二次創作小説(映像)※倉庫ログ
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- 【完結】風林火山プリキュア!
- 日時: 2017/08/01 13:12
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel7/index.cgi?mode=view&no=31539
初めまして!愛と言います!
今日からは、オリジナルのプリキュア、通称オリキュアの小説を書きたいと思います!
初の試みなのでグダグダとかになると思いますが、暖かい目で見てやって下さいw
よろしくお願いします!
追記:上記URLにて風林火山プリキュアの劇場版という名目の中編を載せています。良かったらそちらも見てやってください。
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- Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.356 )
- 日時: 2017/11/18 11:28
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
Ten years after 2
<蜜柑視点>
「起立、気を付け。ありがとうございました」
学級委員長の号令に合わせて、生徒達が「ありがとうございました〜」と挨拶をする。
私はそれに一緒に挨拶をして、教材などを纏める。
今から昼休憩。生徒達は弁当を食べる時間。
私達教員は、担任の教師は一緒に食べたりするが、それ以外は基本職員室での食事になる。
さっさと教室を出ようとした時に、「遠山先生」と名前を呼ばれた。
「さっきの授業で分からなかった箇所があるんですけど」
そう言ってノートを見せてくるのは、このクラスの水沢真由美という生徒だった。
彼女の言葉に、私は「なぁに?」と返事をしつつ、彼女のノートを覗き込んだ。
「ここ……この時の主人公の心情がよく分からなくて」
「あぁ、ここはね……」
私が出来るだけ分かりやすく教えてあげると、真由美ちゃんはパッと笑顔になった。
「ありがとうございます!」
「いえいえ。また分からないところがあったら遠慮なく聞いてね?」
「ハイ!」
真由美ちゃんは笑顔で頷くと、友達の方に歩いて行った。
その後ろ姿を見送り教室を出て、職員室に向かって歩き出す。
その時、隣のクラスから鬼川先生が出てくるのが分かった。
「鬼川先生っ」
私が名前を呼ぶと、鬼川先生はこちらに振り向いた。
そして、端正に整ったその顔を綻ばせた。
鬼川おぐる先生。私と同時期にこの学校に来た先生で、年齢は私より四歳上。
しかし、綺麗な顔立ちと優しい性格、分かりやすい教え方から、生徒———主に女生徒から、人気があるのだ。
「遠山先生。今から職員室に戻る所ですか?」
「ハイ。鬼川先生も?」
「えぇ。一緒に行きましょうか」
鬼川先生の言葉に私は甘えることにした。
隣り合って並んだ時、どこからか黄色の悲鳴が上がった。
あ、そっか……。
「鬼川先生、女の子達に人気ありますから……嫉妬とかされないかな」
私の呟きに、鬼川先生はしばらくキョトンとした。
やがて、「プハッ」と息を吐くような感じで笑った。
「あははッ! そんなわけないじゃないですか」
「もう! 先生は自分の人気を自覚していないんですよ!」
「いやいや……それはそっくりそのまま返しますよ」
「へ?」
つい聞き返すと、鬼川先生はクスクスと笑った。
「遠山先生、僕と同じくらいかそれ以上に人気じゃないですか。女の子達的には、僕と遠山先生に付き合ってほしいって願望を持っている子が多いみたいですよ?」
「な、何ですかそれ!?」
私と鬼川先生が付き合う!?
そんなこと、絶対にありえない!
おまけに、私が鬼川先生以上に人気があるなんて信じられないし……。
動揺した私の顔を見て、鬼川先生はクスクスと笑う。
まさか……。
「からかってますか?」
「いやぁ、言ったことは全部事実なんだけど……遠山先生の反応が面白くて」
「もう、趣味悪いですよ?」
私の言葉に、鬼川先生は笑いを堪えながら「ごめんごめん」と笑った。
全く……。
「こんな人にも彼女が出来るんですから、世も末ですね」
つい零すと、鬼川先生は「酷いなぁ」と言う。
そう、この鬼川先生には彼女がいるのだ。
相手は、映画やドラマでスタントマンをしてる人だって。
スタントマンなのであまり有名ではないが、それでも、そういう撮影とかの方では引っ張りだこにされているらしい。
今日もここから車で十分くらいの場所にある廃工場で撮影を行っているのだとか。
年齢は私と同い年らしいから……二十四歳か。
出会ったのは彼女が中学二年生の時だと話していたので、今から十年前くらい。
今は同棲しているらしく、結婚は秒読みだと職員室での噂されている。
そして……それを生徒は知らない。
「ははっ……でも、そう言う遠山先生にも、彼氏、いるんですよね?」
「……」
つい視線を逸らすと、鬼川先生は「やっぱり」と言ってクスクス笑う。
一応彼氏はいる。中学生の時に生徒会長をしていた岩室君だ。
あれから同じ高校に進み、そこでも一緒に学級委員長だとかをする機会があり、意気投合して付き合うことになった。
彼は、今は若手警察官として働いている。
「……でも、私と違って、鬼川先生は生徒から人気がありますし……早めにネタ晴らしした方が良いんじゃないですか?」
「それは、お互い様だけどね。……遠山先生だって、男子から絶大な人気を誇っているじゃないですか」
「ありえないです!」
そんな話をしつつ、職員室に入る。
持っていた教材をテーブルに置いていた時、隣の机にある鬼川先生の携帯電話がバイブレーションを鳴らしていた。
「鬼川先生。電話来てますよ」
「え、あ……ホントだ」
「おや、彼女さんかい?」
携帯電話を手に取った鬼川先生を見て、近くの机に座って作業をしていた古宮徹先生が茶化すように言った。
古宮先生は今年で五十歳になる先生で、ふくよかな体型だが、温和な顔立ちと人を楽しませる話し方のおかげで、生徒からはまた、人気がある。
鬼川先生がこの学校のアイドルなら、古宮先生はお父さん的な立場だ。
「えぇ、まぁ……」
「……あれ? 確か、今は撮影中なんじゃ……」
「あぁ……急ぎの用事かもしれないし、少し席を外します」
「はいよ」
「了解しました」
私達の返事を聞いた鬼川先生は、安堵の表情を浮かべた。
そして職員室の隅で電話を始める。
「しっかし、鬼川君と言い遠山さんと言い……若いってのは良いねぇ」
「古宮先生ってば……古宮先生にだって、奥さんがいるじゃないですか」
「ウチの鬼嫁はダメだ。厳しい。今二十代に戻れるなら遠山先生と結婚したいねぇ」
「もう、古宮先生ってば」
私が笑うと、古宮先生も「はっはっは」と快活に笑う。
こんなことを言ってはいるが、古宮先生は奥さんのことが大好きだ。
ちょうど来週が結婚記念日らしく、何を買おうか他の先生に聞いたりしているのを見た。
私は聞かれなかったが、古宮先生曰く、私は若いし性格は奥さんと真逆だから参考にならないんだって。
「そういえば、結婚記念日って何を買うのか決まっ……」
そう言いつつ古宮先生を見た時だった。
突然、ボールペンを突き出されたのは。
「なッ!?」
咄嗟に身を捩ってその一撃を躱す。
すぐに床を転がって顔を上げると、そこには、あきらかに異常な目で私を見ている古宮先生の姿があった。
「ふ、古宮先生……?」
「……キュアモンテ……ヤット、見ツケタ……」
「は……?」
キュアモンテ……やっと、見つけた……?
古宮先生の言葉に首を傾げていた時だった。
「な……それは本当か!?」
鬼川先生の言葉に、私は首を動かして鬼川先生の方を見る。
彼は焦燥した顔で携帯を耳に押し当て、「すぐに行くから!」と言って電話を切った。
それから顔を上げた時、サッと顔を青ざめさせた。
なんとなく状況を察しつつも、私は鬼川先生と同じように顔を上げた。
「何、これ……」
すると、職員室にいた先生は皆、常軌を逸した顔でフラフラと私の方に視線を向けた。
先ほどの私の呟きが聴こえたのか、鬼川先生は私を見た。
「遠山先生……!」
「鬼川先生、これは一体……」
私が聞くより先に、鬼川先生は私の手を取って走り出す。
引きずられるように走りつつ後ろを振り向くと、そこには、こちらを追いかけてくる先生達の姿があった。
「お、鬼川せんせッ……これは、一体……!」
「分からない! とにかく、俺の車があるから!」
そう言って玄関から飛び出し、職員駐車場に出る。
鬼川先生は近くにあった黒い車の鍵を開け、私を押し込み、運転席に乗り込んだ。
「ハァッ……ハァッ……」
「ハァ……鬼川、さん……ハァ……この状況は、一体……?」
「分からない……でも、朱莉の所でも、同じような状況になっているらしい……ゲホッ……」
朱莉……恐らく、彼女さんの名前だろう。
朱莉の所、とは、今撮影している場所のことか。
鬼川先生はエンジンをかけながら、荒くなった呼吸を強引に整える。
「とにかく、朱莉の所に向かおう。人数が多い方が、色々と安全だ」
「そう、ですね……」
鬼川先生の言葉に肯定した時だった。
目の前に、大量の生徒が現れたのは。
「なッ!?」
「くッ……のんびりしすぎたか」
忌々しそうに呟く鬼川先生。
すでに車は大量の生徒達で埋め尽くされ、車は走り出せない。
このままでは……!
「……遠山先生は、車の免許はありますか?」
「え、はい……」
「……僕が時間稼ぎをするので、その間に、朱莉の元に……」
「ちょ……!」
私が止めるより先に、鬼川先生は車から飛び出した。
そして生徒達を掻き分け、どんどん遠くに走っていく。
すぐに生徒達は鬼川先生を追いかけて、車から離れていく。
「鬼川先生……!」
つい名前を呼んだ。
しかし、今私がすべきことはそんなことではないということを思い出す。
私はすぐにアクセルを踏み、学校を飛び出した。
向かうべき場所は、この近くの廃工場。
まずはそこで、朱莉さんと合流しなくては……。
- Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.357 )
- 日時: 2017/11/19 21:19
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
Ten years after 3
<千速視点>
「とうッ」
私は枝から枝に飛び移り、手に持った鉈で自分が乗っている枝を切り落とす。
落下する枝を蹴り飛ばし別の枝に飛び移ると、頭上にあった枝を切り落とした。
乗っている枝に手を掛け、私は宙吊りになる。
地面の方向を確認すると、私は手に持っていた枝を切り、しっかりと地面に着地した。
「千速ちゃんは身軽ねぇ」
そう言って微笑む老婆、美智子さんの言葉に、私は「いえいえ」と応答する。
最近美智子さんの家の近くの枝が何本か伸びっぱなしになり、日陰になっているせいで洗濯物が乾かないと嘆いていたのだ。
なので、村でも一番の身軽さを誇る私が鉈を片手に美智子さんの家に押しかけ、こうして枝を切ったのだ。
地面に落ちている枝を拾っていると、それを見ていたフウマルに苦笑された。
「身軽さを披露するのも良いけど、せめて怪我は無いようにな? 大体、この鉈はどこで手に入れた」
「それは……」
「あぁ、それは俺が貸したんだよ」
そう言って家の中から顔を覗かせたのは、美智子さんのお孫さんの健一だった。
私より二歳年上の彼は、フウマルに「悪い悪い」と謝りつつ鉈を受け取った。
ちなみに余談だが、健一よりフウマルは断然年上だ。
しかし、この村の妖精は一定年齢に達すると、人間態の時の見た目年齢を好きな年齢で止めることが出来るようになるのだ。
というわけで、フウマルは私や健一と同年代くらいの見た目年齢にしている。
「……千速が怪我をしたらどうする」
「いやぁ、千速ちゃん昔からこんくらいヤンチャだし、変わらなくない? あと、婆ちゃんがそこの枝に迷惑していたのは事実だし」
「お前が枝を切れば良い」
「俺はあんなに身軽じゃないから」
ヘラヘラと笑いながら言う健一の言葉に、フウマルの顔がさらに険しく歪んでいくのが分かった。
彼の様子に、私はため息をついた。
フウマルは昔から過保護だけれど、大人になってからもそれは変わらなかった。
普通妖精は育てている子供が二十歳になったら離れるものらしいけど、フウマル曰く、私は危なっかしいので目が離せないらしい。
『せめてまともな男と結婚するまでは……』
いつだったか、そんな風に言い訳のようなことを言っていたのを思い出す。
しかし、私が村の男の人と話すのを見る度に顔をしかめ、男友達自体がかなり少ない状況にある。
そもそも、この村には若い人間が少ない。
では少子化問題などが起こるのではないか、という話になるのだが、それは無い。
なぜなら、大体の村人は自分を育てた妖精と結婚したりするからだ。
お世話の妖精はなぜか自分の異性に当たる可能性が高く、大抵がそのままその妖精と結婚する。
過保護なフウマルを見ていると……私も、いずれはそうなるのかもしれない。
でも、別に嫌では無かった。
フウマルのことは好きだし、もし変な男を好きになって騙されるくらいなら、フウマルと結婚しても良いとは思う。
「全く……フウマル。健一とそんな言い合いする時間があるなら、枝拾うの手伝ってよ」
健一とのあほらしい喧嘩が長いので、ついそう言った。
すると、フウマルは「え、あ、あぁ……」と返事をして、私の元に駆け寄って来る。
腰を曲げ、手近にあった枝を拾おうとする。
その時、背後に気配を感じた。
「キュアウィング……ヤット、見ツケタ……」
「千速ッ!」
すぐにフウマルが私の腕を引く。
直後、私がいた所に、鉈が深々と刺さった。
フウマルに抱かれながら、私は彼に体重を預ける。
「なんで……健一……」
私の問いに、健一は答えない。
明らかに常軌を逸した目で私を見据えている。
助けを求めようと美智子さんに視線を向ける。
しかし、そこにいた美智子さんも同じような目で私を見ており、今にも立ちあがろうとしている。
「フ、フウマル……!」
「クッ……とにかく逃げるぞ!」
フウマルはそう叫ぶと共に近くに落ちていた鎌を拾い、私の腕を引いて走り出す。
私も足が速いため、フウマルの手を振り払い、彼について行くように共に走った。
すると、目の前に複数の村人が集まっているのが見え、私達は足を止める。
踵を返し来た道を戻ろうとするが、すでにそこも何人かの村人によって塞がれていた。
「ぐッ……千速、そこの塀を上って、敷地に入れ!」
「でも、フウマルが……!」
「俺はなんとかする! 良いから早く!」
フウマルの言葉に、私は唇を噛みしめる。
しかし、いよいよ辺りを囲まれ、このままでは二人ともやられることが目に見えていた。
「フウマル……ごめんなさい!」
私はそう叫び、塀に手を掛けた。
なんとか塀を乗り越えると同時に、取っ組み合いのような音が聴こえた。
フウマル、ごめん……!
心の中でもう一度謝り、私は顔を上げた。
そこは、村長の家だった。
私が十四歳の頃だったか。理由はよく覚えていないが、この家が一度跡形もなく破壊したことがあった。
多分気象災害か何かだろう。村の復興なども色々あり、それが落ち着いた頃にこうして村長邸を建て直したのだ。
そうだ、村長様なら何か分かるかもしれない。
四年前に、村長は代替わりした。
村のことを一番に考える優しい人だし、知性に富んでいて、冷静で落ち着いている。
余談だけど、その娘さんは私と同い年らしい。
いや、そんなことは関係ない。とにかく助けを呼ばなければ。
そう思い、私は村長邸に向かって駆けだした。
- Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.358 )
- 日時: 2017/11/20 22:57
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
Ten years after 4
<皐月視点>
「ふぅ……」
私はため息をつき、読んでいた本を閉じた。
すると、部屋に入って来たライデンが、私の横にお茶を置いた。
「どうした? 皐月。浮かない顔して」
「ん? あぁ、いえ……ずっと本を読んでいたので、少し目が疲れただけです」
私はそう言いつつ、ライデンからお茶を受け取り、早速口を付ける。
喉を伝った温もりは、そのまま私の胃袋の中に沈み込む。
ふぅ……と、息を漏らすと、強張っていた体から、力が抜けた。
「疲れているところ悪いんだが……」
そう言って、ライデンは数冊の本のようなものを取り出した。
彼の言葉に、私は視線を向けてみる。
「またお見合いですか……」
「村長様がな。そろそろ皐月も良い歳だし、近隣の村の長の子供と結婚させよう、って。相手もいないようだし」
「そんな話、ライデンが断ってくださいよ」
「オイラにそんな権限はない」
ブンブンと首を横に振りながら言ったライデンの言葉に、私はため息をつく。
しかし、相手がいないからお見合い結婚とは……。
相手がいれば良いのか、と一瞬思うが、そういう異性の知り合いは残念ながら私にはいない。
強いて言うならライデンだが……。
「だったら、ライデン……結婚しませんか?」
「ブフォッ!?」
私の言葉が予想外だったのか、ライデンは噎せた。
自分の胸を押さえながら咳き込むライデンに、私はムッとする。
「何ですか? その反応は。……嫌なんですか?」
「や、嫌ではないんだ。ただ……皐月はそれで良いのか?」
「どこの馬の骨かも分からない殿方と結婚するくらいなら、気心知れているライデンとの方が百倍マシです」
「そうは言ってもなぁ……」
困ったように頬を掻きつつ、お茶を飲むライデン。
けど、私が言ったことには嘘偽りなど一切ない。
よく分からない男と政略結婚させられるくらいなら、ライデンと結婚したい。
その方が、私は幸せになれると思うから。
「……なんだか、辺りが少し騒がしくありませんか?」
しかし、そんな考えは、外の騒音によりかき消された。
何か問題事でもあったのだろうか。家の周りが少しうるさい。
私の言葉にライデンは表情を引き締め、立ち上がる。
「少し様子を見てくる。皐月はここで待ってろ」
そう言って、私が止める間もなく、ライデンは部屋に面した縁側から外に飛び出していった。
一人きりになると、少し不安になる。
私は試しに、ライデンが持ってきたお見合い写真の一つを手に取り、開いてみる。
写っているのは、優しそうな顔立ちの青年だ。
しかし、たとえ顔が優しそうでも、中身までも相応とは限らない。
実は遊び人で、たくさん浮気をするような輩かもしれないし、性欲のはけ口にされて捨てられるだけかもしれない。
よく知りもしない相手と結婚できるほど、私の肝は座ってない。
その時、部屋の外から足音が聴こえた。
「……?」
ふと顔をあげると同時に、部屋の襖が開いた。
そこには……斧を構えるお父様の姿があった。
「お、お父様……!?」
「キュアフォレスト……ヤット、見ツケタ……」
焦点の合わない目で彼はそう言い、斧を振りかぶる。
あまりに咄嗟のことで、私は動けない。
スローモーションの映像の中で、斧が振り下ろされるのをただ見ていることしか……。
「危ないッ!」
その声が聴こえるのと同時だった。
お父様の顔に、何かがめり込んだのは。
「へ……?」
掠れた声が零れる。
ふと視線を下ろすとそこには……拳サイズの石が落ちていた。
それと同時に、お父様はバタリと床に倒れ込んだ。
「だ、大丈夫!?」
そう言って部屋に駆け込んで来たのは、空色の髪の女性だった。
私がそれに頷くと、彼女はホッとした表情を浮かべ、倒れているお父様に視線を向けた。
悔しそうに唇を噛みしめるが、すぐに私の手を取る。
「逃げよう。この村から!」
「で、でも……!」
「ここの人達は皆正常じゃない! 私とフウマルと貴方以外、皆おかしくなった!」
「そんな……ライデンは!?」
「ライデン?」
聞き返す女性に、私はライデンについて説明した。
私をお世話してくれている妖精であること。
外の騒動を聴いて飛び出していったこと。
私の話を聞いた彼女は、神妙な顔で目を伏せた。
「この事態については、把握していない……あの変なのが、感染とかしないと良いんだけど……」
「ッ……」
つい、目を伏せる。
しかし、今彼女の言葉を思い出すと、彼女の他にフウマルという人も正常であるらしい。
だが、今この場にはいない……ということは、つまり……。
恐らく不安や彼女への心配が顔に出ていたのだろう。
ポフッ、と頭を優しく撫でられた。
「……!」
「大丈夫。私が、無事に貴方を逃がしてみせます」
そう言って、整った顔立ちを緩ませる。
私はそれに、肩から力が抜けるのを感じた。
「分かりました。よろしくお願いします。えっと……」
「え、あ……私は千速。貴方は?」
「皐月、です。よろしくお願いしますね、千速さん」
「任せて下さい。皐月さん」
そう言って自分の胸を叩く千速さん。
それから、なんだか少しだけ気が抜けて、私達は互いに笑い合い、額を付け合わせた。
初対面のハズなのに、なぜか二人だとなんでも出来るような気がした。
千速さんがいれば、たとえ世界の全てが敵になったとしても、なんとかなるような気がした。
- Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.359 )
- 日時: 2017/11/21 18:30
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
Ten years after 5
<蜜柑視点>
鬼川先生の車を下り、鍵をして、私は顔を上げた。
そこには、廃工場が静かに佇んでいた。
私はできるだけ物音を立てないように忍び込み、近くにあった錆だらけの機械の影に隠れる。
工場の中は思いのほか広く、おまけに色々捨て置かれた機械やら何やらでかなり入り組んでいる。
とにかく、朱莉さんを探して合流したい……でも、どこを探せば良いのだろう……。
そう思いつつ姿勢を低くして歩いていた時、とある人影を見つけて、私は近くにあった機械の影に隠れた。
「キュア……フレイム……」
「ドコイッタ……」
呻くような声でそう言いながら、私が隠れている機械の向こう側を歩いて行く人影。
少しだけ目を覗かせて見ると、その人達の中には、有名な俳優さんや女優さんもいる。
撮影現場にいた全員がこんなことに……!?
私はソッとその場を離れて、奥に進んでいく。
しかし、工場内を奴等が徘徊しているとなると、朱莉さんを呼んで見つけるということは出来ない。
さらに、どういう見た目の人なのかもよく分からないので、見た目でも判断できるか怪しい。
体力が無い上に運動音痴な私では、見つかるのも時間の問題。
どうしたものか……。
「……?」
物陰に隠れながら歩いていた時、少し広場のようになっている場所が見えた。
私は咄嗟に近くにあった段ボールの山に身を隠し、様子を伺う。
そこには、何人かの人影があり、話している声が聴こえた。
一瞬味方ではないか、と期待するが、目が相変わらず異常な人なので違う。
ここからだと話し声は聴こえないが、ここで下手に動いて見つかったらまずい。
とにかく、一旦この場から離れよう。
そう思って、ゆっくり後ずさった時だった。
微かに私の肩が当たり、身を隠すのに使っていた段ボールの山が崩れたのは。
「しまッ……!」
小さく声が漏れる。
バサバサと音を立てながら段ボールの山が崩れる。
私は、自分の体が硬直するのを感じた。
「キュア……ア……?」
キュアフレイム、とやらだと思ったのだろうか。
立ち尽くす私を見て、奴等は首を傾げる。
しかし、少しして口角を釣り上げた。
「キュア……モンテ……」
だからそのキュア何たらは一体何なの!
私はすぐに踵を返し、来た道を駆け戻る。
しかし、様々な物のせいで入り組んだ狭い通路であるため、上手く走れない。
振り返ると、そこには徐々に距離を詰めてくる奴等の姿があった。
「やぁッ!」
咄嗟に叫び、私は近くにあった棚のようなものを倒す。
すると、それが良い感じでバリケードのようになり、私と奴等の間に倒れる。
多少の時間稼ぎにはなるだろう。その間に逃げなくては。
そう思い走り出そうとした時、前からも何人かこちらに向かって走って来るのが見えた。
「なん、で……」
すでに体力は限界。
絶望からか、体から力が抜けて、私はその場に膝をついた。
このまま成す術もなく捕まるのか……?
私は……これからどうなるのだろう……。
真っ先に思い浮かんだのは、今頃警察として一生懸命働いているであろう岩室君の顔だった。
結局最後まで、彼を名前で呼ぶことは出来なかった。
なんとなく照れくさくて、ずっと苗字呼びが抜けなかったのだ。
彼も私から呼ぶのを待って苗字呼びを続けてくれていたので、付き合った時間がどれだけ長くなっても、距離感はあまり変わらなかった。
彼のことは大好きだ。
でも、もし捕まったら、もう二度と会えない。
ごめんなさい……最後の最後まで、怖気づいて、恋人らしいことも出来なくて……。
次に浮かんだのは、鬼川先生の顔だった。
私に朱莉さんのことを託し、自ら囮になって私に彼女の安息を委ねた鬼川先生。
ごめんなさい……結局、朱莉さんのこと、救えなくて……。
それから、まだ見ぬ朱莉さんのことも思い浮かぶ。
彼女は今も、助けが来ることを信じて、どこかで怯えながら隠れているのだろう。
私が行かなければいけないのに……結局、行くことは出来なかった……。
ついに、目の前に数人の人達がやって来る。
手を伸ばせば届く距離。
視線を後ろに向けると、倒した棚を乗り越えてこちらに向かってくる人達がいる。
万事休す。詰み。そんな言葉が頭に浮かぶ。
でももし、最期に願いが叶うのならば。
都合の良いことかもしれない。
自己中な願いかもしれない。
でも……私は……———
「誰か……助けて……」
———掠れた声で、そう呟いた。
次の瞬間、目の前に誰かが現れた。
手に持った棒状の何かで、私に今にも触れようとしていた人の顔を殴り、私の後ろに迫っていた人を蹴り飛ばし人間ドミノのようにその後ろにいた人諸共倒す。
赤い髪を舞わせながら、彼女はゆっくりと私の方に振り向いた。
「その願い……私が叶えてあげる」
そう言って、白い歯を見せ笑う女性。
綺麗な赤髪に、同色の澄んだ目。
彼女の顔を見た瞬間、どこか懐かしい感情に襲われ、私の目からは不思議と涙が溢れた。
すると、彼女は優しく微笑み、指で私の涙を拭った。
「大丈夫。……私が、貴方のヒーローになってみせるよ」
- Re: 【完結】風林火山プリキュア! ( No.360 )
- 日時: 2017/11/22 18:53
- 名前: 愛 (ID: fYNkPhEq)
Ten years after 6
<朱莉視点>
おぐるに電話してからしばらくは、体の震えが止まらなかった。
しかし、おぐるが助けに来てくれるという事実から、徐々に私の体の震えは収まった。
そして、この場で震え隠れているだけなんて私らしくないと思った。
そもそも、こんなに入り組んだ奥深くに隠れていたのでは、おぐるだって私を見つけられるわけがない。
動かなければ。
自分から動かないと、何も始まらない。
そう思い至り立ち上がると、私は武器になるものを探した。
しばらく辺りを見渡して、錆びた鉄の棒が落ちているのを見つけた。
拾って見ると、錆びていて持った手は汚れるが、武器としては充分使えそうだった。
両手は空けておきたかったので、衣装の裾を千切って紐にして鉄の棒を腰に巻き付けておく。
しかし……どこに行ったものか……。
できるだけ物音を立てないように、慎重に進んでいく。
狭い通路。瓦礫やら機材やらの上。道なき道を進み、埃塗れになりながら、ひとまず進んでいく。
恐らく、大分奥まった場所に来ていたのだろう。
あの、変な奴等に会わずに、ずっと進むことが出来た。
……あれは一体、何だったんだろう……。
優しかった皆が、急に……。
思い出した瞬間、体が震えた。寒気がした。肌が粟立つ。
私は自分の体を抱きしめるようにしながら、その場に膝をついた。
怖い。
まるでホラー漫画にあるような話。
そもそも、なぜ私だけが無事なんだ。
なぜ、私だけ……。
『キュアフレイム……』
その時、脳裏にその声が蘇る。
キュアフレイム……それが関係しているのかもしれない。
ていうか、そもそもキュアフレイムって何?
英語って数学に続いて苦手なんだけど……あ、でも、フレイムは火……だっけ?
キュアって何……。
「ッ……!」
その時、突然激しい胸騒ぎが私を襲う。
一気に不安感が押し寄せ、血の気が引くような感覚がした。
何だ……この感覚……。
しかし、考えるより先に、私の体は動いていた。
一気に目の前にある瓦礫だとか機材を飛び越え、意識が向かう方向へと走っていた。
そこには、一人の少女がへたり込んでいた。
彼女を挟み込むように、撮影スタッフさんとかが近づいている。
私はすぐに腰に付けた鉄の棒を抜き放ち、少女と狂った人達に向かって走り出す。
もしかしたら、少女も実は奴等の仲間なのかもしれない。
もしかしたら、私を嵌めようとしているのかもしれない。
でも……ッ!
「誰か……助けて……」
彼女だけは……私が守らないといけないんだッ!
「ッはぁッ!」
情けない掛け声を発しながら、私は少女に触れようとしていた人の顔を鉄の棒で殴った。
それから、少女の後ろに迫っていた奴の腹を蹴り、後ろにいた人達にぶつけドミノ倒しのように倒れさせる。
なんとか一度呼吸を保ち、私は少女に顔を向けた。
「その願い……私が叶えてあげる」
そう言って笑って見せる。
すると、蜂蜜色の髪をした少女は、目を潤ませた。
涙が彼女の頬を伝う。
私はしゃがみ込み、彼女の涙を拭った。
綺麗な顔だ……。
守ってあげたいと、自然と思うような、儚い雰囲気。
そういえば、私がアクション俳優になりたいと思ったのは、ヒーローになりたかったからだ。
もし私がヒーローなら……彼女は、ヒロイン気質を持っているのかもしれない。
だったら、私は……。
「大丈夫。……私が、貴方のヒーローになってみせるよ」
そう言いつつ、私は鉄の棒を構えて奴等に向き直る。
と言っても、挟み撃ちにされているため、両方を倒すというのは難しい。
そして片方は私がドミノ倒しにし、かつ、倒れた棚に足を取られもがいている。
だったら通れるのは……もう片方しかない!
「はぁッ!」
叫び、私は目の前にいた人の腹を鉄の棒で突く。
そのまま力任せに押し倒し、その後ろにいた人の顔にハイキックを入れる。
元々こちら側にいた人は少ない。あと……三人!
「はッ!」
息を吐くように掛け声を発しながら、私は目の前にいた女に肘を入れる。
それは偶然にも鳩尾に入る。
悶える女を蹴り飛ばし、別の女にぶつける。
目の前にいる男がたじろいでいる間に、彼の鳩尾に鉄の棒を入れ、蹲らせる。
「ホラ、今の内に!」
「は、はい!」
私は少女の手を引き、狭い通路を走る。
しばらく走って、それから機材の上やら瓦礫の上やらを強引に歩かせ、奥まった場所に隠れさせる。
私達の呼吸はお互いに荒くなっていた。
心臓もバクバクと音を立てて、しばらく話せる状況じゃなかった。
しかし、それから数分くらいして、先に私が話せる状態になる。
少女の方はまだ呼吸が荒いようだったが、それでも大分収まって来た方だ。
「えっと……大丈夫?」
まず聞いたのは、そんなことだった。
すると、少女はビクッと体を震わせた後で、目を伏せた。
「だ、大丈夫……です……」
「……そっか……」
……会話が続かない。
とりあえず、あれだ。まずは自己紹介?
そう思っていた時、少女がガバッと顔を上げた。
「あ、あの……私、朱莉さんって人を探しているんですけど!」
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