月下のクリムゾン るりぃ ◆wh4261y8c6 /作

第陸妖『座敷童子』6
「いやー、食った食った!」
劉嬰に買ってきて貰った団子をぺろりと平らげて、朱雀王は満足げにぽんと腹を叩いた。
昼間爆睡していたルカは、今も相変わらず夢の中だ。
朱雀王が態勢を変えたり、くすぐったり撫でたりしても、一向に起きる気配がない。
たまに起きても寝ぼけて誰かを呼ぶように鳴いて、また倒れる。
いくら寝子とは言えこんなに眠れるなんて…尊敬に値するかもしれん。
そんな事を考えながら、朱雀王は部屋を出て厠に向かった。
日もすっかり落ちて、小さく明かりが灯る屋敷内はいつもより静かな気がした。
廊下を歩く度にギッギッと鳴く音すら、少し不気味に感じる。
いつもせわしなく動いている女中の姿も全く見かけない。
最近では暖かくなってきた夜風がふっと通り抜けて、朱雀王は何となくその行方を追い振り返った。
「……なんだ、やけに静かだな……。」
口に出してみると、静寂がより現実味を帯びて返ってくる。
とにかく厠に向かおうと決めて、振り返っていた態勢を元に戻すといつの間にか足下に赤い手鞠が落ちていた。
一体誰のものだ……と考えながらそれを拾いあげた瞬間、行く手から視線を感じる。
薄明かりが照らす、廊下の突き当たり。
左に折れている廊下の向こうから、壁越しに少女がこちらを見つめていた。
朱雀王は、少女に見覚えがあった。
数日前屋敷内で見かけて、誰かの連れかと思って深く考えなかったのだが。
この手鞠もきっと彼女のものだろう。
「お前の鞠か。怪我をしないように遊べよ。」
「……。」
少女は、綺麗に切りそろえた後ろ髪の長いおかっぱ頭で、肌は抜けるように白かった。
手鞠と同じような赤い着物を着て、扇子を持ち……一見人形と紛うほどに美しい。
朱雀王としては優しく話しかけたつもりだが、少女は壁から顔を半分だけ出し、上目遣いに睨むようにしてこちらを見つめるばかりだった。
「……どうした? 何か、困ったことでもあったか。」
「……返して……。」
「ん……?」
「……返してよ……。」
囁くような小さな声は、何故か耳元で囁かれているのと同じくらいはっきりと中に入ってきた。
その感覚に異様さは感じつつも、朱雀王は鞠のことだと察してふと手元に視線を落とす。
しかし、片手で支えていた赤い鞠はそこに存在せずに。
掌には、少女の生首がすっぽり納まっていた。
「私の首返してよおおッ!」
「……ッ!?」
掌の生首が叫んで、朱雀王は思わず手を離した。
しかし床に着地し、転がったのはどこからどう見ても赤い手鞠で。
目を白黒させる朱雀王を馬鹿にするように、上空から少女の笑い声が聞こえてくる。
しばらくじっとしていると、笑い声は融けるように消えて、静寂だけが残った。

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