぐるの方に向けられる。
 それに驚いていると、眼鏡を外され、頬に伝った涙が拭われる感触があった。

「ふぇ……」
「……僕で良かったら、その、オグルさんの代わりになる。顔も似てるみたいだし……ぼ、僕なんかじゃ、役不足かもしれないけど、その……君の悲しむ顔、見たくなくて」

 そう言って、おぐるは優しく笑う。
 オグルの形見のような存在だった銀縁伊達眼鏡。
 久しぶりにレンズ越しじゃなく見る世界は、なんだかとても、新鮮だった。
 もしかしたら私は……オグルへの罪悪感に、ずっと囚われていたのかもしれない。
 だったら、これは、変われるチャンスなのかもしれない。
 オグルのことを……悲しい過去を乗り越えて、明日に進むための……。

「あ、ごめん。眼鏡無いと見えな……」

 そこまで言って、私に眼鏡を掛け直そうとするおぐるの手を掴み、私は眼鏡を奪い取る。
 驚くおぐるの顔を見ながら、私は地面に眼鏡を叩きつけて、踏みつけた。
 粉々に砕け散る伊達眼鏡を見ながら、私はフンッと息をついた。

「満足」
「満足……って、そんなことしたら、君が……」
「大丈夫。これ伊達眼鏡」
「えぇ……?」

 困惑した様子のおぐるに私は笑い、ベンチに座るおぐるに体を向ける。
 そして、ずっと握り締めたままだったチョコレートを、差し出した。

「えっ……」
「これ、あげる。……どうせ、あげる人いないし」

 私の言葉に、おぐるはゆっくりと私の手からチョコレートを取った。
 恐る恐ると言った感じの素振りに笑いつつ、私は続けた。

「私、火場朱莉。今日からよろしく!」

 私はそう言って、笑って見せた。

Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.340 )
日時: 2017/09/05 23:31
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

いかがだったでしょうか番外編。
ひとまず時間軸としては、最終回後すぐにバレンタインデーに当たりますね。
……なんで私NL書いてんの←

あとがきで散々百合好きを公言していながら私は一体何を血迷った作品を書いているんでしょうね。
元々これは、寝る前に私の男の好みについて考えていたことがきっかけです。
正直言って私、精神年齢が幼い男無理なんです。
それで、精神年齢大人なら良いかなーって思ってたところで私の思考回路はすっ飛び、風林火山プリキュアへと至りました。
風林火山プリキュアの男性陣って勇太以外割と好きなんですよ!勇太は嫌い!!!

それで、オグル×朱莉、オルコ×皐月……良かったなぁ……。
蜜柑ちゃん……可愛かったなぁ……。
風林火山プリキュア……書いてて楽しかったなぁ……。
( ゜д゜)ハッ!
番外編書けば良いじゃん!

そんなアホみたいなことを寝る前に考えてました。
そしてこんな夏と秋の狭間を彷徨う季節の中、思いついたネタはバレンタインデー!
いやぁ、アホなんですかね。
そしてバレンタインデー!と先ほど打ったところで、ホワイトデーは!?という脳内からのツッコミがありました。
もしかしたらホワイトデー編するかもしれません。
私としてはもっと朱莉×蜜柑の百合を増やしたいというのに……。

そしてさらに驚くことに、バレンタインデーネタを思いつき書いてる最中に金賞受賞してましたからね。
一体何の因果なのでしょうか。不思議です。
まぁ、Twitterでの宣伝で参照数は増えていたようなものですが、多分Twitterでの知り合いの方は投票とかしていないと思うので、今回はカキコ民の方々のおかげですかね。
「風林火山のプリキュア書くお♪」のノリで書き始めた小説がここまで立派になるとは思いもしませんでした。
噂では、この小説の影響でカキコにプリキュア小説が増えたとか……。
もし本当なのであれば、嬉しいと思うのと同時に、せめてもっと面白いものを書けやクソがと毒を吐きたくなる所存です。
はっはっは。皆さん台本書きは小説じゃないですよ。
台本書きがしたいのであればいっそのこと脚本家になりましょう。劇の脚本なら講座受けてるのでアドバイスしますよ。

冗談はさて置き、今回の金賞の件に関しては本当に感謝しています。
風林火山プリキュアは、初めてのオリキュア小説ですし、かなり思い入れもあります。
色々なプリキュアをWikipediaで調べ、何話にどんな回を持って行くのが良いのかを調べながら書いたり、技名を考えるために英語だけじゃなくドイツ語やフランス語やイタリア語に手を出したりしたのがとても楽しかったです。
ちなみに別の言語に手を出す手段を覚えていなかったら蜜柑ちゃんは高確率でキュアマウンテンでした。ダッセ。

完結とは書いていますが、主に私が風林火山プリキュア中毒者なので、また番外編を書いて行くと思います。
なので、これからも風林火山プリキュア、そして、一応オリキュア二作目にあたるメモリアルプリキュア。双方とも応援していただけると幸いです。

……はいっ。


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