複雑・ファジー小説

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〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下【完結】
日時: 2021/03/22 02:24
名前: 銀竹 (ID: r9bFnsPr)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=17224

 人々の安寧を願ったサーフェリアの前国王、サミル・レーシアス。
彼の興した旧王都──アーベリトは、わずか七年でその歴史に幕を閉じることとなった。

 後に『アーベリトの死神』と称される、召喚師ルーフェンの思いとは……?

………………

 はじめまして、あるいはこんにちは!銀竹と申します。

 本作は、銀竹による創作小説〜闇の系譜〜の二作目の後編です。
サーフェリア編がかなり長くなりそうだったので、スレを上・下と分けさせて頂く事にしました。
一部残酷な表現などありますので、苦手な方がいらっしゃいましたらご注意下さい。

 今回は、サーフェリア編・上の続編となっております。
サーフェリア編・上の知識がないと通じない部分も出てきてしまうと思いますが、伏線以外は極力分かりやすく補足して、進めていきたいと考えています(上記URLはサーフェリア編・上です)。

〜闇の系譜〜シリーズの順番としては
ミストリア編(上記URLの最後の番号五桁が16085)
サーフェリア編・上(17224)
サーフェリア編・下(19508)
アルファノル編(18825)
ツインテルグ編
となっております。
外伝はどのタイミングでも大丈夫です(16159)。
よろしくお願いいたします!

…………………………

ぜーんぶ一気に読みたい方→ >>1-430

〜目次〜

†登場人物(第三章〜終章)† >>1←随時更新中……。

†用語解説† >>2←随時更新中……。

†第三章†──人と獣の少女

第一話『籠鳥ろうちょう』 >>3-8 >>11-36
第二話『憧憬どうけい』 >>37-64
第三話『進展しんてん』 >>65-98

†第四章†──理に触れる者

第一話『禁忌きんき』 >>99-150 >>153-162
第二話『蹉跌さてつ』 >>163-189 >>192-205
第三話『結実けつじつ』 >>206-234

†第五章†──淋漓たる終焉

第一話『前兆ぜんちょう』 >>235-268 >>270-275
第二話『欺瞞ぎまん』 >>276-331
第三話『永訣えいけつ』 >>332-342
第四話『瓦解がかい』 >>343-381
第五話『隠匿いんとく』 >>382-403

†終章†『黎明れいめい』 >>404-405

†あとがき† >>406

作者の自己満足あとがき >>407-411

……………………

基本的にイラストはTwitterにあげておりますので、もし見たい!って方がいらっしゃいましたらこちらにお願いします。→@icicles_fantasy

……………………


【完結作品】
・〜闇の系譜〜(ミストリア編)《複ファ》
ミストリアの次期召喚師、ファフリの物語。
国を追われ、ミストリアの在り方を目の当たりにした彼女は、何を思い、決断するのか。

・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上《複ファ》
サーフェリアの次期召喚師、ルーフェンを巡る物語。
運命に翻弄されながらも、召喚師としての生に抗い続けた彼の存在は、やがて、サーフェリアの歴史を大きく変えることとなる──。

・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下《複ファ》
三街による統治体制を敷き、サーフェリアを背負うこととなったサミルとルーフェン。
新たな時代の流れの陰で、揺れ動くものとは──。

【現在の執筆もの】

・〜闇の系譜〜(外伝)《複ファ》
完全に狐の遊び場。〜闇の系譜〜の小話を載せております。

・〜闇の系譜〜(アルファノル編)《複ファ》
ミストリア編後の物語。
闇精霊の統治者、エイリーンとの繋がりを明かし、突如姿を消したルーフェン。
召喚師一族への不信感が一層強まる中、トワリスは、ルーフェンの後を追うことを決意するが……。
憎悪と怨恨に染まった、アルファノル盛衰の真実とは──?

【執筆予定のもの】

・〜闇の系譜〜(ツインテルグ編)《複ファ》
アルファノル編後の物語。
世界の流転を見守るツインテルグの召喚師、グレアフォール。
彼の娘である精霊族のビビは、ある日、サーフェリアから来たという不思議な青年、アーヴィスに出会うが……。




……お客様……

和花。さん
友桃さん
マルキ・ド・サドさん
ヨモツカミさん


【お知らせ】
・ミストリア編が、2014年の冬の大会で次点頂きました!
・サーフェリア編・上が、2016年の夏の大会で銅賞を頂きました!
・2017年8月18日、ミストリア編が完結しました!
・ミストリア編が2017年夏の大会で金賞を頂きました!
・サーフェリア編・上が、2017年冬の大会で次点頂きました!
・2018年2月18日、サーフェリア編・上が完結しました!
・サーフェリア編・下が、2019年夏の大会で銀賞頂きました!
・外伝が、2019年冬の大会で銅賞頂きました!
・サーフェリア編・下が、2020年夏の大会で銀賞頂きました!
・サーフェリア編・下が、2020年冬の大会で金賞頂きました!
いつも応援して下さってる方、ありがとうございます(*^▽^*)

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.114 )
日時: 2019/03/28 07:36
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: wC6kuYOD)


  *  *  *


 天が一瞬、不気味な光を孕んだかと思うと、次の瞬間、腹に響くような凄まじい雷鳴が鳴り響いた。
ややあって、ざあざあと降り始めた雨が、激しく地面を叩く。

 サイは、慌てて馬車の窓を閉めると、向かいに座っているアレクシアとトワリスに、声をかけた。

「今夜は荒れそうですね。今朝までは晴れてたのに……。屋敷に、馬車を横付けしてもらいましょうか?」

 トワリスは、そうですね、と答えてから、窓越しに、雨に煙る木造屋敷を見た。
都市部から、遠く離れた山中にひっそりと建つ、質朴で古びたこの屋敷は、ハルゴン邸である。
かつて、稀代の人形技師として名を馳せたミシェル・ハルゴン氏が、生前も住んでいた屋敷だと聞いていたので、もっときらびやかな豪邸を想像していた。
しかし、目前のその屋敷は、見るからに老朽化し、寂れていて、まるで廃墟のような雰囲気を醸している。

 御者に声をかけようとしたサイに、アレクシアが、制止をかけた。

「待って。私が門を開けるように交渉してくるから、貴方たちはここにいなさい」

「えっ……」

 アレクシアの発言に、サイとトワリスが、同時に声をあげる。
驚いた様子で黙りこんだ二人を一瞥してから、さっさと外套の頭巾を被ったアレクシアに、サイは、申し訳なさそうに言った。

「あ、それなら、私が行きますよ。外、すごい雨ですし」

 言いながら、サイも頭巾をかぶる。
しかしアレクシアは、小さく鼻で笑うと、そのまま馬車から出ていってしまった。

 トワリスと顔を見合わせ、仕方なく、サイは被った頭巾を脱ぐ。
トワリスは、豪雨の中、ハルゴン家の屋敷へと歩いていくアレクシアの姿を見ながら、小さく息を吐いた。

「……なんか、アレクシアが自分から動いてるところを見ると、裏があるように見えますね」

「た、確かに……」

 苦笑して、サイが同調する。
普段のアレクシアなら、「貴方が行ってきなさい、私は寒いのも濡れるのも嫌よ」くらいは平然の言ってのけそうなものだ。
卒業試験を受ける三人組を作り、上層部に申請し、任務まで用意したのもアレクシアだが、その行動にも、おそらく裏がある。
雨に濡れてまで、馬車から出ていくなんて、これもただの親切とは思えなかった。

「……そういえば、トワリスさん。ちょっといいですか?」

 ふと向き直ったサイが、トワリスの方を見る。
ちらりと目を動かしたトワリスに、サイは、真面目な顔つきになった。

「実は……あのあと、少し調べてみたんですけど、魔導人形ラフェリオンに関する任務は、私たち訓練生に用意された案件の中には、含まれていなかったみたいなんです。どんな手段でアレクシアさんが魔導人形の資料を入手してきたのかは分かりませんが、おそらくこの任務は、正規の魔導師に当てたものなのでしょう」

 サイの言葉に、トワリスは眉をあげた。

「調べたって、どうやってですか?」

「過去十年分の記録や未解決事件の内容を、資料室で読みました」

「じゅ、十年分……」

 サイはさらりと答えたが、魔導師団が請け負った過去十年分の任務を調べるなんて、とてつもない作業量であったはずだ。

 魔導師団の本部には、任務に関する情報がまとめられた資料室が、三ヶ所存在する。
一つは、正規の魔導師が請け負う、一般の任務に関する資料が納められた大部屋で、何年も解決されていない困難な任務や、特殊な事例だと認められると、その案件は宮廷魔導師団のほうへと持ち込まれる。
逆に、正規の魔導師が請け負うまでもない、簡単な案件だと判断された任務は、トワリスたちのような訓練生に回されるのだ。

 その一室だけでも、平民階級の民家くらい四、五軒は入ってしまいそうな広さがある。
そこに所狭しと並べられた本棚の資料、十年分をここ数日で調べあげてしまったのだとしたら、サイの仕事の速さは、やはり流石としか言いようがない。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.115 )
日時: 2019/03/29 19:36
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: wC6kuYOD)



 トワリスは、深々と嘆息した。

「そう……。じゃあやっぱりアレクシアは、不正を働いてまで、魔導人形を破壊したい何かしらの理由があって、それに私たちを巻き込んでるってことですよね」

 サイが、こくりと首肯する。

「ええ。あんな任務が、訓練生の卒業試験に適用されるはずがないっていうトワリスさんの読みは、当たっていました。アレクシアさん、私たち三人が組むことは、本当に上に申請していたようですが、受ける任務に関しては、虚偽の報告をしたんでしょうね」

「…………」

 真意は分からないが、いよいよアレクシアの悪事が明確になってきて、トワリスは、眉をひそめた。

 今回の任務が、サイの言う通り訓練生に回された案件ではないのだとしたら、アレクシアは、正規の魔導師が利用する資料室から、何かしらの手段で魔導人形ラフェリオンに関する資料を盗み出してきた、ということになる。
正規の魔導師どころか、八年も未解決な上、前魔導師団長も放棄したような任務だったわけだから、下手をすれば、宮廷魔導師に当てられたものである可能性だって高い。

 資料室の資料は、ある程度任務の種類によって整理され、区分けされているが、管理部でもない一介の訓練生が、あの膨大な蔵書の中から、特定の任務の資料を見つけ出すなんて、かなり骨の折れる作業だったはずだ。
それをアレクシアは、本来立ち入れないはずの資料室に侵入して、他の魔導師に見つからないよう、短時間で行ったというのだろうか。
それとも、受ける任務自体はどんなものでも良くて、ただ難しい任務に挑戦したかっただけだったのか。
確かに、訓練生の身の上で、宮廷魔導師当ての任務を成功させたら、良くも悪くも注目はされる。
あのアレクシアが、そこまでして周囲からの評価を得たがっているとも思えないが。

 悶々と考えを巡らせていると、サイが、神妙な面持ちで尋ねてきた。

「……どうしますか? トワリスさん、外れますか?」

 トワリスが、顔をあげる。
少し不安そうに目を伏せると、サイは続けた。

「今なら、まだ間に合うと思います。基本的に申請内容の変更は難しいでしょうが、アレクシアさんに強引に誘われたんだって上層部に言えば、もしかしたら、組の決定を取り消してくれるかもしれません。後々、無断で魔導人形破壊の任務に当たったことを、処罰されることもないでしょう。……引き返すなら、今かと」

 サイの言葉に、トワリスは、意外そうに瞬いた。
それから、雨の降りしきる外を再度一瞥すると、微苦笑した。

「……それ、言うなら、もっと前に言うべきだったんじゃないですか。もうゼンウィックまで来ちゃったんですよ?」

「あ、それは、その……」

 サイが、困り顔で口ごもる。
トワリスは、少し呆れたように笑った。

 旧王都シュベルテから、ハルゴン邸のある東部地方ゼンウィックまで、馬車で片道三日ほどかかる。
魔導師団が呈示した、卒業試験に費やせる期間は約一月。
その期間内に、より多く、より難しい任務をこなしていかなければならないというのに、今から何もせずにシュベルテに戻ったら、このゼンウィックまでの移動時間が、全て無駄になってしまう。
魔導人形の破壊に付き合う気がないなら、トワリスだって、最初からアレクシアに着いてこなかったし、そんなことは、サイとて分かっているはずである。
それでも彼が、引く返すなら今だと口添えしてきたのは、やはり、トワリスがアレクシアにひどく反発していたことを、気にしているからなのだろう。

 サイは、少し気弱な面はあるものの、噂通りの優秀な魔導師で、かといって傲ることもない、勤勉で気配り上手な性格の持ち主であった。
そんな彼のことを、トワリスは素直に尊敬できたし、サイもまた、トワリスと組めたことを喜んでいるようであった。
だが、その一方で、顔を合わせる度に睨み合うアレクシアとトワリスに挟まれて、居心地の悪さも感じているようだった。
サイは度々、本当にアレクシアと組んで良かったのかと、トワリスを気遣って尋ねてくるのだ。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.116 )
日時: 2019/04/03 18:44
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: wC6kuYOD)



 トワリスは、穏やかな声で言った。

「……サイさんは、なんだかんだで、アレクシアに協力するつもりなんですね」

 サイは、少し視線をさまよわせた後、小さくうなずいた。

「協力、というか、興味があるんです。あの有名な人形技師、ハルゴン氏の造形魔術は、見事なものだったと聞いていますから。それに、今引き上げたら、チームも解散しなくちゃならないでしょう? 私は、トワリスさんと組んでいたいので……」

「…………」

 まっすぐ言葉を投げ掛けられて、一瞬、返事が出てこなくなる。
サイは、生来の人たらしなのか、時折こうして、直球な言葉を恥ずかしげもなく述べてくる。
別段意味はないのだと分かっていても、いざ面と向かって言われると、なんだか胸が落ち着かない。

 トワリスは、肩をすくめてから答えた。

「いいですよ、私も付き合います。ここまで来て引き返すのは、時間が勿体ないですし、チームを解散したいなんて言ったら、上層部に色々と勘繰られそうですから。今のままアレクシアを説得して別の任務に向かうのは、骨が折れそうですしね……」

 トワリスが、はあ、とため息をつく。

 本当のことを言うと、結局他に組む相手が見つからなかった、というのも大きな理由の一つであった。
アレクシアといがみ合っている内に、当然、周囲の訓練生たちもチームを作っていたから、今更トワリスと組んでくれそうな人間なんて、見当たらなくなってしまったのだ。
あぶれた挙げ句、度々同期と揉め事を起こしていたことをアレクシアに密告されるよりは、現状に甘んじた方が得策と言えるだろう。

 落ち込んでいる様子のトワリスを見ながら、サイが、不意に真面目な顔つきになった。

「……ただ、アレクシアさんに関しては、やはり信用しない方がいいかもしれないですね」

 驚いたように瞬いて、トワリスがサイを見る。
アレクシアが信用ならないのは、トワリスとて十分承知していることであったが、こんな風にサイが悪口を言っているところを見るのは、初めてだったのだ。

「この任務が、それだけ危険ってことですか?」

 問えば、サイは顎に手を当てて、考え込むような仕草をした。

「……それもありますけど、彼女、何を考えているのか、いまいち読めないじゃないですか。ラフェリオンの破壊に私達を巻き込みたいのかと思いきや、わざわざアーベリトを貶して、トワリスさんを怒らせていたでしょう? 本当に私達に協力してほしいなら、本意じゃなかったとしても、私達の機嫌をとるはずだと思いませんか?」

 あ、と声を漏らして、トワリスは頷いた。

 アレクシアは、悪知恵が働くという意味で、かなり頭の良い女だ。
そんな彼女が、頻繁にトワリスを煽るような真似をして、関係を悪化させるなんて、確かに考えづらいことであった。
嘘でも友好的な態度をとって、サイやトワリスが快く協力するような状況を作り出した方が、アレクシアにとっては、都合が良いはずなのに。

 珍しく眉根を寄せ、サイは言い募った。

「なんというか、妙な余裕を感じるんです。助力を求めてきた割には、私達が反発してもおかしくないような態度ばかりとって……。まるで私達が、最終的にはアレクシアさんに協力すると、確信しているような──」

 その時だった。
まるでサイの言葉を遮るような勢いで、がらりと馬車の戸が開く。
サイとトワリスが振り返ると、そこには、全身ずぶ濡れになったアレクシアの姿があった。

「……あ、おかえりなさい。大丈夫ですか? 身体を拭いたほうが……」

 言いながら、サイが手拭いを探そうと、荷物の中を漁る。
しかし、そんなサイの申し出は無視して、アレクシアは言った。

「錆び付いていて、外門はうまく開かなかったわ。馬車じゃ入れないから、ここからは歩いて行きましょう」

 怪訝そうに顔をしかめると、トワリスは尋ねた。

「うまく開かなかったって……屋敷の人は? 開けてくれなかったの?」

 雨水の滴る蒼髪をかき上げ、濡れて重たくなった外套を絞りながら、アレクシアは、ちらりと笑った。

「住人は、屋敷の中よ。門を開けるのにわざわざ外に呼び出して、お互い濡れる必要はないでしょう? 問題ないわ、歓迎はしてくれているから」

「そう? なら、いいけど……」

 語尾を濁して、トワリスは、サイと目を合わせる。
雨の中、屋敷の者を外に呼び出す必要はない、という気遣いは頷けるが、そもそも、人が住んでいるのに、外門がちゃんと機能していないなんてことがあるのだろうか。
サイも、アレクシアの意図を図りかねた様子である。

 アレクシアは、濡れた外套の頭巾をかぶり直すと、鬱陶しそうに雨粒を手で払いながら、再び馬車に背を向けた。

「ほら、行くわよ。さっさと準備なさい」

 アレクシアに急かされて、サイとトワリスも、自分達の外套を手に取った。
疑問を感じながらも、それぞれ外套を纏うと、二人は、激しい雨の中に降り立ったのだった。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.117 )
日時: 2019/04/06 18:26
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: wC6kuYOD)



 ハルゴン家の屋敷は、近くで見てみると、一層おどろおどろしい雰囲気を醸していた。
馬車の中から見た時は、想像より寂れているな、くらいにしか思わなかったが、いざ間近で見上げてみると、もはや曰く付きの幽霊屋敷にしか見えない。
アレクシアの言った通り、外門は錆びつき、まるで血の雨でも浴びたかのように変色していたし、木壁も所々腐り、こうして建っているのが不思議なくらい、屋敷全体が劣化している。
風が吹く度、不気味にざわめく森を背景に、幽静と佇むその姿は、異様な存在感を放っていた。

「……ねえ、ここ、本当に人が住んでるの?」

 雨を凌げる玄関口まで来ると、トワリスは、アレクシアに問うた。
至近距離で見れば見るほど、この屋敷には、人が住んでいるとは思えない。
人どころか、鼠一匹すらいないのではないかと疑うほど、この屋敷からは、生の気配がしなかった。

 屋敷を見回しながら、サイも、呟くように言った。

「ハルゴン邸は、本当にここで合ってるんでしょうか? どう見ても、無人の廃墟にしか見えないのですが……」

 湿った横風になぶられ、冷たい雨粒が外套に染み込めば、サイとトワリスが、思わず身体を震わせる。
外門同様、錆びて使い物にならない呼び鈴を見ていたアレクシアは、扉の取っ手に手をかけて、平然と答えた。

「合ってるわよ。資料に載ってた住所も、ここだったでしょう?」

「それは、そうですけど……。八年前の資料ですし、住人が引っ越したってことも、考えられるのでは。さっきアレクシアさんが言っていた、住人は中にいるっていうのは、実際に会ったって意味なんですか……?」

 持っていた長杖を握りしめ、サイが、気味悪そうに表情を歪める。
不審がるサイとトワリスには構わず、アレクシアは、取っ手を強引に押し引きすると、開かないことに苛立ったのか、今度は、思いっきり扉に蹴りを入れた。
すると、ぎしっと蝶番が嫌な音を立てて、勢いよく扉が開く。
呆気にとられた様子のサイとトワリスに対し、あら、と一言呟くと、アレクシアは、そのまま屋敷の中に足を踏み入れた。

「案外簡単に開いたわね」

 薄暗い室内を、アレクシアは、何の躊躇いもなく進んでいく。
人様の屋敷の扉を蹴破った挙げ句、そのまま無遠慮に中へと入って行ったアレクシアを、トワリスは、慌てて引き留めた。

「ちょっと、アレクシア! いくらなんでも、不法侵入はまずいよ!」

 咄嗟に腕を掴んで、アレクシアを引っ張る。
しかし、目前に広がる屋敷内の光景を見た瞬間、トワリスは、身体を硬直させた。
玄関口の先にある大広間の至るところに、ばらばらになった人間の手足や胴体、頭部などが、散乱していたのである。

「びっ、びっくりした……一瞬、本物かと思いましたよ」

 後から入ってきたサイの声で、トワリスは、はっと我に返った。
よく見てみれば、散っていたのは、本物の人間の身体の一部ではない。
白木や金属で作られた、人形用の部品だったのである。

 大広間、そして奥に並ぶ小部屋にも、その左右に設置された大階段にすら、人形の部品は所々に放置され、山積みになって捨てられている。
素材や完成度合も様々で、肩から掌の部分まで繋がっているものもあれば、指先だけの部品も落ちており、中には、塗装が終わっていないだけで、頭から爪先まで出来上がっているものもあった。
共通していたのは、そのどれもが、作り物と分かっていてもぞっとするくらい、精巧な見た目をしているということだ。

 ぎぃっと木の軋む音がして、風に揺すられた扉が、ひとりでに閉まった。
規則的な間隔で並ぶ窓には、雨の幕が波のように下り、流れる線状の影が、舐めるように人形たちをなぞっていく。
血の通わない、無機質で滑らかな彼らの表面には、それでいて艶かしく、人間のものとはまた違う、奇妙な生々しさがあった。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下 ( No.118 )
日時: 2019/04/13 07:59
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: wC6kuYOD)


 薄暗い室内で、トワリスはしばらくの間、人形たちを眺めていた。
しかし、ふと身動いだアレクシアが、すっと目を細めると、同時にトワリスも顔を上げた。

「アレクシア、どうしたの?」

「……来るわ」

 言い様、アレクシアが腰の革袋から、掌程の宝珠(オーブ)を取り出した。
宝珠は、魔力を蓄蔵できる魔法具の一種である。
と言っても、主な使用目的は魔力の貯蔵ではなく、遠隔からの魔術の行使だ。
宝珠があれば、その場に魔導師がいなくても、蓄えられた魔力分の魔術を発動させることができるのである。

 アレクシアが宝珠を天井に向けて投げると、宝珠は眩い光を放ち、室内を照らした。
一気に視界が明るくなって、思わず目を閉じる。
刹那、どこからか、車輪が滑るような音が聞こえてきて、トワリスは、ぴくりと耳を動かした。

(近づいてくる……)

 凄まじい速さで迫ってくる駆動音に、トワリスは、腰に差している二対の剣──双剣に手をかけた。
一拍遅れて、サイもその気配に気づいたのだろう。
緊張した面持ちでトワリスと目を合わせると、長杖を構える。

──と、次の瞬間。
奥の扉が、突然破裂したかのように突き破られたかと思うと、何かが、目にも止まらぬ勢いでトワリスの目の前に迫ってきた。

 咄嗟に前に踏み込んで、避ける。
トワリスでなければ、到底反応できなかったであろう速さのそれは、そのまま一直線に壁に突っ込むと、車輪を動かして、ゆらゆらとこちらに向き直った。

 所々、地の金属が顕になった白皙(はくせき)と、肘から先に埋め込まれた刃。
乱れた金髪は、左半分が抜け落ち、頭皮がむき出しになっている。
透き通るような青い目だけが、爛々と光っているそれは、少女を模した、古い魔導人形であった。

 下半身はなく、腰から上を車輪のついた台の上に据え付けられた少女──魔導人形は、全身の関節から、ぎぃぎぃと不規則な駆動音を鳴り響かせながら、トワリスたちを見据えている。
すかさず任務の資料を取り出したサイは、一瞬それに視線をやってから、はっと息を飲んだ。

「もしや、これがラフェリオンでは……?」

 サイの呟きに、トワリスも瞠目する。
彼の言う通り、この少女が破壊するべきラフェリオンなのだとしたら、それは、トワリスの知っている魔導人形の姿とは、程遠いものであった。
魔導人形とは本来、娯楽のために作られた玩具に過ぎない。
せいぜい、飲み物や食べ物を運んだり、歌ったり、特定の問いかけに対して反応するくらいしか出来ないはずなのに、このラフェリオンとやらは、見る限り人殺しの道具だ。
少なくとも、腕に刃が仕込まれた魔導人形なんて、聞いたことがなかった。

 再び車輪を加速させると、ラフェリオンは、腕の刃ごと上半身を回転させて、トワリスに突進してきた。
剣を構えるも、すぐに手を引いて、横に避ける。
攻撃を防ごうにも、まるで竜巻のように回転する刃と剣を交えたら、腕ごと巻き込まれて、木端微塵にされるのが落ちだ。
動きを止めるためには、車輪を狙うのが有効だろうが、その車輪自体も鉄製のようなので、果たして斬撃が通ずるか分からない。

「ねえアレクシア、あれがラフェリオンなの!?」

 切迫した声で尋ねるが、返事は返ってこない。
先程まですぐ近くにいたはずのアレクシアが、隣にいないことに気づくと、トワリスは、慌てて周囲を見回した。
そして、広間の右側にある大階段を、足早に駆け上がっているアレクシアを見つけると、目を見張った。

「ちょっと、どこいくの!」

「そいつの相手は頼んだわよ!」

「はあ!?」

 ラフェリオンの標的が、トワリスとサイに向いているのを良いことに、アレクシアは、脇目も振らず屋敷の二階へと上がっていく。
まんまと囮にされたことは分かったが、この状況でラフェリオンから目をそらす訳にもいかず、文句を言うことも、追いかけることも叶わなかった。


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