小説カイコ       ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作



第一章 左廻り走路編(1)



「高橋、お前どーせ、ビビって声掛けれなかったんだろ?」


……ムカッ(怒)
しかし鈴木は言っていることは事実である。
俺は怖くて声を掛けれなかったのだ。



ことの始まりは総体が終わった5月下旬。
先輩方がごっそり引退したときに、当然ながら3年生のマネージャーさんも引退したのだ。
うちの部活は1年生にも2年生にマネージャーが居ない。よって3年生のマネージャーさん無き今、マネージャー職は一年生がすることになった。

……これがけっこうキツイのだ。
短距離はまだいいのだが、400mブロックと中距離は200mおきや一周おきにタイムを計らなければならない。長距離に至っては計る時間が長いので練習に集中できない始末だ。

そこで、この状況を見かねて我慢できなくなった佐藤先輩(現部長)がこんなことを言ったのだ。

「うーん、マネージャーさんが居ないと練習にならないね……でももう6月も近いし、他の1年生もほとんどみんな部活に入っちゃったよねえ……よし!みんなで文化部でヒマそうな人に陸部のマネージャーにならないか勧誘しよう!国由君とかこーゆーの得意でしょ(笑)」

そーゆー訳でマネージャー勧誘が始まった。
しかしクラスに10人もいない女子の中でヒマそうな文化部の人なんか、そう多く居ない。第一、女子に声を掛ける勇気が俺には無い。

そして今日もマネージャーをゲットできないまま、放課後の部室で鈴木にヘタレ呼ばわりされてしまったのだ。

「……そんなこと言ったって、鈴木も収穫無しじゃないかよ!」
「F組の女子はほとんどオーケストラ部で、あとは水泳と他の部活のマネージャーなんだよ……お前んとこは?」

「うっ…全然わからないです……」こんな自分が最上級に情けない。

「(`Д´)! 高橋のヘタレ!超ヘタレ野郎!」鈴木が俺にキックを食らわしながら言った。

「まあまあ、」佐藤先輩が止めに入った「うちの陸上部がマネージャーに恵まれないのは昔からのことだし。しょうがないね。」

「なんで陸部にみんな入んないんだ!」鈴木が苛立たしげに言った。「野球もラグビーもバスケも腐るほどマネージャーが居るのに!サッカーなんて希望者が多すぎて面接やったって話らしいじゃんか!なんであんなムサくて汗臭い部活が人気なんだよ!」

「うーん、よくわからないけど……陸部って地味なんじゃない?ほら……個人戦だし、チーム戦より青春っぽくないというかなんというか……」「選手が男子だけじゃないってのもあるのかも。」きっと、同性同士だとやりにくいこともあるんだろうな。

「ああー、もう!とりあえず明日にはマネージャー絶対確保だ、絶対だ!俺はE組まで手ぇ伸ばしてみるから高橋はクラスの女子全員に声を掛けること!」
そう言い放つと、鈴木は小久保と飯塚と長距離にも言ってくる!と言って部室を飛び出していってしまった。



………うーん、困ったな。