逃走中~勇気と頭脳で問題都市に立ち向かえ~

作者/ ヨーテル ◆I.1B0IMetU

73


安岡「フ……これを見る限り、竜崎はリュカを通報者と勘違いしたみてぇだな。まったく、俺みたいにおとなしくしていればいいものを……」

リュカが通報者ではないと聞いて、ほとんどの逃走者が絶望した。しかし、逃走者の中でただ1人精神を乱さない者がいた。それがこの男、安岡である。

安岡は、推理中に全く関与していない。刑事だというのに、それはどうなんだという声もありそうだが、今のこの状況を見ると、安岡の行動が最善だったと、思わざるを得ない。

安岡「さあ。あと25分か。逃げ切るぞ……」

安岡は、このまま逃走成功することが出来るのか……




・・・・・・

エリー「結局、安岡のような逃走者が最も得をしていますね」

主催者「運命なんかに立ち向かうから、こういうことになる。通報者が強いことなんて、最初から分かり切っていたはずなにな。この通報者のデータを、竜崎やアカギのデータと一緒に見てみな」

主催者の机には、3人分のデータが記された紙が置かれていた。



~逃走者のデータ(評価は10点満点評価)~

名前            名前            名前
竜崎悠太         赤木しげる         通報者(名前は伏せています)     
知識            知識            知識
8.23           6.20           9.75
走力            走力            走力 
7.64           9.18           9.76
推理力           推理力          推理力
8.56           9.45           9.10
情報収集能力      情報収集能力      情報収集能力
7.34           8.19           9.98 
コミュニケーション能力 コミュニケーション能力 コミュニケーション能力
7.10           7.20           9.87
状況判断能力      状況判断能力      状況判断能力
9.34           9.94           9.43

総合 5位         総合 2位         総合 1位




エリー「通報者だけ……オール9点台!?」

主催者「なんでもそつなくこなす、まさに最強のプレイヤーさ、あいつは」

エリー「あの方はそこまで強かったのですか……これでは、逃走者が勝てないわけですね」

主催者「正直、アカギがかろうじて正体を掴んだ時は驚いた。さすが神域の男だってな。しかし、通報者が先手を打って勝った」

エリー「なぜ、通報者は勝てたのでしょうか?」

主催者「アカギと通報者では、経験が違う。さっき竜崎もちょこっと言ったが、経験は天才に勝るんだ」

エリー「しかし、経験と申されましても、赤木しげるはヤクザとの麻雀で代打ちをしたり、命がけの麻雀をしたりするような人物です。経験なら、かなりあると思いますが?」

主催者「……足りないな。それじゃあ、通報者には足りない。赤木しげるが命を懸けて18年間で積んだ経験も、通報者にとっては軽くあしらえてしまうほどの物なんだよ。その証拠が、このデータだ。通報者は経験値が高いから、全てにおいて9点台をマークできる。それが、アカギと通報者の決定的な差だな」

通報者の実力は、あの神域の男でさえも軽くいなすほど高かった。ゲーム残り時間20分になれば、自動的に通報者の正体が判明する。その時、逃走者たちはすべてを知るだろう。しかし、逃走者たちに通報者を責める権利などない。だって逃走者たちは……負けたのだから。




・・・・・・




咲夜「悔しいわ……本当に悔しい!」

KAME3「まさか竜崎さんの推理が外れるなんて……考えてもみませんでしたよ」

竜崎の推理が外れた。竜崎は、リュカが通報者だと推理していたが、決定的な証拠はなかったのだ。不完全な状況証拠だけで、リュカを通報者と決めつけてしまったのが、今回の敗因だろう。

咲夜「ねえ、KAME3……」

KAME3「なんですか?」




煉「推理中にはほとんど貢献できてないけど、作者として少しはできることがあったんじゃないかな……」

病院前にいる煉。自分の行動を、悔いているようだ。

煉「こうなったら、逃走成功して通報者に俺の立派なところを見せ付けてやるしかないですね」

すでに、逃走者たちは逃走成功へと意識が向いている。通報者を除いてまだ9人の逃走者が残っていることを考えれば、逃走成功する人物が現れても不思議ではない。




……もっとも、それは通報者に負けて精神状態がズタズタになっていない状況での話だが。



   ***



圭一「ちょ!ハンターいるじゃねえか!」

一ノ瀬「なんですって!逃げるわよ!」

ハンター「…………!」

神社付近で、休息を取っていた一ノ瀬と圭一。遂に、ハンターに見つかってしまったようだ。振り切れるか!

一ノ瀬「(最悪、圭一を囮に……)あっ!」

バタン!

なんと、一ノ瀬が逃走中に足をもつらせてこけてしまった!

圭一「一ノ瀬!」

圭一が呼び止めるが、こうしている間にもハンターとの距離は縮まり……



ポンッ



一ノ瀬玲奈           ゲーム残り時間
 
確保 残り9人          25:00



圭一「ちきしょおおおおおお!!!」

一ノ瀬が確保されている間に、圭一は叫びながら逃げて、ハンターを撒くことが出来たようだ。



一ノ瀬「ハハハ……まさかこの私が、あんなところで転ぶなんてね……」

一ノ瀬が逃げていたのは、確かに足場の悪い道だったが、普通に走っていれば転ぶような場所ではない。しかし、精神がやられている今なら話は別。動揺のあまり、うまく走ることが出来ないという事がある。一ノ瀬は、竜崎に情報を提供した張本人。そのことで、罪悪感を感じていた結果がこれである。




そして、今一番罪悪感を感じているのは、やはりこの2人だろう。



竜崎「まずい……吐き気がしてきた……」

文「竜崎さん……」

こちらは、リュカを倒した2人である。感じる罪悪感は、半端なものではない。さらに竜崎は、自分が推理を間違えたというショックによる精神的ダメージも負っている。

竜崎「射命丸……いざとなったら、俺を囮にして逃げろ。ハンターに捕まる覚悟はとうにできている」

文「竜崎さん!?」

竜崎「今日の俺は、何度も推理を外している。まず作者のゆうやんや翡翠煉を疑い、その次にはリュカを疑い……場を荒らして結局敗北とは、情けない。こんな俺には、逃走中を逃げ切る資格など……」

文「竜崎さん!!」

パチン!

文が、竜崎の頬を叩いた。竜崎の頬には、文の手形が赤く残っている。

文「なんで……どうしてそんなこと言うんですか!竜崎さんは、立派に戦いました!それは、皆さんもわかってくださるはずです!それに、まだ負けが決まったわけじゃないですよ!」

竜崎「何を言っている。通報者はゲーム残り時間20分になった瞬間、勝利が確定する。タイマー停止を考慮しても、あと6、7分しかない。そんな時間で、また推理して、通報者捜して、さらに撃破しろだと?無茶苦茶にもほどがある」

竜崎は、俯きながら言った。確かに、竜崎の言う通りではある。このゲーム、逃走者側に勝ち目は薄い。逃走者が通報者に勝てる方法を考えるならそれこそ、全員で一斉にバトルボールをぶつけ合うなど、無茶苦茶な作戦を取らなくてはならない。しかし、そんなことできるわけがない。

文「いいじゃないですか!無茶苦茶でも!こんなところで、あきらめる竜崎さん、私は嫌いです!!」

竜崎「別に、お前に嫌われたって構わないのだが……」

文「竜崎さん……奇跡の起こし方って知っていますか?」

文は、竜崎に静かに問いかけた。

竜崎「確率が味方することだろ」

文「いいえ、違います。奇跡の起こし方……それは、奇跡を起こしたいと願う気持ちなんです。竜崎さん、貴方は諦めています。だから、起きる奇跡も起きません。でも、諦めなければ?例え、奇跡が起こる確率が0.1%だろうと、0.01%だろうと、諦めなければ起こる奇跡はあるのです。だから最後まで……諦めないでくださいよ!」

竜崎「しかし、そこまで薄い確率に頼るのは……」

文「もしかして、非合理的だとでも言うつもりですか!?そんなの、最初から分かり切っていたことじゃないですか!主催者が通報者に勝つことを『奇跡』といった時から、分かってたじゃないですか!それでも竜崎さんは、その奇跡を信じて戦い続けました。だから……この際とことんまで戦い抜いてやりましょうよ!」

その時、竜崎は目が覚めたような顔をした。

竜崎「(そうだ……)」

もともと、逃走者側にとっては勝算の薄い戦いだった。しかし、それでも竜崎は戦った。たくさんの仲間と共に。爪をはがしてくれたKAME3。復活して、協力してくれた咲夜。狂気の力でゲームを見通す天才アカギ。そして今目の前にいる、竜崎に力を与えてくれる新聞記者……射命丸文。
 
竜崎「(俺が戦った理由……それは、通報者に負けたくないという想いからだった)」

合理的な選択をするというのなら、安岡のように隠れ続けていればいい。それが一番合理的だという事は、竜崎ならすぐに分かったはず。それでも、通報者に負けたくないという想いが、竜崎を動かした。

竜崎「(なら……最後まで非合理的な戦い方で、足掻き続けてみようか!)」

その時、竜崎にある閃き……!

竜崎「射命丸……ここって、アカギが確保された場所だったよな?」

文「ええ、そうですよ」

竜崎「なら……もしかしたら!」

竜崎が考えたこと。それは、赤木しげるという天才が、ただでやられるはずがないという事だ。故に、アカギなら……あの天才なら、何か手がかりを残してくれているかもしれないという可能性に行きついた。それは、竜崎が諦めていたら決してたどり着かなかった可能性。おそらく、竜崎1人なら、ここであきらめていただろう。しかし、射命丸文がここにはいた。文がいたから……文が元気をくれたから……だから竜崎は、まだ戦える!!



そしてそれは、アパート近くの塀の上から見つかった。



竜崎「あった!これは……」

文「何か見つかったんですね!なんですか!?」

竜崎「よく見ろ射命丸。これは……」



赤木しげるの……携帯電話!