月下のクリムゾン  るりぃ ◆wh4261y8c6 /作



第弐妖『鬼』9



「…これで最後か?」

地蔵を起こして、屡狐が紅を見ると、彼女も同じく地蔵を起こしながら「ええ。」と短く返事を返した。
その答えに、待ってましたと言わんばかりの安堵の表情を見せて、屡狐は地面にへたり込む。

「やぁーっと終わり申したか。力仕事は妾には向いておらぬのじゃ。」

「ぐずぐずいっても仕方ありませんよ。また鬼が現れないようにしなければならないのですから。」

「それはわかっておるが……嗚呼、もうすっかり夜明けじゃ。」

屡狐の言葉通り、山の空はすっかり白み始めて、もう松明も要らないほどに明るくなっていた。
紅も、空を見上げてため息をつく。
あれから紅達は、山中を歩いて鬼供養のための地蔵を修繕して回ったのだ。
応急処置なのでそう長くはもたないだろうが、王に伝えて直してもらうまでくらいならもつだろう。

「終~わった! 終~わった! さて、小屋に戻って休むとするかの!」

ぱたぱたと走る屡狐を見ながら一人笑って、少し振り向く。
相変わらず佇む闇にかぶりを振って、紅は空を見上げた。
闇が明けて、朝が来る。
光はこんなにも簡単に満ち溢れているように見えるのに。
心の中にまで、それは差し込まない。

「…<救うことも、止めることも出来ない。己が飼う闇だから。>…ね。」

明るくなっていく空に、紅はため息をひとつついて、走っていった屡狐の背中を追っていったのであった。



第弐妖『鬼』完