小説カイコ       ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作



第一章 幽霊からのテガミ編(9)



電車の中で揺られながらさっきのことをずっと考えていた。

医務室での鈴木の話が全て嘘ではなかったとしたら、時木は鈴木の姉ということになる。時木なんて名字は滅多にあるもんじゃないし、蚕乗っけてたという時点でアイツに確定だ。
 そこまで何回も考えが行きつくのだがその先を考えることができない。

―――――― だって、そしたら時木は幽霊という事になるじゃないか。


鈴木と時木は3歳差。そして現在鈴木は16歳で時木は見た目中学生である。姉であるはずの時木が年下なんておかしいだろう。………でも時木が幽霊だとしたら、つじつまが合う。

鈴木が小学生の時に時木が死んでしまったとすれば、時木は亡くなった時に中学生だったはずだ。
……昨日の晩、時木が二階から飛び降りたことや、時木が部屋に居た痕跡が全くないのも時木が幽霊だと仮定すればすべて説明がつく。


「……幽霊からのメール、か」
駅に着くと雨が降っていた。ザアザアとすごい勢いで雨が降っている。あーあ、傘もないしチャリで来ちゃったから止むまで待つしかないな。

しかし小一時間待っても止む様子はなく、むしろ雨の勢いは強まってきた。このままだと家に着くのが10時過ぎになってしまう。意を決して雨の中に突撃することにした。がんばるぞー(`・ω・´b)

節電で街灯が点いていない帰り道は、この大雨のお陰で、さらに暗くなっていてよく見えなかった。目薬のように雨が目に入ってきて超痛い。


「ん?」
50メートルくらい先に、誰かが傘も差さずに佇んでいる。あの黄色いパーカーは……時木?

「あ、やっぱり時木だ。」
声をかけても時木は何も答えてくれない。茫然とした眼つきで俺を見返すだけだ。

「時木…傘は? だいいち、中学生がうろつく時間じゃないよ」

すると時木は不機嫌そうにため息をついた。「お前も傘持ってないじゃないか。」


……どう見ても、幽霊には見えないよな。

「高橋、謝れ。」唐突に、奴が口を開いた。
 「なんでだよ?俺なんもしてないよ」
「…待ってたんだよ」
「俺を?」何の為に?まさか、さっきの鈴木のことじゃないよな。

返答に詰まる俺を無視して、時木は楽しげに喋り始めた。
「そうだ。ねえ、高橋。もし透明人間になれたら何がしたい?」

なんか妙な質問だなー。う~ん。。。透明人間ねぇ。

「そうだなぁ、電車とかタダで乗れるから節約になるよね。」

この答えに時木は大声で笑った。「確かに、そうだけどよ!もう少しマトモな答えを期待してたぞ」

「はあ。。。ごめん」
「でもね、高橋。透明人間は目が見えないって知ってた?」


……どゆこと?

「ヒトが色や物を認識できるのはね、太陽とか電球とか、何かしらの光源からの光が物体に反射して、その反射した光を受け止める眼球があるからだって知ってるよね?もし、透明人間が目が見えていたら光源から反射した光がソイツの目で受け止められることになるだろ」


…で?

「だからね、もし透明人間が居て、透明の眼球を持っていたとしよう。光は空気中を進むことができるだろ?なぜなら空気が透明で光が透過できるからだ。じゃあ、透明の眼球なんかあっても光を受け止めることはできないよね。だから透明人間は目が見えないんだ。」

「ああ、なるほどね。時木って頭いいんだね。」 お世辞じゃなくて、マジで頭いいと思った。
「…む。お前に褒められると気持ち悪いな。」


いつの間にか、俺の家の前に来ていた。
「ほら、もうお前の家に着いた。ちゃんとカイコのサイトチェックしろよ」

「時木、家どこなの?もう10時近いしさ、送ってくよ。傘も貸してやるから。」

時木が首を横に振る。
「いい。一人で帰れるし。」

「じゃあ、傘だけでもさ、」玄関の横の傘立てに緑のビニール傘があった。これでいいか。「持ってきなよ。返すのいつでもいいから。」

「いいよ。雨好きだし。お節介だ。」
「じゃあ、お前が家に着くまで俺ついてくよ。」

時木はあからさまに嫌な顔をした。
「…傘。」
「もらってくれんの?」
「…早く渡せよ!」

なかば奪うような形で時木は俺の手から傘をもぎ取って、一気に走り出した。一度、俺のほうに振り返って、バーカ!と叫んで、また走り出してしまった。







一人になってから、また疑問が頭によぎった。
だって、信じられない。


………きっと、何かの間違いだ。