小説カイコ       ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作



第二章 後編(2)



その後、鈴木がマイルを却下された件で終始、不機嫌なまま部活が終わってしまった。飯塚が「あ、鈴木、それサゲポヨってやつ?www」と、面白がって鈴木をからかい、余計に不機嫌にさせてしまったのもあるが。

時刻は午後4時。こんなに早く部活が終わるとはありがたいね。
ラグビー部と野球部はまだ部活をやっていたが、サッカー部は暑さでやられて解散していた。……サッカー部なのに、お前らそんなんでいいのか!?


そんなこんなで、相変わらずふくれっ面の鈴木と一緒に駅を目指して歩いていると、重大な忘れ物に気が付いた。

「やべぇ、俺今日、学級日誌を書く番だったんだけど……出してくるの忘れちゃったみたい………」
すると鈴木はさも愉快そうにフッと鼻で笑った。「うわー高橋ダサッ!学校に戻って出して来いよwww俺もう先に帰っちゃうけど。きっとマイルを反対した天罰だなwww」

天罰じゃないと思うけど……うーん、スーパー面倒くさいな。
今来た道を戻っていると、途中、自転車に乗った小久保とすれ違い、アイスを買い食いしていた張先輩と飯塚とすれ違い、金子先輩とラブラブしている佐藤先輩とすれ違い………だんだん、自分が惨めになってきた(笑)

やっと学校に着いた。学級日誌は教卓の上に出すことになっているので、これからまた4階の教室まで行かなきゃいけない。ウルトラめんどい。

やっとの思いでD組の教室の前の廊下に辿り着くと、教室の中から何の楽器か分からないが、金管楽器っぽい音がしている。きっと、オーケストラ部の誰かが練習しているのだろう。

「失礼しまーす」
できるだけ静かにドアを開けたつもりだったが、けっこう大きい音が出てしまった。

楽器を吹いていた人は一旦演奏を止めてしまった。……誠に申し訳ない。

「ん、高橋君?忘れ物?」
楽器を吹いていたその人は杏ちゃんだった。ラッパをぐるぐる巻きにしたような楽器を持っていた……確か、ホルンって言うんだっけ?

「あ、ごめんね。練習中だったよね。用が済んだらすぐ消えるから」急いでエナメルから学級日誌を取り出して、教卓の上に置いた。

「学級日誌? ああ、出すの忘れちゃったんだ。」杏ちゃんが歩いてきて、教卓を挟んで俺の向かい側に立った。「見ていい?高橋君の今日の日記(笑)」

「え、あ、別にいいけど……たいして面白いこと書いてないよ。」
杏ちゃんはペラペラと学級日誌のページをめくった。今日、俺の書いた分を見つけるとそこでページを止めた。

しばらく文面を眺めて、杏ちゃんは突然クスクスと笑い出した。「高橋君、」杏ちゃんが俺を見上げた。「ここ、今日の2時間目の数学、算学って書いてるよwww これって算数と数学混ざっちゃった感じ?」

「え?」本当だ。算学って書いてある。これじゃ阿呆丸出しじゃないかよ……。「うわあ、マジだ。ありがとう、今書き直すよ。」

筆箱をバッグから取り出そうとしたら、杏ちゃんは教卓から学級日誌をパッと奪ってしまった。「直したら駄目だよ~? 算学はちゃんと先生に見せて添削してもらわなきゃね。きっと津田先生のことだよ、生真面目に赤ペンで訂正してくるから(笑)」

「ちょ、ちょっと……返してよー。」腕を伸ばして、返してもらおうとしたが、それより速く杏ちゃんは教室の端まで駆け出していた。

「返してほしい?」可笑しそうに笑いながら、杏ちゃんが聞いてきた。夕焼けに照らされた教室が、だんだんと、オレンジ色に染まっていく。


「返してほしいけど……どーせ返してくれないんでしょ?(笑)」そう言うと、杏ちゃんはまた笑った。つられて、なんだか分からないけど俺も笑ってしまった。



ガラガラガラガラ

突然、教室のドアがまた開いた。入ってきたのはほっしーだった。

「あ、、、ごめん!お取込み中でしたかwww」ほっしーはそう言うとピシャッと素早く教室のドアを閉めた。



No━━━(゚ロ゚;)━━!
やばいほっしーに見られてしまった……もうアイツのことだから部活のみんなに一斉送信してるよ………トホホホ。。。

杏ちゃんの方を振り向くと、杏ちゃんも唖然としていた。ほっしーめ……気まずい感じになっちゃったじゃないか……

「なんかさ……アイツ勘違いしてない? お取込み中って……」
「アハハハハ、まぁ別にいいんじゃない?」杏ちゃんは頭を掻きながら恥ずかしそうに笑った。「もう夏休みだしさ、しばらく会えないんだし!」




それから、ちょっと喋った後に杏ちゃんは練習に、俺は帰路へと戻った。