月下のクリムゾン  るりぃ ◆wh4261y8c6 /作



第零妖『月下の紅』1



百鬼夜行、魑魅魍魎――――
そんな言葉が通用している、現在から400年後の京の都。

「紅様、ただいまもどった!」

「ああ、おかえりなさい、屡狐。」

都の北。
伸び放題の雑草の中に紛れるように、一つの小屋が建っていた。
小屋の扉を開け、入ってきた少女に部屋の中の女性は優しい微笑みを向けた。
入ってきた少女に微笑む彼女は名を紅といい、少女は屡狐といった。

「…私は休む。」

「了解いたした。」

「あなたも身体を休めておきなさい。…あの妖狐と戦うなら、生半可な気持ちでは喰われてしまう。」

紅は俗に言う陰陽師である。
紅は当代一と謳われる道士であり、屡狐はそれに付き従う妖狐。
否、妖狐と言うよりも式神と言った方が近いかもしれない。
とにかく、そんな関係であった。

「妖狐の様子は如何だった?」

「徐々に力を失いつつある。半月も経てば、ただの人間に戻ると妾はおもうぞ。」

「ふん…生殺すのもつまらないわ…」

蝋燭の灯も灯らない廊下を、紅色と金色が進んでいく。

「屡狐、世の動乱は始まったばかりよ…」

紅の楽しげな声は、夜の闇へと吸い込まれていった。