月下のクリムゾン るりぃ ◆wh4261y8c6 /作

第参妖『手ノ目』5
「こんなに、蔓延した、邪気に、気付かなかった、なんて、どうか、してる……」
彼は、夜道を全速力で疾走しながら呟いた。
息を切らしながらも、その足は止まる事は無い。
彼は、闘う力より守る力のほうが大切だと考え、地上に降りてきた天子だ。
降りてきた当初、既に此方に居た仲間に『そんな繊細な事、お前には似合わない』と言われたが……
一人だけ彼のその信念を聞いて、素敵だねと笑った人がいた。
多分その時から、自分はお春が好きなんだと思う。
今では、彼女の笑顔ために、彼女の団子屋に通っている。
「って、何考えてんだ僕ッ!」
とにかく、彼女が殺された事を知り、彼女から聞いた話を元に彼女を殺したモノをつきとめてやろうとしたのだ。
自分よりも強いモノだったらどうしようかと考えたが、そんなことはどうでも良いと彼は考えた。
……それにしても、変な夜だな。
別に変わったところはないのに、胸騒ぎがする……
彼は草むらに到着すると、ぜぇぜぇと喘ぎながら蒼色の長剣を構えなおした。

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