小説カイコ       ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作



第一章 幽霊からのテガミ編(11)



翌朝。


超眠い。そして一駅寝過ごした。



「わあああああああああああああああああ」


友人との約束を破りそうな高橋です。一駅寝過ごしたので、今走って学校に向かってる感じだ。


学校の前の魔の坂を必死で走っていると、なんと前方で鈴木が歩いていた。

「あ、鈴木おはよー。はああ、よかった~、待たせたかと思ったよ。」もう心臓バクハツしそう。

「え?走ってきたの?高橋ってホント律儀男だな。モテるぞ。」
「……残念ながら生まれてこのかた彼女ができたことないよ。。。いやーホント疲れた。これから朝練はちょっとキツイな」

鈴木は お疲れちゃーん と、背中をバシンと叩いてきた。部室に着くと、中には誰も居なくて、俺たち二人で大声で話せるような感じだった。

「……で、鈴木。なんか話があるんだろ。」
「ああ、そうだった。」

鈴木はふう、と一息ついた。
「高橋さ、昨日黄色いパーカーとか何とか言ってたっしょ?その、時木杏って子とはどういう関係なのさ?」


なかなか説明しづらい関係だけど、頑張ってマンホールに落とされたところから昨日傘を貸したところまで説明した。確かに、一体どういう関係なんだろうね。人の家に勝手に入ってきたりしてさ。

鈴木は、全部聞き終わると、バッグの中から薄い青色のファイルを出した。中には写真が一枚。中学校の校門と思われるところで、“入学式”と大きく書かれた看板の横にセーラー服を来た女の子が写っている写真だった。

「これ、俺の姉ちゃん。俺と違って、F大付属の中学校に入ったんだよね。」

……こりゃ、どう見ても時木だな。

「それで、昨日お前が言ってた黄色いパーカーは塾行くときによく着てた。やっぱり同一人物っぽいか?」

「うん……ちょっと信じられないけど……やっぱり、その俺の知ってる時木杏とお前の姉の時木杏さんは同じ人だと思う。」

「そっか……」

微妙な沈黙が流れた。時刻は6時55分。あと20分もすればラグビー部の連中が集まり始めるだろう。鈴木はずっとうつむいて、手元の写真を眺めていた。

「ねえ、鈴木……会いたい?……お姉さんに。」

鈴木は写真から目を離して、ロッカーの向こうの窓の方に歩いていった。
陽射しが高くなっていて、窓の外は眩しかった。窓の縁に腰かけた鈴木の表情は、妙な笑みを作っていた。

「……会ってさ、会いに行ってさ、会ってくれると思うか。」
「え?」

ハハハ…、と鈴木は少し笑った。

「結論として、俺の姉ちゃんは幽霊になってるんだろ?だったらさ、なんで姉ちゃんは死んでから今まで一度も俺に会いに来なかったんだよ。おかしいだろ。会いたくないから会わなかったんじゃないか?」

「そんなことないと思うけど……だって弟なんだろ。」
「……。」



……外が騒がしくなってきた。


「ねえ、鈴木!会ってみなきゃ分からないよ。今日部活終わったら一緒に俺んちの近くのマンホールまで行こうよ。」

「……」
「嫌か?」
「…分かった。行ってみるよ。すまんな、いろいろと世話になって。」
「いいよこのくらいなんでもないから。あ、そうだ鈴木って家どこなの?逆方向だったら帰りかなり不便だよね。」

「家は茨城。葉山駅近くので下宿してるからヘーキ。」
「あ、下宿だったんだ。っていうか、俺んちから葉山に行くのじゃ、乙井駅で乗り換えて遠回りしなきゃ帰れんよ?」

「まじかー。7時に部活終わるとして、それじゃー帰るの11時過ぎじゃねえかよ。やっぱ、やめと、
「じゃあ、俺んち泊まってけよ。うち、泊りぜんぜんオーケーだから。むっちゃうるせー弟と妹がいるけどいいよね?」……止めさせるワケにはいかん。



鈴木は窓の縁から飛び降りて、今度はニャハハハと大笑いした。
「お前さ、ほんと、イイ奴だな! なんで彼女できたこと無いんだよwww要領悪いんじゃないのか?」

「…む。人の過去を笑うな!じゃあ、泊まってくのね!?」
「ああ、ほんとすまんな。世話になるぜ。」



外で、ラグビー部の掛け声つきジョグが始まったようだ。部室のドアの開く音が聞こえて、佐藤先輩が入ってきた。

「あ、先輩。おはよーございます。」

「えぇっ!今日二人とも早いな~。誰も俺より早く朝練に来たこと無いことが俺の唯一の自慢だったのに……っていうか、国由君、レントゲンどうだった?部活やって大丈夫そうなの??」



……あんまりに普通すぎる先輩の優しさに、思わず俺と鈴木は笑ってしまった。