月下のクリムゾン るりぃ ◆wh4261y8c6 /作

第参妖『手ノ目』3
「草原……琵琶の音……やはり、みつかりませんね。」
此処は紅の屋敷の資料室。
何千何万もの資料が保管されている。
紅はその中で、春から聞いた話の妖を探していたが、一向に見つかる気がせずに気が遠くなりかけていた。
「やはり、もう一度春に話を聞きにいきましょうか……」
紅がそうつぶやき、資料を元の位置に戻そうと立ち上がった瞬間。
ドンガラガッシャンという派手な音の後に、屡孤の叫び声が聞こえてきた。
「何かをやらかしたのでしょうか……?」
紅は眉根に皺を寄せながら立ち上がり、資料室から出んと資料の山をかき分けて資料室の襖へと向かった。
紅が襖を開けようと手を伸ばした瞬間。
スパァァンと小気味いい音を立てて襖が勢い良く開け放たれた。
「紅様~!! 大変じゃ。」
「……落ち着きなさい。屡狐。」
ばたばたと両手を振り回して資料の山を崩す屡狐に、紅はため息をつきながら視線を地に落としたが、次いで聞こえた屡狐の声に硬直した。
「お春が、死んでしもうた!!」
「……そう、ですか。」
呟くように返してから、紅は片手に持っていた資料を握り潰した。
その顔には、不自然なほど何も浮かんでいなかったが、握った拳の強さが紅の感情のゆれの激しさを物語っている。
何かを堪えるように、抑えるように、ゆっくり息を吐く。
瞼をそっと閉じて、今度は小さく息を吸うと、紅は目を開きそれを屡狐に向けた。
「いきましょう。お春の家へ。」

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