二次創作小説(紙ほか)※倉庫ログ
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- 【ポケモン】ポケットモンスター アスタリスク
- 日時: 2014/02/09 17:45
- 名前: 小雨 (ID: FvJ38Rf9)
はじめまして。
だいぶ遅ればせながらbw発売記念と言う事で、お目汚しさせていただきます。
***注意事項***
*ポケットモンスターの二次創作小説です。
*基本一人称視点で進行。
*bw記念といいつつ、舞台はホウエン地方です。
*登場ポケモンは第五世代までの範囲で登場します。原作のキャラ達も何人か登場しますが、作者はアニメ版をあまり見ていないので、アニメ版には準拠しておりません。ので、アニメを見ている方は違和感を感じることがあるかと思います(すいません)。
*い ち お う ルネシティに住む少年のスピンオフ的作品です。てことで、始まりはルネシティ。なんでそんなモブキャラを選んだのかというと、レジ系ゲットしたくて久々に起動した第三世代ROMのルネシティの雰囲気に魅了されてしまったためです。
*作者の都合のいい解釈、展開、本編との矛盾などが多数出てくるかと思いますが生ぬるい目で見ていただけると嬉しいです。全ては作者の力不足に依るものです。尚、このホウエン地方は皆様の冒険したホウエンではなく、パラレルワールド的なものです。
*作者のランダムマッチにおける勝率は二回に一回程度のレベルです。ネット対戦勝てない人挙手。
*感想等お気軽に頂けると小雨は喜びます。大変申し訳ありませんが、本作品やポケモン等に全く関係の無い話題や雑談等の書き込みはご遠慮くださいますようよろしくおねがいします。
大体ここら辺が許せる方、よろしくお願いいたしますー。
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- Re: 【ポケモン】ポケットモンスター アスタリスク ( No.512 )
- 日時: 2012/08/07 01:36
- 名前: 小雨 (ID: L.Y1jWRR)
第147話
海中散歩
主人公スズの所持ポケモン
ルカリオ(ルーク)
ギャラドス(ギィ)
ユキメノコ(メメ)
ザングース(ザック)
チルット(チー)
コモルー(ルー)
"いい判断だったと思うぞ、スズ"
「ザック…あのままだと、二人とも大変なことになりそうだったから…」
"その事じゃない…いや、まぁそれもそうかも知れんが。聞く限りだと、お前の故郷の地形はかなり特殊なようだからな。波乗りに慣れておく事は無駄にはならんだろう"
ルネシティに入るには、空路か海路しかない。
ルネシティを囲む壁を空から越えるには、それなりの実力がないと難しいと聞いたことがある。
また海路にいたっては、ダイビングを習得しないとそもそも入り口にすら立つことができないのだ。
そういえば以前ルネシティを訪れたシロナさんは、ガブリアスに乗って飛んできたと言っていた。
今頃どのあたりを旅しているのだろうか。シロナさんと会ったのはそれほど前の事ではないはずだが、今となっては随分と懐かしく感じた。
「僕の知っている限りでは、潜入経路は空か海しかないんだ。灰色の奴らも海から襲ってきたし…ギィ、念のためダイビングの練習もしてみない?」
故郷に帰るのに潜入経路なんていうのも変な話だけど。
"あぁ、わかった。おいらもあんまり得意じゃないからな、今のうちに慣れておいた方がいいや"
そう言うと、ギィはシャボン玉のような薄い膜に包まれた。
"ふぅ…今のおいらの力じゃこの大きさが精一杯かな…"
以前シロナさんがルネシティから出て行くときに使っていた技だ。もっともシロナさんのミロカロスが出していた膜より一回りも二回りも小さいものだった。
「ギィ、キナギタウンまで海中を行ってみよう。もう半分以上来たから、それほど距離はないと思うんだ」
"…よし、潜るぞ"
徐々に体が海面に沈んでいく。それは不思議な感覚だった。
コポコポと音を立てて、僕達は潜水を始めた。
海の中は静かだった。薄い膜を隔てた向こう側に呼吸の出来ない世界が広がっているとは思えない。
どのくらい海中を進んだだろうか。海中の様子が少しずつ変わってきた。
ゴツゴツした岩のようなものが目に付く。
そういえばキナギタウンは、珊瑚礁の上にある町だと聞いたことがあった。
木の上に住居を構えているヒワマキシティや、ロープウェイで行くフエンタウン。
ルネシティだって相当変わった環境だと思うけど、色んな町があるのだなぁと思った。
「よし…ギィ、そろそろ上に上がろう。町はもう目の前だから」
"あ、あぁ…"
ギィは少し疲れているようだった。やはりダイビングはあまり得意ではないのだろう。
浮上すると、キナギタウンは目と鼻の先だった。
まるで海の上に家々が建っているようで、住居と住居の間は桟橋のようなもので繋がれていた。
"ここも変わった町だね…"
ルークが感嘆の声を上げる。
"海の上におうちが浮かんでるみたい!"
"すごい"
チーとメメがモンスターボールから飛び出してきて、楽しそうに町へと飛んで行った。
「ちょ、ちょっと二人とも!……行っちゃった。ギィ、僕達はひとまずあそこまで行こう」
ボクはトウキさんの船が停泊している桟橋を指して言った。
"つ…つかれた…おいらは少し休ませてもらうぞ…"
ギィがヘトヘトといった様子で言うと、自らモンスターボールの中へ戻っていった。
「ありがとう、ギィ。ゆっくり休んで…」
"スズ、スズ!"
チーがぱたぱたと飛んできた。
「どうしたの、慌てて…メメは?」
"メメおねぇちゃんが呼んでるの!こっち!"
「メメが?どうしたんだろう…」
チーに手を引かれるように、住居の裏手に回った。
最初に目に飛び込んで来たのは、巨大な葉っぱだった。
しかし、すぐにただの植物ではないとわかる。
それは呼吸をしていたのだ。
日光浴をしながら眠っているようだった。
その首長竜のような姿に、僕は見覚えがあった。
「このポケモンは………トロピウス!?」
- Re: 【ポケモン】ポケットモンスター アスタリスク ( No.513 )
- 日時: 2012/08/07 13:28
- 名前: 小雨 (ID: L.Y1jWRR)
第148話
翼の再会
主人公スズの所持ポケモン
ルカリオ(ルーク)
ギャラドス(ギィ)
ユキメノコ(メメ)
ザングース(ザック)
チルット(チー)
コモルー(ルー)
「ナギちゃん…よかった!……本当によかった…」
慌てて室内に飛び込んだ僕の目に、ベッドに寝ているナギさんと、すがりつくようにして泣いているアスナさんの姿が飛び込んできた。
「あーちゃん…もう、大人なんだから泣かないの」
「心配したんだ、本当に…!」
ナギさん…ナギさんだ!
ヒワマキシティで別れたナギさんが、目の前のベッドに寝ていた。
頭部に包帯を巻いていたが、アスナさんをなだめるその姿は致命的な傷を負っているようには見えなかった。
よかった…本当に…!
"スズさん"
"お待ちしていました"
突然、聞いた事の無い声が頭の中に響いた。安堵感からへたり込みそうになっていた僕を、その声が引っ張りあげる。
振り向くと、入り口の扉を挟むように少年と少女が立っていた。
二人の顔はそっくりだった。
"初めまして、僕はフウ。こっちはランといいます。トクサネシティのジムリーダーを務めています"
これは…ルークの波導と同じ力?いや、それより……ジム、リーダー…この二人が!?
僕は頭の中に響いた言葉を反芻しながら、改めて二人を眺めた。歳は僕より少し下といったところだろうか。
にわかに信じがたかったが、この場にいる誰しもがそれを否定しない事がそれを証明していた。
「は、初めまして。僕はスズといいます…」
二人は小さく笑いながら言った。
"おおよそのお話はナギさんから聞いています。早速話を…と言いたいところですが、少し野暮と言うものでしょうか。僕たちは席を外しましょう"
ナギさんとアスナさんを残し、僕たちは部屋を後にした。
ホウエン地方のジムリーダーがここキナギタウンに集合した。
「皆さん…足を引っ張ってしまい申し訳ありませんでした。私は大丈夫です。改めてルネシティ解放作戦に参加させてください」
ナギさんが口を開いた。
「ナギちゃ…いや、ナギ。本当に大丈夫なのか?」
アスナさんが心配そうに声をかける。幾分落ち着いたらしく、いつもの口調が戻っていた。
「大丈夫よ。ごめんね、心配かけて……。スズさんも、本当に申し訳ありませんでした。私が声をかけるはずだったジムリーダーの方にも話をつけて頂いて…重ね重ねお詫びいたします」
ナギさんが僕に向かって頭を下げた。
「そ、そんな、やめてください!力を貸してもらっているのは僕の方なのに…」
僕は慌ててしまった。
「うわっはははは、まぁお互いそのくらいにしておけ。小僧もナギも、済んでしまった事を言ってもしかたないじゃろう」
テッセンさんが豪快に笑いながら言った。
「だな。目の前にでっけぇ仕事が待ってるぜ。とりあえずそいつを片付けないことにゃ仕方ねぇ」
トウキさんが僕の肩を叩いた。
「さて、これでミクリくん以外のジムリーダーが揃ったね。それでは改めて…」
センリさんが一同の前に立って言った。
「ルネシティ解放作戦の作戦会議といこうじゃないか」
- Re: 【ポケモン】ポケットモンスター アスタリスク ( No.514 )
- 日時: 2012/08/08 20:53
- 名前: 小雨 (ID: L.Y1jWRR)
On the other hand 9
灰色達の幹部
蛇…ほっぺに蛇の刺青
焔…赤い口ひげ
鳶…肩に翼の刺青
「ホウエンのジムリーダー達がいよいよ集まっているようだ。間もなく何らかの動きを見せるだろう」
頬に蛇の刺青の入った男が言った。
薄暗い洞窟の中の部屋。ランタンの光の中で、机を囲む三つの陰があった。
「結局うちの下っ端じゃあルネシティのガキ一人止められなかったってことか。ところで、この前俺が撃墜してやったトロピウスに乗っていた女って、ヒワマキのジムリーダーだったらしいじゃん。あの程度の実力しかない奴がジムリーダー張ってるなんて、ホウエンのレベルが知れるってもんだね」
肩に翼の刺青を入れた男が言った。その顔には、まだ少年のあどけなさが残っている。
「お前がやったのは不意打ちみたいなものだろう。…とはいえ、鳶の言う事も一理ある。ここルネシティにも碌なトレーナーはいなかったしな。あっさりと事が運びすぎてつまらん。……ミクリという奴はそれなりにできそうだったが」
大柄な男が口を開いた。真っ赤な口ひげを蓄えている。
「ミクリって、確か水ポケモン使いでしょ?焔さんとじゃ相性が悪すぎるんじゃない?」
「だからこそ面白い。たゆたう勝利をいかにして手中に収めるか。勝利の約束された戦いなどつまらんからな」
おぉ怖いと、鳶と呼ばれた少年が肩をすくめた。
「そういえば、ボスはまだあの女の子と話してるのかな?ボスってああいうコがタイプだったの?」
鳶が茶化すように言った。
「お前…本気で言ってるのか?」
「いや、冗談だけどさ。ボスはなんていうか…そういうんじゃねぇからなー」
複雑な顔をしながら鳶は言った。
「蛇、石の捜索状況はどうなってる?」
焔の問いかけに、蛇と呼ばれた男が口を開いた。
「塔から石を持ち去ったゴルーグの発掘が完了した。石を探し当てるのにもそれほど時間はかからないだろう。…まったく、手間をかけさせてくれたものだ。鳶は引き続き領空内の敵を警戒。焔は町の治安維持に努めてくれ」
「ここの住人は大人しいもんだ。まともに抵抗したのは結局ガキ一人だった。しかし、自分達の生活基盤が揺るがされようとしているのに、連中は何故大人しくしているのだろう」
「平和ボケってやつじゃないのぉ?自分は死なないと思ってる類の人たちだよきっと。別にこの町だけに限った話じゃないと思うけどな」
鳶がけたけたと笑う。
「我々にとっては好都合だ。では引き続き任務に当たってくれ」
- Re: 【ポケモン】ポケットモンスター アスタリスク ( No.515 )
- 日時: 2012/08/09 21:12
- 名前: 小雨 (ID: L.Y1jWRR)
On the other hand 10
灰色達の幹部
蛇…ほっぺに蛇の刺青
焔…赤い口ひげ
鳶…肩に翼の刺青
「じゃ、お先に〜」
大きく伸びをして椅子から立ち上がると、鳶は二人を残して部屋を出た。薄明かりに照らされた廊下が彼を出迎えた。
洞窟の中はあまり好きではなかった。暗いし、狭いし、息が詰まる。何より、空が見えなかった。
とりあえず陽の光を浴びようと、鳶は薄暗い廊下を歩き始めた。
洞窟が嫌いな理由は、空が見えないからだけではなかった。
土の匂いを嗅ぐと、昔が想起されるのだ。
それは組織に入る前の自分の姿だった。
教育機関を卒業するとすぐに、鳶は働き始めた。
圧倒的な能力があるわけでもなくお世辞にも成績が良いとは言えなかった鳶は、橋を作る仕事についた。大きな大きな町を繋ぐ、大きな大きな橋だ。
鳶は来る日も来る日も、作業に追われた。
辛くなかったと言ったら嘘になる。体を限界まで酷使し、泥にまみれ、疲労に包まれ、働いては眠る日々だった。
町には娯楽も多くあったが、鳶はわき目もふらず働いていた。
しかし、不思議と充足感に満たされていた。
仕事を終えて帰る日の事、鳶は町の中で一人の男とぶつかった。
「うわっ」
「あ、わりぃ…」
尻餅をついた男に、鳶は手を差し伸べた。
「…橋の作業員か…チッ」
男は吐き捨てるように言うと、鳶の手を無視し立ち上がった。
「触るな。余計汚れてしまうだろう」
ネオンの光の中、男は汚れを叩きながら言った。
「汚い体で町に入ってこないで欲しいものだね…誰でもできるような仕事を必死にやってるってのはどんな気分だ?」
「え?」
鳶は男の言わんとしている事がわからなかった。
「ポケモンにやらせるような仕事をして、はした金でせかせか働いて、どんな気分かって聞いたんだよ。せめて町で働いている私たちに迷惑かけないでもらいたいね」
鳶は顔が熱くなるのを感じた。さっきまでの満ち足りた気分は、いつの間にかどこかへ霧散していた。
気がつくと彼は、男を殴り付けていた。
そこから先の転落はあっという間だった。
男にとって、鳶を社会的に排除する事など簡単なことだったのだ。
鳶は仕事を失い、誇りを失い、怠惰な生活を送るようになった。
あれほど充足していた日々は、次第に色を失っていった。
日々に色をつけるとしたら、灰色といったところだろうか。きっと自分は、腐ったように生き、そして腐ってゆくのだろうと思っていた。
いつの間にやら鳶は日々の色のように、自らが灰色となっていた。
今の組織に入ってどれくらいになるだろうか。元々彼は、ただの一構成員にすぎなかった。
組織の命令に従うままに生きていた。圧倒的な統率力を示す、蛇。圧倒的な武力を誇る、焔。幹部達の出す命令を聞いていれば、全てがうまくいくように思えた。
そして何より、命令に従うだけというのは楽だった。次第にその感覚すら、麻痺していく。
転機は、組織内で唐突に行われたポケモントレーナー選抜試験だった。
いやいや参加していた鳶だったが、適正を見る検査の際に彼は異常な才能を発揮した。初めて出会った鳥ポケモンと、まるで会話しているかの如く意志の疎通を行い、与えられた演習を難なくこなして見せた。
彼はただ、鳥ポケモンを操る事だけに長けていたのだ。
「しかしこの洞窟は息が詰まるね…土の匂いも好きじゃねぇしなぁ…」
ぶつぶつ呟きながら歩いていると、ガチャリとドアが開いて一人の少年が顔を出した。
「あ、鳶さん」
少年は鳶の姿を目に留めると、すたすたと近寄ってきた。
「ボス、どうしました?」
自身よりも少し年下のように見える少年に向かって、鳶は言った。
「このコ、町まで案内してあげてよ。洞窟の中迷っちゃうと思うから」
見ると、少年の少し後ろに女の子が立っていた。顔を俯け、震えている。
あぁ、このコが連れて来られたっていう女の子のことかなと、鳶は想像する。
「はぁ、わかりました。でも帰しちゃっていいんですか?蛇さんの口ぶりだと、こいつ見せしめにするんだと思ってたけど」
「蛇さんは物騒だねぇ。でもまぁ、よろしくね」
そういい残すと、少年は早々と部屋に引き上げてしまった。
鳶はため息をつきながら言った。
「まぁ、いいですけどね………じゃあほら、ついて来なよ」
「…」
「どうした、早く…」
「あの人は、なんなの?」
唐突に女の子が口を開いた。
「あぁ、中てられちまったか。初めてボスを見たら、まぁそうだろうな」
「あんな人、見たこと無い…あんな人…あんな人…」
少女は小さく震えていた。
- Re: 【ポケモン】ポケットモンスター アスタリスク ( No.516 )
- 日時: 2012/08/11 20:52
- 名前: 小雨 (ID: L.Y1jWRR)
On the other hand 11
灰色達の幹部
蛇…ほっぺに蛇の刺青
焔…赤い口ひげ
鳶…肩に翼の刺青
ルネシティの住人
シズク
「おーい、なんか喋れってば」
洞窟の中を歩きながら、鳶は俯いたままの女の子に話しかけた。
「はぁ……まぁ、そりゃそうか。俺達は故郷を奪った侵略者だからなぁ」
ため息混じりに、ひたすら歩を進める。
それにしてもよくもまあ短期間にこれほど掘り進めたものだと、我が組織ながら感心する。
基本的に奥へ奥へと掘り進めたため、外に出るときは上り坂を歩くハメになってしまう。
「お前、名前なんてーの?」
「……シズク」
女の子は小さな声でそれに答えた。
「お、やっと喋ったか。ただでさえこの中は息が詰まるんだからさ、これ以上嫌な空気にしないでくれよ」
鳶はからかうように言った。
「あの人は……なんなの?なんであんな……」
しばらく無言で歩いていたが、ふいにシズクが口を開いた。
その口ぶりからは、うまく表現できないもどかしさが感じとれた。
「ボスの事?あれ病気の一種らしいぜ。なんて言ったかな……………忘れちまった。なぁ、お前俺達が来るまでどんな事してたの?」
シズクの問いなど簡単に受け流し、鳶は逆に質問した。
「どんなって…友達と遊んだり…お父さんのお仕事の手伝いをしたり…」
漠然とした質問だったが、シズクはそれに答えた。
「まぁこんな小さな町じゃそんなトコだろうな。親父さん何の仕事してんだ?」
シズクは少し警戒するように鳶を見た。
「んな警戒すんなよ。ただの雑談だ雑談」
「お父さんは、町の外から物を運んでくる仕事をしてるの」
間を置いて、少し誇らしそうにシズクは答えた。
「はっ、せせこましく生きてんのな。まぁこの小さな町にお似合いなんじゃねぇのか」
クハハっと、鳶は嘲笑するように言う。
「お、お父さんの事悪く言わないで!お父さんの仕事かっこいいもん!わたし、お父さんの後を継ぎたいと思ってるの」
シズクがむっとしたように言い返した。
「んな泥臭いことわざわざしなくたって、もっと割りのいい仕事いくらでもあんだろ。なんなら紹介してやろうか?その仕事よりよっぽど楽に稼げると思うぜ」
「べ、別にお金が欲しいんじゃないもん!やりたいからやるんだもん!こんなひどい事してる人になんか言われたくないっ!」
震える声で叫ぶと、シズクは駆けて行ってしまった。
「お、おい!お前、道は……」
シズクを止めようと伸ばした右手が、虚空で静止した。
「ま、いっか。どうせもう上までは一本道だし」
独り言をもらしつつ、鳶は再び歩き始めた。
「……くそっ」
少女の必死な叫び声が、洞窟の中に未だに反響しているような気がした。
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