月下のクリムゾン るりぃ ◆wh4261y8c6 /作

第肆妖『天使』2
「……何のつもりだ。」
彼の憤怒の表情と、月明かりをあびてぎらぎらと光を放つ彼の剣を見て、紅は静かにそういった。
禍魂との戦闘のせいで荒れた地面に、彼はしっかりと立って紅と屡狐をを見つめている。
幻覚じゃなかろうか。
それとも、禍魂の罠じゃないだろうか。
そうであってほしいと願っても、現実は変わらず。
揺るがないものとして紅の目の前に突きつけられていた。
「何のつもりかって?……自分の胸に聞いて見ろッ!!」
彼は叫ぶと、剣を水平に構え、そのまま紅に向かって突進してきた。
紅は屡狐を抱きかかえたまま上に跳躍してそれをよけると、屡狐を木の上に乗せて彼の背後に立った。
紅はそのまま彼の背後に走りより、首にぴたりと妖刀を当てると、普段の紅からは想像も出来ないほど低くドスのきいた声で彼に問うた。
「もう一度聞く。これはなんのつもりだ?」
彼は紅の低い声の中に混じった怒気と殺気にびくりと肩を跳ねさせると、僅かに震えた声でつぶやいた。
「光を……殺したのはお前だろ?」
そのセリフに、紅の動きがぴたりと止まる。
彼は紅のそんな様子など気にもせずにしゃべり続ける。
「さっきのお爺さんだって、お前が殺したんだろ!? だからッ……!!」
「ちょっとまってもらえるかしら?」
このまま放置していたら永遠にしゃべり続けるのではないかと言うような彼の長ったらしいセリフを紅が遮ると、彼は威勢を取り戻したのか不服そうな声でなんだよ、と言った。
紅はそんな彼に向かって盛大にため息をつくと、ゆっくり、はっきりとした口調で彼を諭す。
「何を勘違いしているか知りませんが、先ほどのあれは手の目という妖怪ですよ。」
紅の言葉を聴いた彼は目を大きく見開き、息を呑んだ。
そして納得したのか剣にこめていた力を抜くと、うつむいた。
紅と木の上の屡狐はその様子をみて重いため息をついたのであった。

小説大会受賞作品
スポンサード リンク