月下のクリムゾン  るりぃ ◆wh4261y8c6 /作



第参妖『手ノ目』1



べおん。

べおおん。

琵琶の音色が草むらに響く。
雲を多く纏った夜空は、その唯一の月という灯火すら陰らせて。
少女はお遣いの風呂敷を抱きしめながら、心許なくそれを見上げた。

べおん。

べおおん。

ぬるりとした風が首筋を撫でる。
早く動けと脚に命令しても、震える身体はうまく動かなかった。
気にすることはない。
ただの琵琶の音だ。
楽師か、座頭が弾いているのだ。
月輪を讃え、星を奮わす音色を、夜に奏でているだけだ。
少女はそう言い聞かせながら、ひたすらに歩いた。
右側に広がる、河原に続く草むらには人影など見えない。
それを探すのすら恐ろしくて。
風呂敷をぎゅっと握り、つま先を見ながら歩いた。
不意に、琵琶に乗せて歌が始まる。
震え、響く声で、大きさが定まらず。
時には耳元で聞こえ、時には河の方で微かにぽそぽそと聞こえた。

(立ち止まっては駄目。もうすぐでお店なんだから。早く。早く。)

震える脚は、何事もないように装って少女を淡々と運んだ。
琵琶と、影のない者は、ひたすらに唄う。

たれぞ
たれぞ
我のこうべを穿つのは
槍か
刀か
鉄砲か
たれぞ
たれぞ
我のいのちをあやめるは
槍か
刀か
鉄砲か
めだまないのはくやしかろ
いのちないのはくやしかろ
たれぞわからぬくやしかろ
いのちないのはくやしかろ?