月下のクリムゾン るりぃ ◆wh4261y8c6 /作

第弐妖『鬼』6
鬼丸は、自己紹介をすると再び無言で饅頭を貪りはじめた。
余程腹がすいていたのだろう、あっという間に平らげると、紅のほうに向き直った。
「ほんまにありがとな。感謝してもしきれへんわ。」
そういって再び地面に頭をこすり付ける鬼丸。
紅は鬼丸が頭を地面にこすり付けるのを見て慌てて言った。
「いいえ、そんな大した事はしていませんよ。だから顔を上げてくださいな。」
鬼丸はそういわれて素直に顔を上げたが、まだ納得の行かない顔をしている。
紅は鬼丸の表情を見て、ため息をつきながら目を伏せた。
「では、私はあなたに饅頭をあげた、私はその代わりにあなたから情報をもらう。」
紅がそういうと鬼丸の顔はぱぁっと輝き、首をぶんぶんと振って頷いた。
「では、早速聞かせていただきます。……稲荷を壊したのは、あなたの仕業ですか?」
鬼丸の表情が、一瞬凍りついた。
紅が、嫌ならば言わなくて良いと言う前に、鬼丸はそれをさえぎって答えた。
「おん、そらワイのせいや。」
苦虫を噛み潰したかのような顔で言う鬼丸に、紅は顔をゆがめた。
だが、この世にはびこる禍魂を屠り、人々を救うのが紅の役目だ。
聞けるならば聞かなければ。
紅は自分にそう言い聞かせて、また口を開いた。
が、それは紅が感じなれた気配を感じた事で言葉は発せられる前に消えた。
「屡狐!?」
紅が驚いて振り向くと、木の近くに屡狐がぼうっとつっ立っていた。
紅はすぐに駆け寄ろうとしたが、屡狐の背後から漂う別の人物の気配に足を止める。
「……そこにいるのは、誰ですか?」
物腰柔らかないつもの口調に、警戒心とわずかな殺気をこめて話しかける。
すると、その人物はため息をついた後、屡狐の背後から現れた。
「やはりばれたか、陰陽師殿は鋭いな。」
その人物は、黒髪をオールバックにし、武者鎧を着込み、頭に取り帽子をかぶって人をくったような笑みを浮かべている男だった。
紅はその人物をみて、驚いたように目を見開くと、ぎろりとにらみつけ、低い声でたずねた。
「何故、お前がここにいる……北条早雲!!」

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