二次創作小説(映像)※倉庫ログ

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【完結】風林火山プリキュア!
日時: 2017/08/01 13:12
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=31539

初めまして!愛と言います!
今日からは、オリジナルのプリキュア、通称オリキュアの小説を書きたいと思います!
初の試みなのでグダグダとかになると思いますが、暖かい目で見てやって下さいw
よろしくお願いします!

追記:上記URLにて風林火山プリキュアの劇場版という名目の中編を載せています。良かったらそちらも見てやってください。

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Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.196 )
日時: 2017/06/26 17:37
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第29話「偽物を見破れ!一番の友達」4

<朱莉視点>

 昼休みになった。
 相変わらず蜜柑への疑惑は深まるばかりで、私はそれを必死に隠しながら、今日も皆で屋上に行って昼食をとる。

「……蜜柑……左利きだっけ……?」

 左手で箸を持って弁当を食べ始めようとする蜜柑に、私は、ついそう聞いた。
 それに、千速は「ちょっと朱莉」と鋭い声をあげた。

「まさか、まだ蜜柑のこと疑ってるの?」
「いや、だって、蜜柑右利きでしょ?」
「え……あぁ、最近少し左利きの練習もしてみようかなぁって思ってて……変かな?」
「変」

 私が即答すると、蜜柑は困惑した感じの笑みを浮かべる。
 その様子に、ますます苛立ちのようなものが募っていく。

「全く……ごめんね蜜柑。朱莉ってば、蜜柑のことが変だとか言い始めて」
「私が? 朱莉ちゃん、まさか変な漫画でも読んだんじゃないの?」
「違う! そういうのじゃなくて……!」

 私はそう言いつつ、額に手を当てる。
 どうすればいい……? このままじゃ埒が明かない。
 そこで、私はピコンッととあることを思いつき、顔を上げた。

「蜜柑……蜜柑にとっての一番の友達って……誰?」
「へ……?」

 私の質問に、蜜柑はしばしキョトンとする。
 手に汗をかくのを感じながら、私は次の言葉を待った。

「そんなの……朱莉ちゃんに決まってるじゃない」
「貴方、誰?」

 自分でも分かるくらい、冷酷な声が出た。
 私の唐突な言葉に、千速と皐月が驚いたような表情をする。

「えっ……朱莉ちゃん、急に何を……」
「本物の蜜柑はね、友達に順番はつけられないって、言うんだよ」
「そういえば、今朝……」

 思い出したかのように言う皐月に私は頷きつつ、改めて、目の前にいる『蜜柑』に視線を向けた。
 彼女はしばらく驚いたような表情をしていたが、やがて、「あーあ」と言って立ち上がる。

「馬鹿なアンタが一番騙せると思ったんだけどなぁ……」
「まさか、本当に偽物……?」

 千速が恐る恐る聞くと、『蜜柑』はそれにニヤリと笑い、三つ編みを縛るゴムに指を掛ける。
 やがてその指を勢いよく動かしてゴムを外すと、束ねられていた髪が風になびいて解ける。
 その様子に、私は息を呑んだ。

「髪型まで優等生かよこの女は……堅苦しくてありゃしない」
「本物の蜜柑に何をしたの! 貴方は一体!」
「……ったく、幼馴染同士揃って人の話を聞かないね」

 忌々しそうにそう言う『蜜柑』の胸ぐらを掴み、私は顔を寄せた。
 ……いや、こんなことをしている場合ではない。
 私はすぐに『蜜柑』から手を離し、屋上から出る扉の方に走った。

「蜜柑、蜜柑、蜜柑……!」

 気持ちが焦る。
 もし彼女に何かあったら……もし、怪我か何かしていたら……。
 でも、よく考えたら、蜜柑の居場所の手がかりなんてどこにもない。
 私は立ち止まり、俯いた。

「どうすれば……!」
「あ、今朝落としたってハンカチ、見つかったの?」

 ちょうど立ち止まった時、近くから女生徒の会話が聴こえた。
 私は顔を上げて、その会話に聞き入る。

「うん。でも変なことがあってさぁ」
「え、何?」
「いや……私今日トイレに行ってないのに、これ拾った子が、トイレで拾ったって」
「何それこわーい」

 その会話に、私の頭の中で、少しずつピースが組み立てられていく。
 あくまで、もしかしたらの話だけど……もしも、そのハンカチを蜜柑が拾っていたとして、そのトイレで、蜜柑自身に何かあって偽物と入れ替わって、それで……そのハンカチだけ、トイレに置き去りになっていたとしたら……?
 蜜柑に違和感を抱き始めたのは、蜜柑が職員室に行くと言って分かれた後。少なくとも、それまでは本物の蜜柑だった。
 分かれた位置から職員室までの廊下にはトイレはない。
 じゃあ、職員室から教室までの廊下では……一つしかない。

「……!」

 思いついた時には、すでに、私の体は自然に動いていた。
 床を蹴って、蜜柑がいるであろう場所まで、一気に駆ける。

Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.197 )
日時: 2017/06/26 18:49
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第29話「偽物を見破れ!一番の友達」5

<蜜柑視点>

 どれだけの時間が経っただろうか。
 私はその場にへたり込み、ただただ、自分のせいで朱莉ちゃんが傷つくかもしれない恐怖に苛まれていた。
 でも、どうしようもないよ。
 『私』の言葉を全て信じるなら、この鏡は、こちら側と向こう側。両方から同時に割ることで、やっとあちらに行けるらしいし。
 しかし、向こう側のトイレに来た人の態度から察するに、こちら側で何をしても、声も届かないし、姿だって見えていない様子だった。
 ……不可能じゃないか……。

「蜜柑ッ!」

 その時、鏡の向こう側から名前を呼ばれ、私は顔を上げた。

「朱莉……ちゃん……?」

 掠れた声が口から零れた。
 鏡の向こう側には、青ざめた表情でトイレを見渡す朱莉ちゃんの様子があった。
 なんで……ここが分かって……? いや、今はそんなことどうでもいい。

「朱莉ちゃん! 朱莉ちゃんッ!」

 私は叫び、鏡を手でバンバンと叩く。
 もちろん、そんなことをしても意味ないのは分かっているけど、少しでも気付いてほしかったから。

「蜜柑! どこにいるの!? 蜜柑!」
「朱莉ちゃん! ここだよ! 私は、ここにいるよ!」

 必死に私は訴えかける。
 その時、朱莉ちゃんは微かに動きを止めて、大きく見開かれた目でこちら側を見た。

「今の声……蜜柑……?」

 声が届いた……?
 なぜだろう……分からない。とにかく、声が聴こえたんだ!

「え、蜜柑、まさか、鏡に……」

 フラフラとこちらに近づいてきた朱莉ちゃんは、ソッと鏡に触れる。
 私はその手に重ねるように、自分の手を鏡に当てた。
 その瞬間、触れた部分が温かくなるような感覚がした。
 直後、朱莉ちゃんは驚いたように目を見開き、私の顔を見つめた。

「蜜柑……ここにいたんだね……」
「朱莉ちゃん……!」

 私達は微笑み合い、額を付け合わせた。
 しかし、状況が解決したわけではない。
 あくまで、奇跡的に朱莉ちゃんとコミュニケーションが取れているだけの状態。

「蜜柑、どうしたらそこから出られるか分からない?」
「……多分、だけど……お互いに、同時にこの鏡を攻撃して割れたら、きっと……」
「本当!?」

 聞き返され、私は小さく頷く。
 それに朱莉ちゃんは真剣な表情で「そっか……」と言い、少し辺りを見渡したところで、デッキブラシを拾う。
 私はそれに、すぐに床に落ちていたデッキブラシを拾い、鏡の向こう側にいる朱莉ちゃんを見た。
 朱莉ちゃんは頷き、デッキブラシを構えた。

「「せーの!」」

 同時に掛け声を言い、デッキブラシを同時に鏡にぶつけた。
 その瞬間、鏡に大きな亀裂が入り、やがて、粉々に砕け散る。
 やがて、その場所に光り輝く穴が出来て、私はすぐにその中に飛び込んだ。

「朱莉ちゃん!」
「蜜柑!」

 飛び出してきた私を、朱莉ちゃんはすぐに抱きとめる。
 そのまま私達は床に転がり、しばらくの間抱きしめ合う。

「蜜柑……蜜柑! 良かった……本物の蜜柑だ……」
「朱莉ちゃん……」

 私達は顔を見合わせ、笑い合う。
 その時、トイレの扉が勢いよく開くのが分かった。

「ッ……少し遅かったか……」

 そこにいるのは、悔しそうに歯ぎしりをする『私』だった。
 それに、少し遅れて入って来る千速ちゃんと皐月ちゃん。
 二人は、私と『私』を見比べて、驚いたように目を丸くした。

「蜜柑が……二人……?」
「違う……そっちが偽物」

 朱莉ちゃんの即答に、二人は『私』の方を見た。
 『私』は、それにチッと舌打ちをする。
 直後、彼女の姿が黒い靄に包まれ、少しずつ膨張していく。
 やがて、それは巨大な鏡のオンネーンと化す。

「こんな狭いところで変身するなっての!」

 朱莉ちゃんは不満を口にすると、少し迷った後で唐突に私の腕を引き、窓から飛び出した。
 って……ここ二階!
 そう戸惑っている間に、朱莉ちゃんは私を片手で抱きしめ、もう片方の手で落ちる先にあった木の枝を掴み、宙づりになる。

「蜜柑……動かないでね。危ないから」
「う、うん……」

 落ちないように、私はすぐに朱莉ちゃんの体を抱きしめる。
 その時、頭上から何かが粉砕する音がした。
 恐らく、オンネーンが飛び出してきたのだろう。
 朱莉ちゃんはそれに木の枝から手を離し、着地する。
 私はそれに彼女から離れ、オンネーンの方に視線を向けた。

「朱莉、蜜柑!」
「無事でしたか!」

 その時、千速ちゃんと皐月ちゃんがこちらに走って来るのが見えた。
 朱莉ちゃんはそれに「遅いよ〜!」と不満そうな声をあげた。

「それじゃあ……いくよ、皆!」
「「「「プリキュア! フォースオーラチェンジ!」」」」

Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.198 )
日時: 2017/06/26 21:42
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第29話「偽物を見破れ!一番の友達」6

「侵掠すること、火の如し! キュアフレイム!」
「疾きこと、風の如し! キュアウィング!」
「動かざること、山の如し! キュアモンテ」
「徐かなること、林の如し! キュアフォレスト!」
「風!」
「林!」
「火!」
「山!」
「「「「プリキュア!」」」」

 変身を終えた瞬間、朱莉ちゃんは「うおおおおおおおおおお!」と叫びながら走り出す。

「朱莉ちゃん!?」
「あー……あれは完全に怒ってるなぁ……」
「えぇ!?」
「朱莉、私達の中で唯一蜜柑のことに勘付いていましたし……愛されていますね」
「それは良いけど朱莉ちゃん……怒りのあまりサンダーブレス忘れちゃってるよぉ……」
「「えっ!?」」

 二人が驚くのを見ながら、私はすぐに腕を構える。

「動くこと、雷霆の如し! サンダーブレス! モンテ!」

 そう叫び、すぐに駆ける。
 その時、ちょうど朱莉ちゃんにオンネーンの攻撃が加わり、こちらに飛んでくるのが見えた。

「わわっ……」

 私は慌てて飛んでくる朱莉ちゃんを抱き止め、少し踏ん張る。

「っつぅ……あんにゃろー……」
「朱莉ちゃん、一回冷静になって! サンダーブレス付けないで勝てるわけないよ?」
「……あっ!」

 思い出したかのように言う朱莉ちゃんに苦笑しつつ、私は彼女の手を握った。

「朱莉ちゃんは一人で戦ってるんじゃないんだから……ね?」
「蜜柑……うんっ!」

 朱莉ちゃんはそう頷くと、腕を構える。

「動くこと、雷霆の如し! サンダーブレス! フレイム!」

 サンダーブレスを装着した朱莉ちゃんは、私の手を握った。
 そして、ニッと笑う。

「行くよ……蜜柑」
「うん……朱莉ちゃん」

 私達は笑い合い、オンネーンの方に視線を向けた。
 すると、オンネーンが腕を振り下ろしてくる。

「「せーのっ!」」

 掛け声と共に、ジャンプでそれを躱す。ちょうど足元の辺りにオンネーンが見える。
 私達は手を強く握り直し、ゆっくりオンネーンに向かって落下する。

「「はぁぁぁッ!」」

 落下する速度と威力を利用して、オンネーンに同時に蹴りを入れる。
 足は、それだけでオンネーンにめり込み、衝撃が響いてくる。
 それから一度離れて体勢を立て直そうとした時、オンネーンの鏡が日光を反射して、視界が一瞬眩しくなる。

「しまっ……!?」

 私達は同時に手で視界を覆う。
 その時、微かにオンネーンが動くのが見えた。
 攻撃される!?

「動くこと、雷霆の如し! サンダーブレス! ウィング!」
「徐かなる林よ! 動く雷霆よ! 今、二つの力よ! 我に集い、力と成れ! フォレストロッド!」

 しかし、それを千速ちゃんと皐月ちゃんが受け止める。

「全く……私達もいるんだから、忘れないでよ?」
「さぁ、トドメを刺すなら今です!」

 皐月ちゃんの言葉に、私達は顔を見合わせ頷き合う。
 そして、私は朱莉ちゃんの手を握る手を強くして、一度踏ん張る。

「いっけええええええええッ!」

 柄にもなく叫び、私は遠心力を使って、どうにか朱莉ちゃんの体を放り投げる。
 朱莉ちゃんは空中で身を捩り、右手を突き出す。

「侵掠の火よ! 我に集い、力と成れ! プリキュア! フレイムバーンッ!」

 そう叫ぶと同時に、業火がオンネーンを襲い、浄化していった。

Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.199 )
日時: 2017/06/26 22:20
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第29話「偽物を見破れ!一番の友達」7

 オンネーンを倒した後、私達は屋上に戻り、一息つく。

「それにしても、本当、全然気づかなかったわ。蜜柑の偽物」

 弁当を食べながら千速ちゃんはそう言った。
 その言葉に、私はついムッとしてしまった。

「全然違うもん……私あそこまでは流石に性格悪くない」
「いえ、蜜柑の前ではいざ知らず、私達の前ではとても上手に蜜柑を演じていたので……すっかり騙されてしまいました」

 悪びれる様子もなく皐月ちゃんはそう言う。
 どんな演技をしていたのかは分からないけど、せめて少しくらい疑ってほしかったなぁ……。
 そう思い不機嫌になっていると、朱莉ちゃんが苦笑しながら私の頭を軽く撫でた。

「まぁ、何はともあれ、元に戻ったから、結果オーライだよね」
「……そういえば、そんなにそっくりな私の偽物……どうして朱莉ちゃんは見破ることできたの? すごいそっくりだったんでしょう?」

 私が聞くと、朱莉ちゃんは「んー」と言って顎に手を当てた。
 彼女の様子を不思議に思っていると、突然抱きしめられた。

「わッ!?」
「それはー、蜜柑が一番の大親友だから!」
「だから、友達に順番は付けたくないって……!」
「……朱莉が蜜柑の偽物を見破った時の話、してあげようか?」

 千速ちゃんの言葉に、私は動きを止める。
 なんだか少し、嫌な予感がする。
 なぜか皐月ちゃんは楽しそうに笑みを浮かべた。

「朱莉、偽物の蜜柑に、蜜柑の一番の友達は誰なのか聞いたんですよ」
「はぁ……?」
「そしたら偽物の蜜柑ってば、朱莉ちゃんに決まってるじゃない、って」
「へ……!?」

 自分の顔が熱くなるのを感じる。
 恐る恐る朱莉ちゃんの顔を見ると、ニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべていた。

「いやぁ、蜜柑が本当はそんなことを思っていただなんてねぇ……」
「朱莉ちゃ……これは、えっと……」
「でも〜……」

 そこまで言うと、朱莉ちゃんは私の顔を覗き込んでくる。

「私は、本物の蜜柑の口から聞きたいなぁ?」
「っ……あ、朱莉ちゃんは……私の、一番大切な友達、だよ……」

 つい、尻すぼみな感じになってしまう。
 改めてこういうことを言うと、恥ずかしくて仕方がない。

「んー。私もー!」

 すると、朱莉ちゃんはそう言って抱きついてきた。
 突然のことに私は驚き、助けを求めるように千速ちゃん達に視線を向けるが、なぜか二人は「やれやれまたやってるよ」的な反応で、助けてくれる様子はない。

「朱莉ちゃん! は、離して!」
「えーやだー。蜜柑一人にしたら、また何かされそうだしー。もう離したくないー」
「別に抱きしめなくても、朱莉ちゃんが守ってくれれば大丈夫だから! それに、何かあっても、また朱莉ちゃんが助けてくれそうだし」
「むっ……確かに」

 そう言うと、朱莉ちゃんはパッと手を離した。
 私はそれに一息つき、微笑んで見せた。

「ホラ、早くしないと昼休憩終わっちゃうよ。早く食べよ?」
「え!? あ、本当だ!」
「全く……二人は静かに食事することすらできないのね。二人揃って小学生みたい」

 千速の言葉に、私と朱莉ちゃんは同時に「小学生じゃない!」と叫んだ。
 それがなんだかおかしくて、これまた同時に吹き出した。

Re: 【感謝】風林火山プリキュア!【参照2000越え】 ( No.200 )
日時: 2017/06/27 16:46
名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)

第30話「ライデンの秘密?進化への道しるべ」1

<千速視点>

「まさか、鏡をオンネーンにすることで偽物を作り出すことができるとは思いませんでしたわ……」

 夜。窓の外を眺めながら、皐月は唐突にそう言った。
 それに、麦茶を二杯持って上がって来たばかりの私はしばらく困惑する。

「えっと……もしかして遅すぎた?」
「千速……少しそこに座ってください」
「はい!?」

 突然の命令に私はつい聞き返す。
 すると、皐月はムッとした表情をして、床に正座をすると、自分と対面する位置にある床をポンポンと叩いた。
 仕方なく私はその近くにコップが乗ったトレーを置き、同じように正座をした。

「それで、何の用……?」
「……私達が戦っている理由は、村を取り戻すため。それは間違いありませんよね?」

 その言葉に、私はガクガクと頷いた。
 皐月はそれに微かに笑うと、麦茶のコップを手に取って少し啜った。

「……では、朱莉と蜜柑が戦う理由は?」

 彼女の言葉に、私はしばしの間硬直した。
 口の中が渇くのを感じながら、私は口を開いた。

「えっと……風林火山の書に、選ばれたから……?」
「えぇ、そうです。本来であれば、この問題は彼女達に直接的な関係は無いものです」
「……」

 否定はできない。むしろ、正論だ。
 朱莉達は、あくまで不可抗力と善意で戦ってくれているに過ぎない。
 その時、今日、蜜柑が鏡に閉じ込められ、偽物と入れ替わった事件を思い出し、私は自分の手に汗をかく。
 私の表情から察したのか、皐月は麦茶が入ったコップを床に置き、「そうです」と口を開く。

「私達の問題のために戦ってもらっている以上、私は、彼女等の安全を保証する義務があると思いませんか?」

 カランッ、と。麦茶の中の氷が音を立てる。
 私はそれに唾を飲み込み、皐月の顔を見た。

「安全を保証って……まさか、あの二人を庇いながら戦ったりしろとか?」
「いえ、流石にそれは……朱莉はそういうの嫌いそうですし」
「……じゃあ、何をするの?」

 私はそう聞きながら麦茶を啜る。
 冷たい液体が喉を通り、腹の奥を冷やしていく。
 その様子を見ながら、皐月は視線を私から外し、別の方向に向ける。
 コップを置いてその視線を追ってみると、そこには、妖精の姿で眠っているライデンがいた。

「……?」

 私は首を傾げ、皐月の顔を見る。
 皐月はそれに私の顔を見て、口を開く。

「あの二人に話すより前に、千速には話しておこうと思います。……ライデンの秘密を」
「ライデンの……秘密……?」

 私はつい、復唱する。
 それに、皐月は頷いた。

「え、ちょっと待ってよ……それって……どういう……」
「……例えば、の話ですが……」

 皐月はそこまで言って、少し口ごもる。
 やがて、キッとした目を私に向けて、言葉を綴る。

「もし、伝説の書が風林火山の書の他に存在したと言ったら……どうします?」


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