小説カイコ       ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作



第一章 幽霊からのテガミ編(5)



「おぅ、遅かったな。随分と待たせてくれたではないか。」
今朝の怪力中学生が俺の部屋のベッドの上でせんべい片手にあぐらでくつろいでいる。

「……え?」
「警察を呼ぶぞ! とかベタなこと言い出すなよ。要領の悪いお前のことだ、面倒になるぞ。」
「はあ………。」

きっと、俺は熱でやられているのだろう。

「要件は何?ここ、俺の家だしさ。出て行ってくれよ。ただでさえ今日はだるいんだ。」
「―――― お前の家ではない。お前の両親が稼いだ金で住ませてもらっているんだろう。第一、来客に対して人当たりが悪すぎるぞ、高橋。」

ん?今高橋って呼んだ?
「――― 名字は表札で分かった。お前、高橋任史って名前なんだな。タカハシタカシって名字と名前が似たり寄ったりじゃないか(笑)」
「(笑)って、人の名前で笑うなよ…そうだ、お前、名前は何ていうの?」

すると、奴はニヤリと笑った。
「契約するんだな?」
「は?」
「私の名前は、杏だ。」

∑(゜Д゜) 杏!?

「時木杏、だ。契約終了だな。」
「ちょ、待て!契約終了ってなんだよ!!」
「おめでとう。これで高橋も今日からカイコマスターだな。まーせいぜい頑張れ。」

そう言うと、やつは紙切れを渡してきた。
「我々のサイトだ。毎日確認するように。パソコンは持っているな?普通に検索すれば出てくる。パスワードはkaiko-japanだ。」

………母親が階段を上がってくる音がする。
「高橋もそのうち分かるよ。そのうち、この仕事が自分の中で一番大切なものになるから。」

言うが早い、奴はパッと窓に近寄ると窓から飛び降りた。
「おい、ここ、2階だぞ!!」

「任史ー。なに一人で騒いでんの?」
母親が俺の部屋のドアの横に立っていた。

「え、あ、母さん……いつからここに居た?」
「たった今だけど。」
「じゃあ、今さ、窓から、」
言いながら窓の方に振り返ると、窓は閉まっていて、カーテンもきちんと引いてあった。時木杏がここに居た気配もない。

「え……」
「窓が、どうかしたの?」キョトンとする母親。無理もないだろう。
「……いや、ごめん。何でもない」
「あ、そう。ごはんできたから。早く降りてきてね」

それから、パタンとドアを閉めて母さんはまた階段を降りていった。

カーテンを開けて、窓の外を眺めてみた。もう時刻は8時をまわっていた。外は真っ暗で、電灯の光が遠くに一つだけ見えるだけだった。