月下のクリムゾン  るりぃ ◆wh4261y8c6 /作



第陸妖『座敷童子』1



「おい! しっかりしろ!」

気付けのために張り上げた声に、真っ黒な装束を着た青年はうっすら目を開けて此方を見た。
その表情には色が無く、血走り潤んだ瞳が虚ろに宿るだけで。
枯れた唇で、途切れ途切れに何か紡ぐ。

「……大佐ァ……見たんだよ…。俺……見たんだ……。」

「見たって……。」

「あれを……あれを見たから…ッ! 見たから死んじまうんだよオォッ!!」

突然、彼は絶叫して。
まるで灯した蝋燭が、最後パッと燃え上がるように。
そのまま、絶命した。

男は何度もその彼の名を呼び、揺すったが彼が戻ってくることはなく。
絶望した耳に、遠くの闇からあどけない少女の笑い声が聞こえた。

「……また、か……。」

恐怖にひきつった彼の瞼を、せめて安らかにと閉じてやる。
男は、自らに纏う漆黒の装束をパンと叩き、ゆっくり立ち上がった。
見据えた闇の向こうには、何も見えない。
ただ、<何か>の存在を証すように少女の楽しそうな声が響いていた。

ここ数日……同じように死んだ人間を何度も見た。
若い軍人に限らず、うら若き乙女や老人に至るまで。
全ての死に立ち会ったわけではないが、周りの人間から話を聞くと必ず同じ言葉が返ってくる。


―あれを見たから 死んだんだ―

「……何を……見たっていうんだ……。」