月下のクリムゾン  るりぃ ◆wh4261y8c6 /作



第肆妖『天使』4



「僕はお前が神だろうとお前の言うことなんて聞かない。聞いてたまるかッ!!」

紅が宥めようと唇を開いたところで、景色が動いた。
陽鳴の、肩の向こう。
冷たい射抜くような視線を注ぐ蛭子が、矛をふわりと上げる。
暗闇に、それはやけに映え、まるで、月のようだった。

「逃げなさい! 陽鳴!!」






紅が陽鳴を庇おうと前に飛び出す前に、蛭子の掌が動いた。
閃光は刃となって闇を貫き、陽鳴に向けて振りおろされた。
紅が届かないと解っていても叫んで伸ばした手の向こうに、影が走る。
光は一瞬でその影に喰われ、消え去った。

「……どういうつもりなの? 屡狐。」

蛭子の攻撃から陽鳴を護ったのは、屡狐だった。
光を去なす為に振るった右手の爪をシャキリと引っ込め、今度は左手の爪の切っ先を蛭子に向ける。

「どういうつもりか…? そんなの決まってるじゃろう。妾は紅様に召還された魂……紅様に使役され、紅様を護るためだけの存在じゃ。じゃから……紅の願いならば叶えなければ、のう?」

「私の言うことが解らないわけではないでしょ!? 禍魂<かこん>の存在も陰陽師<おんみょうじ>の存在も、知られてはならないのよ!!」

「だから、陽鳴が黙ってればいいのじゃろう?」

「馬鹿な……それを信じろと言うの!? 仮に、その男が喋らないにしても事が明るみにでる火種にもなりかねないのよ!? それを見過ごせというの!?」

「そうじゃよ……それが紅の望みじゃからのう。言って解らないならば、力ずくじゃが……構わんの?」

「……小癪な化け狐めが……いいわ後でくやんでも知らないわよ、この馬鹿糞野郎!!」