月下のクリムゾン るりぃ ◆wh4261y8c6 /作

第壱妖『八咫烏』4
蛭子が消え、紅が本日二度目のため息をついたとき、紅に向かって黒い何かが飛んできた。
紅は黒い何かを屡狐を庇いながら右に飛んで回避する。
紅が右の木をキッとねめつけると、そこには金髪青眼の美青年が立っていた。
青年は薄笑いを浮かべると一礼して名を名乗った。
「はじめまして。僕の名前は烏丸 黒天。
……いや、君の前では『八咫烏』と名乗った方が良いかな?」
そう名乗った八咫烏をみて、紅は笑みを顔に貼り付けながら、腰の刀に手をかけて鯉口を切った。
「ご丁寧にどうも八咫烏さん。私は貴方を祓う陰陽師です。」
八咫烏は一瞬きょとんとしたが、何が可笑しいのか急に笑い出した。
「祓う、ですか?あなたにそんなことは出来ません。だって……
あなたは此処で死ぬのですから。」
八咫烏はそう言うと狂ったように高笑った。
両腕の皮膚が急に盛り上がったかと思うと、皮膚を突き破るようにして爪の生えた黒い翼が生えた。
「折角の男前でしたのに、勿体ありませんね。」
紅がため息を吐きながら言った台詞に、八咫烏はにやりと嗤った。
「僕の今の格好を見ていう言葉がそれですか、結構肝が据わっていますね。」
紅は八咫烏に対抗するようにふわりと微笑を浮かべた。
「結構見慣れているもので。」
紅がそういった瞬間、紅に向かって飛んできたのは鋭く黒い羽根。
紅は刀を抜いてそれをはじき返した。
その瞬間。
ドガァァアアア!!
と、音をたてながらその羽根が爆発した。
紅は近くにいた屡狐に爆炎が及ばないよう、結界を張ると、後ろに飛びずさった。
「これを避けますか、なかなかやりますね。
では、本気を出させてもらいます。」
八咫烏がそういった瞬間、凄まじい邪気が放たれ周囲の空気が重くなった。
屡狐は結界のおかげで邪気を感じずにいるが、震えるほどの殺気を感じ取り、へたりこんだ。
紅は体にのしかかる重りを払いのけるように頭をふると、刀を構えなおした。
そしてキッと前を見据えた先には、羽根が金色になり、青い瞳は瞳孔が縦に見開かれ、金の髪は逆立っている状態の八咫烏がいた。
紅はその邪気に圧倒されそうになりながらもしっかりと意識を持ち、八咫烏をひたと見据えた。
八咫烏はそんな紅の姿を面白そうに見つめると、ひゅ、と、右腕を振るった。
紅は八咫烏が右腕を振るうと同時に左へ回避する。
そしてそのまま跳躍すると、木を足場に八咫烏の真上までとんだ。
「紅き刀よ この者の血潮と引き換えに 悪しきを喰ろうて穢れを祓いたまへ」
紅が真言を唱えると八咫烏の周りに眩い光の文字が浮かぶ。
紅は大きく息を吸い込み、叫んだ。
「南無三!!」
叫ぶと同時に刀を振り下ろすと、八咫烏から血と同時に不定形の影が出ていった。
紅はそれを追い、刀を一閃する。
「八咫烏にとりつきし邪なる禍魂。紅が屠らせて貰った。」

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