複雑・ファジー小説

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〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下【完結】
日時: 2021/03/22 02:24
名前: 銀竹 (ID: r9bFnsPr)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=17224

 人々の安寧を願ったサーフェリアの前国王、サミル・レーシアス。
彼の興した旧王都──アーベリトは、わずか七年でその歴史に幕を閉じることとなった。

 後に『アーベリトの死神』と称される、召喚師ルーフェンの思いとは……?

………………

 はじめまして、あるいはこんにちは!銀竹と申します。

 本作は、銀竹による創作小説〜闇の系譜〜の二作目の後編です。
サーフェリア編がかなり長くなりそうだったので、スレを上・下と分けさせて頂く事にしました。
一部残酷な表現などありますので、苦手な方がいらっしゃいましたらご注意下さい。

 今回は、サーフェリア編・上の続編となっております。
サーフェリア編・上の知識がないと通じない部分も出てきてしまうと思いますが、伏線以外は極力分かりやすく補足して、進めていきたいと考えています(上記URLはサーフェリア編・上です)。

〜闇の系譜〜シリーズの順番としては
ミストリア編(上記URLの最後の番号五桁が16085)
サーフェリア編・上(17224)
サーフェリア編・下(19508)
アルファノル編(18825)
ツインテルグ編
となっております。
外伝はどのタイミングでも大丈夫です(16159)。
よろしくお願いいたします!

…………………………

ぜーんぶ一気に読みたい方→ >>1-430

〜目次〜

†登場人物(第三章〜終章)† >>1←随時更新中……。

†用語解説† >>2←随時更新中……。

†第三章†──人と獣の少女

第一話『籠鳥ろうちょう』 >>3-8 >>11-36
第二話『憧憬どうけい』 >>37-64
第三話『進展しんてん』 >>65-98

†第四章†──理に触れる者

第一話『禁忌きんき』 >>99-150 >>153-162
第二話『蹉跌さてつ』 >>163-189 >>192-205
第三話『結実けつじつ』 >>206-234

†第五章†──淋漓たる終焉

第一話『前兆ぜんちょう』 >>235-268 >>270-275
第二話『欺瞞ぎまん』 >>276-331
第三話『永訣えいけつ』 >>332-342
第四話『瓦解がかい』 >>343-381
第五話『隠匿いんとく』 >>382-403

†終章†『黎明れいめい』 >>404-405

†あとがき† >>406

作者の自己満足あとがき >>407-411

……………………

基本的にイラストはTwitterにあげておりますので、もし見たい!って方がいらっしゃいましたらこちらにお願いします。→@icicles_fantasy

……………………


【完結作品】
・〜闇の系譜〜(ミストリア編)《複ファ》
ミストリアの次期召喚師、ファフリの物語。
国を追われ、ミストリアの在り方を目の当たりにした彼女は、何を思い、決断するのか。

・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上《複ファ》
サーフェリアの次期召喚師、ルーフェンを巡る物語。
運命に翻弄されながらも、召喚師としての生に抗い続けた彼の存在は、やがて、サーフェリアの歴史を大きく変えることとなる──。

・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下《複ファ》
三街による統治体制を敷き、サーフェリアを背負うこととなったサミルとルーフェン。
新たな時代の流れの陰で、揺れ動くものとは──。

【現在の執筆もの】

・〜闇の系譜〜(外伝)《複ファ》
完全に狐の遊び場。〜闇の系譜〜の小話を載せております。

・〜闇の系譜〜(アルファノル編)《複ファ》
ミストリア編後の物語。
闇精霊の統治者、エイリーンとの繋がりを明かし、突如姿を消したルーフェン。
召喚師一族への不信感が一層強まる中、トワリスは、ルーフェンの後を追うことを決意するが……。
憎悪と怨恨に染まった、アルファノル盛衰の真実とは──?

【執筆予定のもの】

・〜闇の系譜〜(ツインテルグ編)《複ファ》
アルファノル編後の物語。
世界の流転を見守るツインテルグの召喚師、グレアフォール。
彼の娘である精霊族のビビは、ある日、サーフェリアから来たという不思議な青年、アーヴィスに出会うが……。




……お客様……

和花。さん
友桃さん
マルキ・ド・サドさん
ヨモツカミさん


【お知らせ】
・ミストリア編が、2014年の冬の大会で次点頂きました!
・サーフェリア編・上が、2016年の夏の大会で銅賞を頂きました!
・2017年8月18日、ミストリア編が完結しました!
・ミストリア編が2017年夏の大会で金賞を頂きました!
・サーフェリア編・上が、2017年冬の大会で次点頂きました!
・2018年2月18日、サーフェリア編・上が完結しました!
・サーフェリア編・下が、2019年夏の大会で銀賞頂きました!
・外伝が、2019年冬の大会で銅賞頂きました!
・サーフェリア編・下が、2020年夏の大会で銀賞頂きました!
・サーフェリア編・下が、2020年冬の大会で金賞頂きました!
いつも応援して下さってる方、ありがとうございます(*^▽^*)

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.344 )
日時: 2020/12/22 19:22
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: 8NNPr/ZQ)



 外の景色を見たまま、シルヴィアは答えた。

「……無理よ。後々剥奪される王座に、何の意味があるというの。言ったでしょう。渇いて、枯れ果ててしまった人間には、一滴の水もやらない方が、よほど幸せなのよ」

「…………」

 ルーフェンはつかの間、警戒したような面持ちで、シルヴィアのことを睨んでいた。
その答えが、彼女の本心なのかどうか、はっきりと確信できなかったからだ。
一方で、シルヴィアはこれ以上、何も求めてこないだろうと予想していた自分もいた。
言葉通り、この女は、もうすっかり枯れ果ててしまったのだ。

 シルヴィアが、今まで自分のしてきたことを、どう思っているかは分からない。
ルーフェンから奪われたもの、自分が周囲の人間達たちから奪ったもの、それらに対する執着心が、彼女の中でどの程度精算されたのか──そればかりは、きっと本人にしか分からない。
ただ、シュベルテで別れたあの時から、シルヴィアの中にあった感情の炎が、蓋をしたように消えてしまったことは、なんとなくルーフェンも感じていた。

 しばらくしてから、ルーフェンは、冷静に返した。

「……分かりました。それならもう、貴女を政界に引き込むことはしません」

 言いながら、立ち上がって、椅子を食卓に戻す。
次いで、ふと何かを思い出したように手を止めると、ルーフェンは、シルヴィアに向き直った。

「……それから、もう一つ」

 声をかけても、シルヴィアは振り返らない。
その後ろ姿を見つめたまま、躊躇ったように言葉を止めると、ルーフェンは、嘆息して首を振った。

「……いえ。やっぱり、何でもありません。用件は、以上です。……身体の具合が良くなり次第、貴女は、シュベルテに帰ってください」

 突き放すように言って、踵を返す。
すると、その時初めて、シルヴィアがルーフェンの言葉に反応を示した。

 待って、と呼びかけられて、ルーフェンが足を止める。
シルヴィアは、心底不思議そうに尋ねた。

「私のことを、殺さないの……?」

 ルーフェンが、思わず瞠目どうもくする。
振り返ると、シルヴィアが、恐怖も何も感じていないような瞳で、じっとこちらを見ていた。

「貴方は、私のことを憎んでいるでしょう。てっきり、殺しにきたのかと思ったわ。繋ぎの王としての役割も果たせないなら、私には、何の利用価値もない」

「…………」

 その空虚な表情を見て、ルーフェンは、シルヴィアが何を思ってそんなことを問うたのか、理解した。
彼女はもう、死んで、逃れたいのだ。
枯れ果てて尚、その場で踏みつけにされるよりも、早く土の中から根を抜いて、どこかへ消え去りたいと思っている。
ようやく終わりを迎えられると信じて、その時を、ずっと待っていたのだ。

 ルーフェンは、ぐっと拳を握った。
恐ろしいほどの沈黙が、室内を支配する。
ややあって、近付いていったルーフェンが、母の細い首に手をかけると──シルヴィアは、口元に笑みを浮かべて、そっと目を閉じた。

「──……」

 シルヴィアの白い首筋が、どくり、どくりと脈打っている。
指先を震わせて、静かに手を下ろすと、ルーフェンは、唇を開いた。

「……殺しません」

「…………」

 シルヴィアが、ゆっくりとまぶたを開ける。
ルーフェンは、微笑を浮かべた。
いつだったかの、母のように──残酷なほど、美麗に微笑むと、ルーフェンは告げた。

「生きてください。貴女が、今まで切り捨ててきた人達の分まで」

 それだけ言って、再び背を向ける。
大きく瞳を揺らしたシルヴィアを横目に確認すると、扉を開けて、ルーフェンは、部屋から出ていった。

 無慈悲な静寂が、再び室内を包み込む。
閉まった扉の先を見つめて、シルヴィアは、呆然と目を見開くと、やがて、ぽつりと呟いた。

「え……?」

 どこかで、屋根に積もった残雪が、どさりと落ちる音がした。



Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.345 )
日時: 2020/12/24 19:06
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: 8NNPr/ZQ)






  *  *  *



 執務室で、トワリスと共にいたルーフェンは、性急に近付いてきた足音に、ふと顔をあげた。
ほどなくして、扉が叩かれ、顔をひきつらせたロンダートが入室してくる。
包帯で固定された左腕を見せつけながら、ロンダートは、半泣き状態でルーフェンの執務机にかじりついた。

「召喚師様ぁ! 見てくださいよ、この腕! ダナさんに聞いたら、全治一か月だって。シュベルテの門衛に、思いっきりぶん殴られたんです! 最終的には、抜き身で襲いかかってきて、俺もう二度とシュベルテには行きたくないですよ! あいつら、全然話を聞く気ないんですもん……!」

 大声で喚きながら、ロンダートが訴えてくる。
机の横で待機していたトワリスは、その話を聞くと、怪訝そうに顔をしかめた。

「手まで出してきたとなると、いよいよ無視できませんね。その門衛、記章はつけていましたか?」

「ああ、うん。言われた通り見てきたけど、胸元につけてたよ。十字の剣と杖、あとは、真ん中に女の人が描いてあった。それ以外の格好をした武官は、見かけなかったなぁ」

 ロンダートが、ずびずびと鼻をすすりながら答える。
記章のデザインを聞くと、椅子に座っていたルーフェンは、驚いた様子もなく嘆息した。

「やっぱりね。それは、世俗騎士団の記章じゃない」

 トワリスが、眉を寄せる。

「十字の剣と杖、女の人……見たことがありませんね。魔導師団の腕章とも違いますし……。そもそも、私がシュベルテにいた時と配備が変わっていなければ、城の周囲には、結界を保つための魔導師もいるはずなんです。それがいないってことは、警備体制自体が、丸々新興騎士団に乗っ取られている可能性があります」

「可能性もなにも、そういうことだろうね。記章の“女の人”は、大方、彼らが敬愛して止まない女神イシュカル様でしょ」

 ルーフェンが軽い口調で言って、やれやれと肩をすくめる。
トワリスとロンダートは、表情を曇らせると、悩ましげに俯いたのであった。

 サミルの崩御と、バジレットとの謁見希望を申し出る文を、シュベルテに突き返されたのは、これで二回目のことである。
一回目は数名の自警団員に、二回目はハインツとロンダートに向かわせたが、両者共に、門前払いを食らった。
聞けば、城門前の警備兵が、「カーライル公は先の襲撃時の傷が癒えていないため、謁見は出来ない」といって聞かないのだという。
しかし、バジレット・カーライルが意識を取り戻したことは、以前の報告で分かっていることであったし、仮に容態が悪化していたのだとしても、王権を持たない今のシュベルテに、ルーフェンからの使いを拒否する権限はない。
これは、立派な背信行為であった。

 トワリスは、眉をひそめたまま言った。

「私の訓練生時代の知り合いに会えれば、シュベルテ内部の状況も聞けるんですが……。話を聞く限り、新興騎士団とやらの勢力は、城内にも及んでいるようですね。そもそも魔導師団は、今どうなっているんでしょうか」

 真剣なトワリスに対し、ルーフェンは、軽薄な態度で返した。

「言っておくけど、トワは行かせられないよ。話通じないっていうんで、門衛ぶん殴りそうだし」

「なっ、そんな誰彼構わず殴りませんよ!」

「いてっ」

 ルーフェンの頭を叩いて、トワリスが鼻を鳴らす。
いまいち緊張感のない、ルーフェンとトワリスのやりとりに見て、ロンダートは、唇をとがらせた。

「もう、召喚師様が直接行ってきてくださいよ。召喚師一族が来たら、シュベルテの連中も流石にビビって、バジレット様を呼んできてくれるかもしれないでしょ」

 ルーフェンは、片眉を上げた。

「それは構わないけど……。今、俺が空けて平気?」

 ルーフェンの問いに、ロンダートとトワリスが同時に瞬く。
ロンダートは、トワリスと目を見合わせてから、やけに演技がかった口調で答えた。

「嫌だなぁ、召喚師様。自警団を馬鹿にしないでください! 確かに俺達は頭悪いですけど、元々アーベリトは、自警団だけで守ってたんですよ? セントランスとの件も片付いたし、アーベリトには結界も張ってあります。数日くらい召喚師様がいなくたって、全く問題ありませんよ!」
 
 腕を包帯で固定された状態で言われても、なんの説得力もないが、ロンダートは、やけに自信ありげな顔つきでふんぞり返っている。
トワリスは、少し胡散臭そうにロンダートを見たが、意見は彼と同じようだった。

「そうですね。私やハインツもいますし、アーベリトのほうは平気ですよ。実際、召喚師様が行く以外に、方法はないと思いますし……。どちらにせよ、バジレット様のご容態が芳しくない以上、謁見の許可が下りたら、シュベルテに出向くことになるのはこちらです。一応召喚師様は、魔導師団の総括もしてる立場なんですから、その権威回復のためにも、直接本人が行くべきだと思います。責任者として」

 きりっと眉をつり上げて、トワリスが言い切る。
魔導師団の総括といっても、ルーフェンが籍を置いているのはアーベリトなので、一月に一度報告書に目を通すくらいで、ほとんど名ばかりの責任者である。
今の王都はアーベリトで、距離がある以上は仕方がないわけだが、そのせいで、現在の魔導師団に何が起こっているのか、さっぱり分からないのも事実だ。
まるでそのことを、意図せず責めてくるようなトワリスの口調に、ルーフェンは苦笑を浮かべた。

「手厳しいなぁ。まあ、そんなに言うなら、俺が行くけど……」

 言い淀んで、困ったように眉を下げる。
躊躇いがちな物言いに、ロンダートは、ルーフェンの背をばしっと右手で叩いた。

「だーいじょーぶですって! 召喚師様、妙に心配性なとこばっかりサミル先生に似ちゃったんだから。そんなに不安がらないで、俺達のこと信用してください。まあ、どうにもならなかったら、召喚師様を呼び戻しますから」

 サミルの名前に、トワリスがぴくりと反応して、ルーフェンを一瞥する。
しかし、そんなことはあえて気にしていない様子で、ロンダートはにかっと笑ったのであった。

〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.346 )
日時: 2020/12/31 23:39
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: r1a3B0XH)



 護衛も連れず、まるで一般の旅客のような装いでやって来た召喚師を見て、強面こわもての門衛たちは、思わず硬直した。
土地勘のない余所者が、ふらふらと市街地から迷いこんできたのかと思えば、その頭巾の中身が銀髪銀目だったなんて、誰が予想できただろう。

 ルーフェンは、懐かしげにシュベルテの城壁を見上げてから、左右に並ぶ門衛二人に挨拶をした。

「こんにちは。何度かアーベリトの人間が訪ねて来ているかと思うんだけど、その時に対応したのも君達かな?」

 ルーフェンがにこやかに問うと、門衛たちの顔が、さっと強張る。
しかし、引くことはなく、鉄門の前で拒むように槍を交差させると、門衛の一人が言い放った。

「申し訳ございませんが、再三お伝えしている通り、現在入城はお断りしております。召喚師様であろうと、お通しすることはできません。お引き取りください」

 ルーフェンが、微かに目を細める。
嫌な汗を浮かべた門衛たちに、ルーフェンは、柔らかな声で告げた。

「悪いけど、はいそうですかと帰るわけにはいかないんだ。カーライル公に大事な話がある。どうしても駄目かな?」

「どのようなご用件であっても、通してはならないとのご命令です」

「……ふーん」

 気のない返事をしながら、ルーフェンが、不意に指先を鉄門に向け、動かす。
すると、重々しい金属音が響いて、門衛たちは目を剥いた。
鉄門のじょうが、勝手に開いたのだ。

 ルーフェンは、淡々と続けた。

「命令に忠実なのは結構だけど、楯突く相手は考えたほうが良い。君達も、事を荒立てたくはないだろう。通してもらうよ」

 身構えた門衛たちが、焦った顔つきで、ルーフェンを凝視する。
攻撃してくるかとも思ったが、流石に召喚師と揉めるのは、得策ではないと考えたのだろう。
ややあって、構えを解くと、門衛の一人が返した。

「……カーライル公は、先のセントランスによる襲撃で、お怪我をされました。現状、まだ回復には至っておりません。お通ししたとしても、謁見できるような状態ではないのです」

 門衛たちはそう言って、鉄門の前から動こうとしない。
ルーフェンは、わずかに口調を強めた。

「意識は戻ったと聞いてる。公の容態を配慮したいところではあるけど、こちらも急ぎなんだ。謁見という形でなくても、話せる場があればそれで構わない」

「ですから、意識はあっても、話せる状況ではないと申し上げているのです!」

 ルーフェンの言葉に被せるように、門衛が声を荒らげる。
彼らは、一瞬、感情的になったことを後悔した様子で、ルーフェンの顔色を伺ったが、それでも尚、この場を譲る気はないのだろう。
ルーフェンは、頑なな門衛たちの表情を黙って見つめていたが、やがて、ふっと笑みをこぼすと、唇を開いた。

「……なるほど。公は話すことすら出来ない状況……ということは、今この城の実権を握っているのは、旧王家じゃない。君達は、別の誰かの命令で動いているわけだ」

「──……!」

 門衛たちが、はっと息を飲む。
凍りついた二人に、ルーフェンは一歩、近づいた。

「教えてもらおうか。旧王家に代わり、今、君達イシュカル教徒の上に立っているのは、一体誰だ?」

「…………」

 わざと煽るような言い方をすると、途端に、門衛たちの顔つきが変わる。
彼らの目に、分かりやすく怒りと侮蔑の色が浮かぶと、ルーフェンは、内心ほくそ笑んだ。
教会が発足したという彼らは、騎士団を名乗ってはいるが、要は、武装したイシュカル教徒の集団である。
そもそもが、召喚師一族からの支配を忌み嫌う連中なのだから、彼らを扇動することなど、当の本人ルーフェンにとっては、容易いことであった。

 門衛たちが、ぐっと槍を握り直した──その時だった。
不意に、鉄門が引き開けられたかと思うと、奥から、官服を身に纏った小太りの男が現れた。

 数名の護衛騎士を携えたその男は、門衛たちを見遣ると、歪に口元を歪めた。

「どうにも騒がしいと思えば……お前たち、一体なにをしておるのだ」

 男の問いかけに、門衛たちが姿勢を正す。
胸元に拳を当て、敬礼をすると、門衛の一人が答えた。

「──は。申し訳ございません、大司祭様。それが……その、召喚師様が、お越しでして……」

(大司祭……?)

 眉を寄せたルーフェンに一瞥をくれて、門衛たちが言い淀む。
大司祭と呼ばれた男は、ルーフェンに視線を移すと、憎々しげに笑んだ。

「ほう……これはこれは、召喚師様ではございませんか。お久しゅうございます。覚えていらっしゃいますか? 私、以前は王宮にて事務次官を勤めておりました、モルティス・リラードと申します」

「…………」

 丁寧な口調とは裏腹に、頭を下げることもせず、モルティスは挨拶を終える。
事務次官、と聞いて、ルーフェンの脳裏に、微かな記憶が蘇った。
当時、ほとんど関わりはなかったが、モルティス・リラードと言えば、政務次官ガラド・アシュリーと並び、文官を取りまとめていた内の一人であった。

 ルーフェンは、訝しむように眉をあげた。

「……リラード卿、ええ、覚えていますよ。まさか、貴方が教会の関係者だったとは、知りませんでしたけどね。今は、大司祭などと呼ばれているんですか?」

 皮肉るような眼差しを向ければ、モルティスは、露骨に顔をしかめる。
嫌悪感を隠そうともせずに、ルーフェンに背を向けると、モルティスは、門衛二人に道を開けるよう指示した。

「立ち話もなんでしょう。我が騎士団の者が、無礼を働いたようで、大変失礼いたしました。歓迎いたしますよ。どうぞ、城の中へ──……」

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.347 )
日時: 2021/01/01 22:36
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: r1a3B0XH)

 城内で一等大きな客室に入ると、ルーフェンとモルティスは、向かい合って席についた。
まだ日が高い時刻だというのに、隔離されたように閉めきった客室は、不気味なほど粛然としている。
薄暗い視界の中で、横長の卓に設置された燭台だけが光っており、周囲に並ぶ金銀の調度類が、きらきらとその灯りを反射していた。

 飲物を運んできた侍女を下がらせると、モルティスは、卓の上に二つ、杯を並べて、黒々とした酒を注いだ。
つぎ終わると、銘柄の書かれていない酒瓶を置き、モルティスは、一方の杯を手渡してくる。
ルーフェンは、モルティスが自分の分を一杯、あおるのを確認してから、舌に触れるか触れないかの僅かな量を、口の中に含んで見せた。

「……いかがですかな。これは、黒糖と香草を混ぜた、秘蔵の混成酒なのですが」

「…………」

 一度杯を卓に置くと、モルティスが尋ねてくる。
粘つくような甘味と、微かな苦味を舌の上で転がしながら、ルーフェンは微笑んだ。

「甘すぎるので、私はあまり好きではないですね」

「……おや、それは失敬。残念です」

 モルティスが、わざとらしい口調で答える。
ルーフェンは、ふ、と鼻を鳴らすと、椅子に深く座り直した。

「で、ここまで通して下さったということは、カーライル公には取り次いで頂けるんでしょうね?」

 銀の目を細めて、ルーフェンが問う。
モルティスは、もう一杯酒を呷ると、少し間を置いてから返した。

「先程、本日の公のご容態を宮廷医師に確認するよう、侍女に申し付けました。しかしながら、最近のご様子から拝察するに、やはり謁見は難しいでしょう。僭越ながら、このモルティスめがご用件をお伺いしたく存じますが、いかがでしょうか」

「……へえ、貴方が?」

 嘲笑的に言えば、モルティスの頬の肉が、ぴくりと引きつる。
ルーフェンは、あえて挑発的な声で続けた。

「失礼ですが、リラード卿。貴方は今、シュベルテではどのようなお立場なのですか? この客室に来るまでの間、城内には、魔導師を一人も見かけませんでした。配備されているのは、貴方を大司祭だと崇める兵ばかり。魔導師団と世俗騎士団に代わり、新たに騎士修道会(新興騎士団)なるものが発足していることも、つい先日知りました。私の見ていないところで、随分と勝手に物事が進んでいるようですね。魔導師団を統括している身としては、こうもないがしろにされると、流石に傷つくのですが……一体どういうおつもりなのでしょうか?」

「…………」

 ちらりと視線を投げ掛けると、モルティスの表情が曇る。
しばらくの間、モルティスは黙っていたが、やがて、怒りを抑えるように息を吐くと、すっと頭を下げた。

「出過ぎた発言をいたしました。大変申し訳ございません。ですが、どうか誤解はされませぬよう。我々イシュカル教会は、あくまでシュベルテのため……いえ、サーフェリアのためを想い、動いているのです」

 顔を上げると、モルティスはルーフェンを見つめた。

「ご存知かとは思いますが、先のセントランスによる襲撃で、シュベルテは崩落寸前まで追い詰められました。死者、負傷者共に多数、今までこの国の根幹を支えていたアシュリー卿やイージウス卿、ストンフリー卿までもが亡くなり、魔導師団も世俗騎士団も、存続不能な状況に陥ってしまいました。ですから、我々教会の人間が、新たにシュベルテの体制を編成しております。今まで城に仕えていた魔導師たちがいないのは、そのためです」

 束の間、二人は見つめあったまま、互いの瞳の奥を探っていた。
だが、唇で弧を描くと、沈黙を破ったのはルーフェンであった。

「……なるほど。確かに、魔導師団と騎士団に代わり、負傷者の救護に当たって下さったのは、イシュカル教会だったと聞いています。我々アーベリトが、セントランスの宣戦布告に対し、迅速に対応できたのも、貴殿方がシュベルテを支えてくれていたおかげでしょう。勝手を責める前に、まず礼を言うべきでした。ありがとうございます」

 打って変わって、穏やかな声で言うと、ルーフェンはモルティスに手を差し出した。

「どうでしょう。これを機に、仲直りしませんか? 昔から、イシュカル教会は召喚師一族の台頭を良く思っておらず、また私達も、そんな貴殿方の意向を一方的に握り潰してきました。ですが、サーフェリアの安寧を願っている、という点では、我々の目指すべきところは同じです。争うのはやめて、共に国のために尽力しようではありませんか」

「…………」

 モルティスは、表情を変えずに、じっとルーフェンの掌を見ていた。
しかし、その手を取ることはしない。
不意に、一気に残った酒を喉に流し込むと、モルティスは、力任せに杯を卓に戻した。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.348 )
日時: 2021/01/01 22:40
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: r1a3B0XH)


「……目指すべきところが同じ? 国のため? ふざけるのも大概にして頂きたい。真に国を想っているなら、今すぐ血族ごと消え失せろ。この邪悪な異端者めが……!」

 抑えていたものが溢れたのか、唐突に、モルティスの形相が歪んでいく。
ルーフェンは、少し驚いたように目を見開いてから、くすくすと笑った。

「つれないですね、そこは嘘でもいいから、手を握っておけばいいのに。貴殿方は、どうにも敬虔けいけんすぎていけない」
 
「黙れ、その軽々しい口を閉じろ!」

 憎々しい光を目に宿して、モルティスは、ルーフェンを睨み付ける。
ルーフェンは、差し出していた手を下ろした。

「ま、そう怒らないで下さい。安心しましたよ、本音が聞けて。貴殿方が召喚師一族を忌み嫌っていることは、当然分かっています。ただ、あれだけ王家に牙を剥いていたはずの教会が、現政権を乗っとるような形で城に居座っていたものですから、こちらとしても戸惑ったんです。……ついでに、色々と教えてもらえませんかね。貴殿方は、シュベルテをどうするつもりなんです?」

 モルティスの腫れぼったい目が、鋭く細まる。
気分を落ち着かせるように、何度か呼吸を整えると、モルティスは、低い声で答えた。

「先程申し上げた通りですよ。我々イシュカル教会は、この国のため、シュベルテの体制を一新します。理解の悪い魔導師や騎士共は一掃し、我らが女神イシュカルの名の下、清らかな魂と不屈の意思を持って、このサーフェリアを作り替えるのです」

 ルーフェンは、吐息と共に肩をすくめた。

「女神イシュカル、ね……。この国を分断し、四種族を隔絶させたとかいう、古の神様でしたっけ?」

 モルティスは、食い気味に返事をした。

「ええ、その通りです。イシュカル神は、人間と他種族との関わりを断つことで、サーフェリアの地に蔓延はびこる穢れを払い、我々を守って下さった。異端の力をひけらかし、人々を恐怖で支配する召喚師一族とは、対極に位置する清浄なる神です」

「清浄なる神、ですか……。そりゃあ、随分とご立派なことで」

 言いながら、胸元の女神像を握ったモルティスに、ルーフェンが冷笑する。
不愉快そうに顔をしかめると、モルティスは尋ねた。

「何がおかしいのです?」

「……いや、申し訳ない。これが、清らかで不屈なはずのイシュカル教徒のやり方なのだと思ったら、どうにもおかしくて……」

 モルティスが、眉間に皺を寄せる。
そんな彼の怒りを煽るように、ルーフェンは、客室の各所に視線を巡らせた。

「廊下に三人、天井裏に二人……隣部屋にも、何人かいますね。入城を許したのは、私を殺すためですか?」

 モルティスの顔つきが、一層険しくなる。
ルーフェンは、笑みを深めた。

「一つ忠告しておくと、貴方の駒が私を殺すよりも、私が貴方を殺す方が速いと思いますよ。この距離ならね。……ああ、それとも、そろそろ酒に混ぜた毒が、効き始める予定でしたか?」

 残念、飲んでないんです、と付け加えて、ルーフェンが舌先を出す。
モルティスは、苦虫を噛み潰したような顔で、しばらく黙っていたが、やがて、ふんと鼻を鳴らすと、開き直った様子で背もたれに寄りかかった。

「毒は、毒を以て制するべきだということです。しかし、ご安心を。周囲に控えている兵たちは、あくまで私の護衛です。今、この場で貴方様を殺そうなどと、恐れ多い考えはしておりません。我々イシュカル教会は、神聖なサーフェリア城の御座みざを血で汚すような真似はいたしませぬ。……貴方様が、我々に従って下さる限りは」

 モルティスの口調に、凄むような響きが混ざる。
ルーフェンは、呆れたように返した。

「今、この場では、ね。要は、邪魔せず引っ込んでいろ……ということですね?」

 モルティスは、その問いには答えず、間接的な肯定をした。

「勿論、このような脅し文句が、貴方様に通用するとは思っておりません。召喚師一族の力とやらを、間近で拝見したことはありませんが、それは神にも等しい絶大なものだと聞きます。おそらく、我々が何人の刺客を放とうとも、その力の前では、今までのように蹴散らされて終わってしまうのでしょう。……ですが、いくら我々教会の人間を殺そうとも、根本的な解決が成されないのは、貴方様も同じことです」

「……つまり?」

「今や、教会の考えが民意である、ということですよ」

 モルティスの口元が、不敵に歪む。
笑みを消したルーフェンに、モルティスは続けた。


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