逃走中~勇気と頭脳で問題都市に立ち向かえ~
作者/ ヨーテル ◆I.1B0IMetU

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今から数分前…
フランドールはアクセラレータの前に現れると、倒されそうになっていた圭一を突き飛ばして救った後、アクセラレータが全力で投げたバトルボールを、いともたやすくキャッチした。
これは、天江衣が2人と出会う前の、数分間のお話……
アクセラレータ「てめぇ…俺を止めに来たのか?」
フラン「そう。このまま貴方を暴走させておくわけにはいかないのよ!」
アクセラレータ「カッカッカ!止められるもんなら止めてみろや!このクソガキがぁ!」
アクセラレータは、バトルボールを失ったが、今の彼にはそんなこと関係ないのだ。彼の目的はただ一つ。全逃走者を倒すこと。そのための方法は問わない。バトルボールによる撃破だろうと、自らの手で気絶させようと…
アクセラレータは、すさまじいスピードでフランに駆け寄ると、全力でフランの顔面を殴ろうとした。殴ろうとはしたが…
バシッ!
フラン「……弱い」
アクセラレータ「……グッ!」
フランの右手が、アクセラレータの拳を包み込んでいた。
フラン「貴方がどれほど強いのかは知らないけど、所詮は人間。私は吸血鬼。そもそも、力の差がありすぎる。…分かってるでしょ?」
アクセラレータ「うっせぇ!俺は…俺を裏切った逃走者共を、全員まとめてぶっ飛ばさなきゃいけねえんだ!!」
フラン「…裏切った?」
アクセラレータ「ああそうだ!聞いてくれよ!」
アクセラレータは、簡潔にフランに話した。自分が7年間人と接することも出来なかったこと。この逃走中で、久しぶりにこんなに大勢の人と仲良くできたこと。しかし、嫌いな逃走者アンケートでは、自分が1位になっており、信頼していた逃走者にひどく裏切られたこと。
フラン「なるほどね…分かるよ、貴方の気持ち」
アクセラレータ「てめぇに何が分かる!」
フラン「分かるんだよ…私には。私も…貴方と同じだったから」
アクセラレータ「同じ…?」
フラン「私は生まれてから495年間は……一度も外に出てないの」
アクセラレータ「な…何?」
フラン「私の能力…ありとあらゆるものを破壊する程度の能力。今は封印されてるけど、これ使うとすごいんだよ?それこそなんでも壊せる。たとえそれが、巨大な隕石だろうと…もちろん、生物だって簡単に壊せる。でも、私は気がふれてたみたい。気が付くと能力を使って、いろんなものを壊してた。自分の屋敷も…仕えるメイドも…」
アクセラレータ「だから…495年間も…?」
フラン「そう。屋敷の地下に、閉じこもってた。最近やっとましになって、外に出られるようになったけどね」
フランドールの過去。それは、常人には理解できないほど、辛く、寂しいものだっただろう。自分の持って生まれた能力のせいでこうなってしまったのだ。アクセラレータと、どこか通じるものがある。
フラン「見たところ、今の貴方は昔の私と同じ感じがするよ。だから、一つだけ言っておくよ。もし貴方が全逃走者を倒したとして、それで貴方が感じるのは……後悔と虚無感だけ。現に私がそうだった。すべてを破壊しつくした後私は、何やってんだろう、私…って思いながら自分の部屋に戻るんだ。きっと貴方も…そうなる」
アクセラレータ「クッ……!それでも……それでも俺は、俺を裏切った逃走者を許せねえ!全員ぶっ倒さねえと気が済まねえ!」
アクセラレータは、先ほどよりも力を込めて、今度はフランの腹めがけて拳を突き出した。
フラン「……!!!」
ガスッ!
アクセラレータの拳は、見事フランの腹に命中。フランは5mほど吹っ飛ばされ、動かなくなった。
アクセラレータ「ハッ!どんなもんだ!吸血鬼がなんだ!俺にかかっちゃこんなもんだぁ!ハーッハッハッハッハ!!!」
アクセラレータは、その場で高笑いをした。ハンターが来るかもしれないのに、ここまで声を上げるとは自殺行為であるが、今の彼にはそんなこと知ったこっちゃない。
しかし数十秒後…
アクセラレータ「ハッハッハ……ふぅ」
アクセラレータは、急に高笑いをやめた。そして、倒れたフランドールのことをじっと見つめた。
アクセラレータ「…………次に行くか」
そして、クルッと方向転換して、歩き出した。
と、その時…!
フラン「これが…後悔と虚無感だよ」
アクセラレータ「!?」
倒したはずのフランが、アクセラレータの背後に立っていた。
アクセラレータ「お前……」
フラン「今貴方は、私を倒した後ひと時の快感を得た。でも、それが終わると急に静かになった。たぶん貴方はその時、私を倒したことに対して後悔したはず」
アクセラレータ「もしかしててめぇ、そんなことを俺に言うために、わざと一撃くらったのか!?ハッ!だが残念なことに、俺は後悔なんてしてねえぜぇ!」
フラン「じゃあなんで!……なんで貴方は、震えているの?」
アクセラレータ「……え?」
アクセラレータは、とっさに自分の手を見た。その手は確かに……震えていた。
フラン「貴方は無意識に、こう思ってるんだよ。誰も倒したくない、傷つけたくない…って。……ねえ、もういい加減、強がるのはやめなよ。復讐という固定概念にとらわれて、自分がしたくないことをするのは……やめなよ!」
フランドールの必死の訴え。アクセラレータの一撃を喰らってまで言ったその言葉は、確かにアクセラレータに届いた。その証拠に、アクセラレータの目には、うっすらと涙が…
アクセラレータ「うっ……なら俺は……どうすりゃいいんだよ!俺は仲間に裏切られたんだ!嫌いだって言われたんだ!」
フラン「それでも貴方は…みんなと仲良くしたいんでしょ?じゃあいい方法があるよ。なにか、みんなの役に立つことをすればいいんだよ。そうすれば、みんなきっと見直すよ?」
アクセラレータ「役に立つこと……わりぃ、すぐには思いつかねえ」
フラン「アハハ、何もすぐにやろうとしなくてもいいよ。まあ、とりあえずほかの人を倒すのはやめようね。そんなことをしたって、貴方が後悔するだけ。ねえ……やめてくれる?」
アクセラレータ「ああ、やめる。悪かったな、さっきは」
フラン「いいよそんなの。じゃあ、これからもよろしく!」
アクセラレータとフランドール。過去に狂気を孕んでいた者たちは、互いに純粋な笑顔を浮かべた。

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