複雑・ファジー小説

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〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下【完結】
日時: 2021/03/22 02:24
名前: 銀竹 (ID: r9bFnsPr)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=17224

 人々の安寧を願ったサーフェリアの前国王、サミル・レーシアス。
彼の興した旧王都──アーベリトは、わずか七年でその歴史に幕を閉じることとなった。

 後に『アーベリトの死神』と称される、召喚師ルーフェンの思いとは……?

………………

 はじめまして、あるいはこんにちは!銀竹と申します。

 本作は、銀竹による創作小説〜闇の系譜〜の二作目の後編です。
サーフェリア編がかなり長くなりそうだったので、スレを上・下と分けさせて頂く事にしました。
一部残酷な表現などありますので、苦手な方がいらっしゃいましたらご注意下さい。

 今回は、サーフェリア編・上の続編となっております。
サーフェリア編・上の知識がないと通じない部分も出てきてしまうと思いますが、伏線以外は極力分かりやすく補足して、進めていきたいと考えています(上記URLはサーフェリア編・上です)。

〜闇の系譜〜シリーズの順番としては
ミストリア編(上記URLの最後の番号五桁が16085)
サーフェリア編・上(17224)
サーフェリア編・下(19508)
アルファノル編(18825)
ツインテルグ編
となっております。
外伝はどのタイミングでも大丈夫です(16159)。
よろしくお願いいたします!

…………………………

ぜーんぶ一気に読みたい方→ >>1-430

〜目次〜

†登場人物(第三章〜終章)† >>1←随時更新中……。

†用語解説† >>2←随時更新中……。

†第三章†──人と獣の少女

第一話『籠鳥ろうちょう』 >>3-8 >>11-36
第二話『憧憬どうけい』 >>37-64
第三話『進展しんてん』 >>65-98

†第四章†──理に触れる者

第一話『禁忌きんき』 >>99-150 >>153-162
第二話『蹉跌さてつ』 >>163-189 >>192-205
第三話『結実けつじつ』 >>206-234

†第五章†──淋漓たる終焉

第一話『前兆ぜんちょう』 >>235-268 >>270-275
第二話『欺瞞ぎまん』 >>276-331
第三話『永訣えいけつ』 >>332-342
第四話『瓦解がかい』 >>343-381
第五話『隠匿いんとく』 >>382-403

†終章†『黎明れいめい』 >>404-405

†あとがき† >>406

作者の自己満足あとがき >>407-411

……………………

基本的にイラストはTwitterにあげておりますので、もし見たい!って方がいらっしゃいましたらこちらにお願いします。→@icicles_fantasy

……………………


【完結作品】
・〜闇の系譜〜(ミストリア編)《複ファ》
ミストリアの次期召喚師、ファフリの物語。
国を追われ、ミストリアの在り方を目の当たりにした彼女は、何を思い、決断するのか。

・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)上《複ファ》
サーフェリアの次期召喚師、ルーフェンを巡る物語。
運命に翻弄されながらも、召喚師としての生に抗い続けた彼の存在は、やがて、サーフェリアの歴史を大きく変えることとなる──。

・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下《複ファ》
三街による統治体制を敷き、サーフェリアを背負うこととなったサミルとルーフェン。
新たな時代の流れの陰で、揺れ動くものとは──。

【現在の執筆もの】

・〜闇の系譜〜(外伝)《複ファ》
完全に狐の遊び場。〜闇の系譜〜の小話を載せております。

・〜闇の系譜〜(アルファノル編)《複ファ》
ミストリア編後の物語。
闇精霊の統治者、エイリーンとの繋がりを明かし、突如姿を消したルーフェン。
召喚師一族への不信感が一層強まる中、トワリスは、ルーフェンの後を追うことを決意するが……。
憎悪と怨恨に染まった、アルファノル盛衰の真実とは──?

【執筆予定のもの】

・〜闇の系譜〜(ツインテルグ編)《複ファ》
アルファノル編後の物語。
世界の流転を見守るツインテルグの召喚師、グレアフォール。
彼の娘である精霊族のビビは、ある日、サーフェリアから来たという不思議な青年、アーヴィスに出会うが……。




……お客様……

和花。さん
友桃さん
マルキ・ド・サドさん
ヨモツカミさん


【お知らせ】
・ミストリア編が、2014年の冬の大会で次点頂きました!
・サーフェリア編・上が、2016年の夏の大会で銅賞を頂きました!
・2017年8月18日、ミストリア編が完結しました!
・ミストリア編が2017年夏の大会で金賞を頂きました!
・サーフェリア編・上が、2017年冬の大会で次点頂きました!
・2018年2月18日、サーフェリア編・上が完結しました!
・サーフェリア編・下が、2019年夏の大会で銀賞頂きました!
・外伝が、2019年冬の大会で銅賞頂きました!
・サーフェリア編・下が、2020年夏の大会で銀賞頂きました!
・サーフェリア編・下が、2020年冬の大会で金賞頂きました!
いつも応援して下さってる方、ありがとうございます(*^▽^*)

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下【1月完結予定】 ( No.389 )
日時: 2021/01/29 18:59
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: r1a3B0XH)


 きょとんとして首を傾げるハインツに、トワリスは、辿々しく説明をした。

「あ、あの、宮廷魔導師って言うのはね、王宮お抱えの魔導師みたいなものなんだけど……。私達みたいな新人が、おいそれとなれるようなものじゃないんだよ……」

 言いながら、ハインツからジークハルトへと視線を移し、本気で言っているのかと顔色を伺う。
ジークハルトは、背もたれに寄りかかると、泰然と返した。

「従来の宮廷魔導師団とは、また違う形になっていくだろうがな。俺以外の宮廷魔導師は、セントランスから襲撃を受けたときに、殉職じゅんしょくしたんだ。今は、やれ選定だの、叙任式じょにんしきだの、そんなことをやっている暇はない。だから、勤まりそうな奴に、俺から声をかけている。まあ、そこのリオット族のお前……ハインツだったか。お前は、正式には魔導師ではないし、リオット族は召喚師に個人で雇われているようなものだから、もし宮廷魔導師になるなら、一度訓練生から学ぶ形になるとは思うが」

「…………」

 有り難いような、恐れ多いようなジークハルトの言葉を、トワリスとハインツは、目を白黒させながら聞いていた。
滅茶苦茶な卒業試験を終え、ハーフェルンで、雇い主に煙草の煙を吹き掛けられながら働いていた魔導師一年目のトワリスが、その一年後くらいに、宮廷魔導師にならないかと誘われているなんて知ったら、一体どんな顔をしただろう。

 追い付かない思考を回しながら、背筋を伸ばすと、トワリスは尋ねた。

「いえ、その……とっても、光栄なお話です。でも、本当に私達なんかで勤まるでしょうか」

「知らん。それはお前たち次第だ」

「で、ですよね……」

 容赦なく撥ね付けられて、思わず身体を縮ませる。
ただ、と付け加えて、ジークハルトは言った。

「──お前たちは、召喚術などという化け物じみた力を相手に、最後まで戦った。状況は違うが、シュベルテが襲撃を受けたときは、今まで幾度も修羅場をくぐり抜けてきたような騎士や魔導師でも、恐怖で動けなくなったんだ。そいつらがどうという話ではなく、今回は、それくらい異常な事態だった。話を聞く限りでは、アーベリトもそうだったんだろう。……だが、お前たちは戦った。それは誇るべきところだ」

「…………」

 一瞬、ロンダートたちの顔が浮かんで、トワリスは言葉を詰まらせた。
最後まで戦ったのは、自分たちだけではない。
アーベリトを守ろうとしたのも、自分たちだけではなかったのだ。

 次いで、ジークハルトは、何か嫌なことを思い出したように、眉を寄せた。

「それに、あいつも宮廷魔導師になるしな……」

「……あいつ?」

「アレクシアだ」

 今度は、持っていた紅茶のカップを落としそうになって、トワリスが慌てる。
何故彼女が、と目で訴えると、ジークハルトは舌打ちをした。

「新興騎士団に紛れて、うまく俺達に情報を流せたら、宮廷魔導師に推薦するという約束をしてしまったんだ」

「……な、なるほど。確かに、訓練生時代から、アレクシアはいろんな意味で強かったですが……」

 当時のことを思い出して、トワリスが、ひくっと口元を引きつらせる。
ジークハルトは、深々とため息をついた。

「アレクシアに関しては、全てにおいて問題しかないが……ただまあ、あいつは眼が良いだろう。あれは、優れた才能というか、他の誰も持っていない強みだと思う」

 率直に言い切ったジークハルトを、トワリスは、少し驚いたように見つめた。
ジークハルトとアレクシアが、いつ頃から知り合いなのかは分からないが、思えば、卒業試験後に彼女が謹慎していた時、二人で会っていたから、案外古い付き合いなのかもしれない。
口ぶりからして、ジークハルトはアレクシアの眼のことを知っているようだったし、それに対して、悪い印象を抱いている様子もなかった。

 ジークハルトは、懐から腕章を二つ取り出すと、それを長机に並べた。

「あの、これは……?」

「宮廷魔導師の腕章だ」

 ぎょっとして、トワリスが目を見開く。
普通に腕章に触ろうとしたハインツの手を叩き落として、トワリスは言った。

「あの、まだお返事してません」

 ジークハルトは、分かっている、という風に頷いた。

「別に、そういう意味じゃない。お前たち、体調が回復したら、アーベリトの避難民たちのところに行くだろう。今、講堂は一般の魔導師じゃ入れないから、この腕章を預けておく。行ったときに、衛兵に提示するといい。俺の名前を出して、宮廷魔導師の腕章を見せれば、通してもらえるはずだ」

「あ、ありがとうございます」

 ほっとしたように肩を撫で下ろして、トワリスが頭を下げる。
飲み終わった紅茶のカップを置いて、立ち上がると、ジークハルトは言った。

「宮廷魔導師になるかどうかの件は、迷うくらいならやめておけ。最近までは、名誉なことだと阿呆みたいにはやし立てられる立場だったが、世情を考えると、この先はどうなるか分からん。明日にでも、教会の急進派に襲撃されて潰れるかもしれないし、魔導師団自体が見限られて、立ち行かなくなるかもしれない。……それでも、魔導師としてやっていくつもりなら、俺に言え」

 ふっと目を細めると、ジークハルトは、威圧的な光を瞳に浮かべて、トワリスとハインツを見た。
それから、背もたれにかけていたローブを羽織ると、さっさと客室を出ていってしまう。

 サーフェリアの国章が彫られた、宮廷魔導師の腕章。
机に置かれたその腕章を、トワリスは、じっと目を凝らして見つめていたのだった。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下【1月完結予定】 ( No.390 )
日時: 2021/01/30 19:29
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: r1a3B0XH)




  *  *  *


 カーン、カーンと、正午を知らせる鐘が鳴る。
長廊下に響く雨垂れの音を聞きながら、ようやく配給の待機列を抜けたカイルは、リリアナとダナの分のスープも持って、講堂の中に戻った。

 講堂では、カイルたちの他にも、合計で百数十名ほどのアーベリトの避難民たちが、各々俯いて、スープを飲んでいた。
見上げると、思わず気が遠くなるほど高いはり天井や、様々な色硝子を組み合わせて作られた、絵画のような大窓。
アーベリトではなかなか見られない、豪華で派手な建物に、本来であれば、皆はしゃいだであろうが、今は、そんなものに興味を示す者はいない。
やけに広い講堂の中で、傷つき、疲れはてたアーベリトの人々は、それぞれ身を寄せ合いながら、黙々と暮らしているのであった。

 カイルがスープを持って帰ると、リリアナが、高い声をあげて喜んだ。

「わぁ、今日はジャガイモのスープね。美味しそう!」

 ほくほく顔で受け取って、リリアナは、早速スープを飲み始める。
天井の高い講堂の中だと、少し声を上げただけでも響いてしまうので、いつも騒がしいリリアナは、よく注目の的になっていた。
最初は、苛立った者に「うるさい」と怒鳴られたものだが、避難生活が続く内に、周囲の方が慣れてきたのだろう。
今では、声の主がリリアナだと分かると、いつものことだと無視されるようになった。
しかし、そんな彼女の空元気が続くのは、日中だけであることを、カイルは知っている。
夜になると、リリアナは、悪夢にうなされては、汗だくになって飛び起き、それを幾度も繰り返しているのだった。

 車椅子の傍らに、丸まって落ちている毛布の塊を叩くと、カイルはスープを差し出した。

「ダナさん、起きられる? スープ持ってきたよ」

「……おお、ありがとう。カイル坊」

 毛布の隙間から、ひょっこりと顔を出したダナが、スープを受け取る。
その皺だらけの細い手が、微かに震えていることに気づくと、カイルは、自分の分の毛布をダナに押し付けた。

「寒いなら、俺の分の毛布も使っていいよ」

 そう言って、スープを片手に床に座ると、ダナが、苦笑しながら毛布を返してきた。

「ええ、ええ。坊が使いな、子供が身体を冷やしちゃいかん」

「子供は体温が高いから、いいんだよ。ダナさんの方が、無理しちゃ駄目。あんたもう年寄りなんだからさ」

「……言うようになったのう」

 年寄り扱いされたのがしゃくに触ったのか、ダナは、カイルの分の毛布もいそいそと着込んで、スープに口をつける。
二人のやりとりに笑ってから、リリアナは、ふと、濡れた窓の外を眺めた。

「雨、なかなか止まないわね……」

 そう呟いて、スープをもう一口すする。
あの日から、延々と降り続けている冷たい雨は、人々の心身から、じわじわと熱を奪っていくのだった。

 アーベリトが没して、皆の顔からは、すっかり笑顔が消えてしまった。
シュベルテが、雨風をしのげるようにと講堂を解放し、寝床も食事も用意してくれたが、それでも人々は、暗い顔で日々を過ごしている。
家を失い、家族を失い、何もかもを失くしたアーベリトの避難民は、不安と恐怖に押し潰されて、怯えているのだった。

 避難先がシュベルテであることも、人々の不安を煽る原因の一つであった。
アーベリトを陥落させた首魁として、前召喚師シルヴィアの処刑が決まったと知らされていたが、それを鵜呑みにして信じている者は、ほとんどいなかった。
というのも、あの日、生き残った人々は、小高い丘の上に建つ孤児院にいたため、アーベリト全体が見渡せる状況にあったのだ。

 勿論、遠目から見ていただけなので、一体アーベリトに何が起こったのか、全てを把握しているわけではない。
ただ、アーベリトを覆った見慣れぬ魔法陣や化物、進軍してきたシュベルテの騎士たちの姿を、はっきりと見ている者は何人もいた。
となれば、疑うべきは、召喚術を唯一扱える現召喚師、ルーフェンか、七年前にアーベリトに王権を奪われたシュベルテ軍、もしくはその両方である。
憎むべき相手がはっきりせず、不満を募らせた人々の中には、半狂乱になり、講堂から出ていった者もいた。
シュベルテからほどこしを受けるくらいなら、死んだほうがましだと考える者も多かったのだ。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下【1月完結予定】 ( No.391 )
日時: 2021/04/15 17:32
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: WZc7rJV3)


 温かいスープを、ゆっくり味わいながら飲んでいたリリアナは、ふと、向かいに座っているカイルが、目を丸くして、講堂の入口を見つめていることに気づいた。
つられて視線を動かし、リリアナも、驚いて目を見開く。
入口に、トワリスとハインツが立っていたのだ。

「──トワリス! ハインツくん!」

 思わず大声を出してしまい、はっと口を閉じる。
気を取り直して、ぶんぶんと手を振ると、気づいたトワリスたちが、リリアナたちの元へとやってきた。

「全然顔を出せてなくて、ごめん。大丈夫? その……怪我とか、色々」

控えめな声で尋ねて、トワリスは、リリアナたち三人を見遣る。
リリアナは、こくりと頷いてから、トワリスの手を握った。

「お陰様で、私達は大丈夫よ。やっとお礼が言えるわ。あの日、助けてくれてありがとう。取り乱して、迷惑かけちゃってごめんね」

「いいよ、そんなの、全然」

 首を振って、トワリスも、手を握り返す。
リリアナは、どさくさ紛れにハインツの手も握ろうとしたが、気づくと、彼は遠ざかった位置に移動していた。

「私達はなんとかやってるけど、トワリスたちこそ、大丈夫なの? ひどい怪我をしていたんでしょう。ちゃんと治った?」

 立て続けに問うてきたリリアナに、トワリスは、苦笑を浮かべる。
縫った右足に手を添えると、トワリスは答えた。

「うん、もう平気だよ。私とハインツは、普通より頑丈だから」

「本当? それならよかった!」

 そう言って、リリアナはふわりと微笑む。
しかし、いつもは笑うと、丸みを帯びて紅潮するはずの頬が、心なしかけて、血色も悪かった。
おそらく、あまり眠れていないのだろう。
うっすらと目の下に隈を作り、それでも明るく笑顔を浮かべる彼女に、トワリスも、ぎこちない笑みを返したのだった。

 不意に、トワリスの袖を引いて、カイルがこそこそと声をかけてきた。

「なあ、トワリス。会えたら聞こうと思ってたんだけど、前召喚師様が死刑になるって、ほんと? それって、アーベリトを襲ったのは、前召喚師様ってことなのか。ルーフェンがやったんじゃないんだよな?」

 不安げに尋ねてきたカイルに、思わず、トワリスは口ごもる。
曖昧に首を振って、トワリスは呟いた。

「やっぱり、ここでもその噂が流れてるんだね……」

 気落ちした様子のトワリスに、リリアナが、慌てたように付け足す。

「違うの。私達は、ちゃんと分かってるのよ。召喚師様とはお会いしたことがあるし、トワリスやハインツくんからも、沢山お話を聞いているもの。だから、召喚師様がそんなことをする人じゃないって、私達は信じてる。ただ、皆が皆、召喚師様が、どんな方なのかを知っているわけじゃないから……」

 言いながら、視線を動かして、講堂内を見回す。
一様に下を向き、生気のない顔で食事をとっているアーベリトの避難民たちを見て、リリアナは、沈んだ声で囁いた。

「……皆、召喚師様か、シュベルテの遷都反対派だった人達がやったんじゃないかって、そう疑ってるみたい。前召喚師様の処刑を知らせてくれた魔導師様に、詳しく聞いたんだけど、はぐらかされちゃって……それで皆、余計に不審がってるのよ」

「…………」

 項垂れるリリアナに、答えることもできず、トワリスは、もどかしく唇を噛んだ。

 箝口令が敷かれているのは分かっていたが、いっそ、この場で全てを話してしまいたかった。
真実全てを語らないにしても、噂の否定だけでもすれば、人々がルーフェンに抱く認識は、大きく変わるに違いないのだ。

 ただ一つ、懸念点を挙げるならば、シュベルテの新興騎士団が進軍してきたことを事実だと知れば、今、そのシュベルテに匿われていることに、避難民たちが一層不安を覚えるのではないか、ということだ。
普段、街中で暮らしている人々、特に、シュベルテ外の人間ともなれば、教会と王家の間にある衝突など、所詮は他人事である。
今回暴走したのは、あくまでイシュカル教会であり、シュベルテを治めるカーライル家は、協定を反古ほごにする気はなかったのだと、この場で説明しても、理解してもらえるかどうか分からなかった。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下【1月完結予定】 ( No.392 )
日時: 2021/02/02 09:28
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: r1a3B0XH)


 トワリスが言葉に迷っていると、ふと、通りすがった避難民の男が、ハインツを見て凍りついた。
ハインツと、次にトワリスの方を見て、何かを確信したように息を飲む。
男は、振り返ると、突然大声で避難民たちに呼び掛けた。

「おい! アーベリトの魔導師様だ! アーベリトの魔導師様がいるぞ!」

 男の声に、はっと顔を上げた避難民たちが、わらわらと一斉に集まってくる。
あっという間に避難民たちに包囲されたトワリスたちは、入口付近の壁際に追い詰められ、何事かと身を硬直させた。

 避難民たちは、ぎらぎらとした目を動かして、口々に尋ねてきた。

「魔導師様、私達をこのような目に遭わせたのは誰なのですか!」

「どうぞ教えてください! 私は息子と妻を殺されたのです!」

「街に描かれた魔法陣を見ました! あれは、古語ではありませんよね? 召喚師様が、私達を裏切ったのですか?」

「シュベルテは、本当に安全なのでしょうか? 私達は、これからどうなるのですか?」

「魔導師様、お願いします。どうか教えてください……!」

 追いすがる人々の声が、幾重にも折り重なって、割れ鐘のように響き渡る。
あまりの剣幕に、萎縮していたトワリスであったが、ややあって、手を上げると、大声で叫んだ。

「い、一旦落ち着いてください!」

 人々が口を閉じて、講堂内に沈黙が広がる。
トワリスは、すっと息を吸うと、一言一言、区切るようにして答えた。

「皆さんの……現状を憂うお気持ちは、お察しします。私としても、事態の真相をお話ししたいとは、思っています。……ただ、ごめんなさい。今は出来ないんです。……申し訳ありません」

 トワリスが頭を下げると、途端、人々の目に、凶暴な光が浮かんだ。
眉を吊り上げ、ぎりぎりと歯を食い縛り、避難民たちが怒鳴り声をあげる。

「ふざけるな! この役立たずめ! 俺達を見捨てる気なんだろう!」

 トワリスは、顔色を変えて否定した。

「違います! 私達は、皆さんが一刻も早く、安心して暮らせるように──」

「だったら話せ! やましいことがないなら、話せるだろう!」

 掴みかからんばかりの勢いで、人々は、剥き出した感情をぶつけてくる。
中には、食事に使った匙を投げる者まで出始めて、ハインツは、トワリスを庇うように前に出た。

「待って皆! 焦るのは分かるけど、トワリスたちを責めたってしょうがないでしょう! 二人は、命懸けで街を守ってくれたんじゃない!」

 声を張り上げ、リリアナも制止を訴えるが、勢いづいた人々の罵声に飲まれて、その声は届かない。
揉み合う輪の中に入っていこうとするリリアナを、カイルは、必死になって止めるしかなかった。

──その時だった。
突然、煮えた空気を断ち切るような、鋭い打音が響いてきて、避難民たちは、そろって振り返った。
講堂の入口に、ルーフェンが立っている。
響いてきたのは、ルーフェンが、杖で壁を強く打った音であった。

「……失礼。声をかけても、届かないくらいの騒ぎだったので」

 場に似合わぬ、悠然とした口調で言って、ルーフェンは微笑む。
アーベリトで着ていたような軽装ではなく、薄青を基調とした正装に身を包んだルーフェンは、神秘的な空気を纏っていて、なんだか別人のようであった。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)下【1月完結予定】 ( No.393 )
日時: 2021/01/30 19:55
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: r1a3B0XH)



 瞠目して、こちらを凝視しているトワリスとハインツを一瞥すると、ルーフェンは、避難民たちの元へと歩み寄った。

「長らく、窮屈な思いをさせてしまってすみません。朗報があって来ました。まだ少し先になると思うんですが、皆さんには今後、シュベルテとアーベリトの間にある、ヘンリ村の跡地に移住して頂こうと思っています」

 突然の知らせに、避難民たちの間に、ざわめきが起こる。
ルーフェンは、軽い調子で続けた。

「あの辺一帯は、元々カーノ商会の所有地だったんですが、七年ほど前に、訳あって俺が買い取っています。今は更地ですが、アーベリトの皆さんが移住するにあたり、整地とその後の援助も、シュベルテが賄ってくれることになりました。そういうわけなので、今後はシュベルテの管轄かんかつとなりますが、皆さんが望むなら、独立自治区として、宣言をしても構わないと陛下は仰っています」

 喜びというよりも、戸惑いを隠しきれない様子で、避難民の一人が口を開いた。

「あ、あの……アーベリトは? アーベリトには、戻れないのでしょうか?」

 ルーフェンは、淡々と答えた。

「アーベリトは、地盤沈下が酷く、建物の倒壊被害も深刻です。今のところ、復興させる予定はありません」

「そ、そんな……」

 一様に青ざめた表情になり、人々は、絶望の色を瞳に滲ませる。
顔色一つ変えないルーフェンを、怒りの形相で睨んだ男たちが、前に出て怒鳴りつけた。

「じょ、冗談じゃない! アーベリトには、祖父の代から続く俺の店があるんです! それを、そんな簡単に諦めろだなんて、あんまりじゃないですか!」

「そうだ、横暴だ! 揃いも揃ってアーベリトを守れなかった挙げ句、こんなところまで連れてきて、その上、今度は故郷を捨てろだと? ふざけるな! シュベルテと結託して、落ちぶれた王都民の俺たちを、嘲笑ってるんだろう!」

 興奮してわめき散らす男たちに、講堂の隅で抱かれていた赤ん坊が、ぎゃあぎゃあと泣き出す。
ルーフェンは、杖で床を打つと、強めた口調で言った。

「シュベルテへの一時避難も、ヘンリ村跡地への移住も、強制するものではありません」

 驚いて、黙り込んだ人々に、ルーフェンは言い募った。

「アーベリトを守れなかったのは、俺の責任です。しかし、陛下や魔導師たちが、貴方達を陥れようなどと画策したり、影で嘲笑っていることなど、全く有り得ません。他に行く宛がある方や、何と引き換えにしてもアーベリトから離れたくないという方は、自分の思う通りにしたらいい」

「…………」

 ぐ、と言葉を詰まらせて、避難民たちは悔しげに俯く。
実際、身一つで逃げてきた彼らには、他に頼れるものなどないのだ。

 今にも泣き出しそうな女が、懇願するように、ルーフェンに問いかけた。

「では……それでは、シュベルテでないなら、誰がアーベリトを滅ぼしたというのですか。前召喚師様ですか? 一体、何のために? どうか教えてください」

 人々が、女に同調して、ルーフェンを見つめる。
ルーフェンは、無感情な瞳を向けると、一呼吸置いてから、唇を開いた。

「……これ以上、俺から伝えられることは、何もありません」

 しん、と、講堂内が静まり返る。
避難民たちは、唖然として、言葉を失ってしまったようだった。
身を翻して、出ていこうとしたルーフェンの背を指差して、男が言った。

「あいつだ! あいつがやったんだ! 自分がやったから、何も言えないんだ……!」

 室内の空気が、一瞬で変わった。
今まで場に満ちていた不安や怯えが、底知れぬ怒りと憎しみに変化する。
人々は、目を光らせて、一斉にルーフェンを罵倒した。

「人殺し! お前がアーベリトに、不幸を招き入れたんだ!」

「お前が死刑になればよかったんだ! 家族を返せ……!」

 異常なまでの熱気を纏い、鋭く発せられた怒声が、ルーフェンを刺し貫く。
トワリスが、咄嗟に間に入ろうとしたとき。
不意に、勢いよく投げられたスープ皿が、ルーフェンに肩に当たって落ち、床の上で砕け散った。

「──サミル先生も、お前のせいで死んだんだ! お前は死神だ……!」

 皿を投げたのは、七、八歳くらいの少年であった。

 ルーフェンは、顔だけ振り返ると、ふと、目を細めて少年の方を見つめた。
はっと身を強張らせ、気圧けおされて沈黙した人々の顔に、色濃い恐怖が浮かぶ。
まさか、本当に投げた皿が当たるとは思わなかったのだろう。
すぐに、母親らしき女が駆けてきて、少年を守るように抱えると、うずくまって、がたがたと震え出した。

 張りつめた緊張が、人々の身体を縛り上げる。
ルーフェンは、しばらくの間、震えている親子を見ていたが、やがて、再び身を翻すと、何も言わずに、講堂を出ていったのであった。


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