月下のクリムゾン るりぃ ◆wh4261y8c6 /作

第漆妖『羅門深紅隊』1
「…初夏だというのに…。」
屋敷の縁側で柱にもたれ、気怠げに庭を見ると、羅門深紅隊隊長・紅は呟いた。
初夏の候とは思えない、うだる熱気に顔をしかめて、そのままずるずると縁側に寝そべる。
青葉彩る初夏。
華やぐ春は終わりを告げ、季節ははっきりとした色や形を持ち始めて。
……とはいえ、これは暑すぎる。
まるで真夏じゃないか。
隣で同じように寝そべる妖刀紅葉を見てから、紅は降り注ぐ日差しに目を向ける。
数日前から、季節という世の理が狂っているような気がする。
だとすれば、これは予兆か。
警告か……。
「……あら、客かしら。」
馬の蹄の音が、屋敷の前で止まったのを聞いて紅は身体を起こした。
馬で来たという事は、忍ではない。
つまり、家の主人として出迎える義務があるという事で。
面倒だとは思いつつも、紅は立ち上がって紅葉を腰に差した。
戸の前にいるのは、おそらく予兆が示す一部だろう。
この気は……
いや、その片腕か。
「やはり、お前か。」
「……久しいな。紅。」
玄関を開けた先に立っていたのは、日差しを避けるための笠をかぶったがたいのいい隻腕の男だった。
ところどころに傷のある傭兵のような服装をしている。
むせかえるような緑の匂いの中、紅は悪戯っぽく笑って笠の中を覗き見た。
「元気そうで何よりだ。…宮寺、刀乃殿。」

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