逃走中~勇気と頭脳で問題都市に立ち向かえ~
作者/ ヨーテル ◆I.1B0IMetU

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咲夜「これは…無理かもしれないわね」
突然、咲夜がこんなことを言い出した。
竜崎「ど、どうした?十六夜」
咲夜「文の戦闘力には、私たち3人の力を合わせても、届かないと思うわ。文は、千年を生きた烏天狗よ。私たち人間とは、格が違うのよ」
竜崎「な……なに?じゃあ、射命丸を倒すのは、無理……?」
竜崎は、咲夜の言葉を聞いてまたしても絶望にとらわれた。しかし、そんな竜崎の精神を回復させるべく声をかけるのは、
文「何言ってるんですか竜崎さん!咲夜さんも!最後まで諦めない……でしょう?」
通報者である、射命丸文本人だった。
彼女がどんなつもりでこのような言葉を竜崎たちにかけているのかはわからない。しかし、元気のある彼女の言葉で、竜崎は再びやる気を取り戻す。
竜崎「まったく……お前がそれを言うか。いいだろう。無理上等だ。一瞬の勝負なら、どちらに転ぶかわからない!行くぞ!」
KAME3「はい!」
咲夜「しょうがないわね……自爆覚悟!」
まず、KAME3が文の方向に向かって走り出した。それを見た文。KAME3に背中を向けて逃げる。普通に考えて、敵に背中を向けて逃げるのは戦闘では悪手。
しかし、両者に絶対的な走力の差があるなら話は別!
KAME3「ま、まずい!めちゃくちゃ離されてる!」
しかし、そんなことは竜崎や咲夜とて承知済み。KAME3の視界から文が消えたところで……
咲夜「文、覚悟!」
近道をして回り込んでいた昨夜が文にタックルをかまそうとする。
咲夜「(私はバトルボールを持っていない。だから、出来ることはこれくらいしかないのよ!)」
文「甘いですよ、咲夜さん!」
しかし、そんな咲夜の執念のタックルを、文は軽々と躱し、右の道へと逃げる。咲夜は、タックルをかわされ、そのまま地面に倒れこむ。これで文の勝利は確定的と思われたのだが……
咲夜「(竜崎……後は任せたわよ)」
それこそが、竜崎たち3人の、作戦だったのだ!
文「な……!行き止まり!?」
文が逃げた先は、路地裏。ここに誘導することこそが、3人の作戦だった。勿論、3人は作戦会議などしていない。これは、3人の無言のコンビネーション。
竜崎「時間もないし、ここでサシの勝負と行こうか。射命丸文」
竜崎が、文の後ろから現れた。これで文は、後ろに行けば行き止まり、前に進めば竜崎にぶつかるという状況が出来た。
推理中終了まで 20秒
時間は、残り20秒を切った。次に竜崎が投げる一投が、推理中最後のプレイとなるだろう。
これが正真正銘、本当の最終決戦!!
竜崎「(行くぞ!)」
竜崎は、文に向かって走り出した。文は、高速頭脳をフル回転させ、対処法を考える。
文「(竜崎さんが全力でこちらに走ってきている。至近距離でバトルボールをぶつける戦略と見てまず間違いない。でも竜崎さん……それじゃあ甘いですよ!)」
文は、すぐに対処法を思いついた。竜崎が至近距離でバトルボールを投げる時、必ずバトルボールを振りかぶる僅かな時間が生まれる。バトルボールを振りかぶる時は、必ず胸元ががら空きになるのだ。そこを狙って、バトルボールを投げつければ、文の撃破の一瞬前に、竜崎が撃破されたことになり、文の勝利!
……しかし、竜崎の走る速度が落ちる様子はない。そして遂に、文の3~4m手前というところまで、竜崎が来てしまった。
文「(……まさか!)」
文は、たった0.3秒で、新たな仮説を思いついた。それは、竜崎が自分にタックルをしてくるという事。まず自分をタックルで地面に倒してしまい、その後バトルボールをぶつける。確かに、この方が確実だ。
文「(でも……それも甘い!)」
しかし、文はタックルをされても倒れない自信があった。いくら名門高校に通う天才竜崎と言えど、結局は17の少年。文に身体能力で勝てるわけがない。竜崎が跳ね返された瞬間に、文がバトルボールをぶつけてしまえば、これでも文の勝利である。
そして、竜崎と文の距離が0になった。
文「…………あれ?」
文の口から、思わず言葉が漏れた。それもそのはず、竜崎は、文にタックルをしてこなかったのだ。だが、2人の距離は0になったままだ。よく見ると、竜崎が文を力強く抱きしめていた。
文「え……?えええ!なんで!どうして!」
竜崎「射命丸……」
文「ななな、なんで抱きついてるんですか、竜崎さん!」
竜崎「ありがとう……」
文「え?」
竜崎「俺がリュカを倒したとき、喝を入れてくれて……ありがとう。あきらめない心を教えてくれて……ありがとう」
文「あ、いや、どうも……」
竜崎「そして……さようなら。楽しかったよ、文」
文「あっ!」
竜崎の、優しい一撃が文を捕らえた。
ポンッ
射命丸文(通報者) ゲーム残り時間
撃破 残り8人 20:05
こうして、推理中は本当の終焉を迎えた。
・・・・・・
主催者「そ、そんなバカな!なんで逃走者が勝ってんだ!おいお前ら!通報者が勝つのは運命じゃなかったのか!?」
主催者が、通報者の勝利を運命を予言した2人に問いかけた。
??「時に、人は予想を超えてきます。信じる力が、運命を変える、奇跡を起こす。今回も、きっとそういう事なのです」
??「いくつもの欠片(世界)をみたわ。その中で、逃走者が勝った欠片はこれが初めてね。奇跡の魔女として、こんな世界もあるのだという事を、あなたに教えてあげるわ」
主催者「奇跡……ね。まったく、ちゃんちゃらオカシイ話だ。だが、次はこうはいかない。次の逃走中では必ず……逃走者たちに恐怖を見せてやる。そして、どんな奇跡も通用しない絶対的な力というものを見せやる。だから、次も頼むぞ……」
古手羽入、そしてベルンカステル――――――

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