小説カイコ ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作

第一章 左廻り走路編(2)
翌日。
4限目が終わって弁当を広げようとしたところで、突然、級長の今井が教壇に立って、教卓をバンッと叩いて大声を張り上げた。
「みなさん、突然ですが聞いてください!今日の昼休み、12時45分から合唱コンクール実行委員会の会議があるらしいんです。僕もさっき初めて知りました、、、」
……合唱?なんじゃそりゃ。
「合唱コンクール委員会なんて聞いたこと無いよー」
「っつーかそれ誰やんの?決めてなくねー」
「あと15分しか無いじゃんwww」
みんなそれぞれに口走った。確かにあと15分でどうしろというんだろうね。
「みなさん聞いて!」今井が焦って叫んだ。「各クラス3人ずつなんですっ!誰か、誰かやって下さい!!お願いだから!!」
そのとき、俺の斜め前の席から色白な腕が一本挙がった。
杏ちゃん(決して時木じゃないよ)の腕だった。
「私、それやりたいな。中学の時もやってたし。」……確かに杏ちゃんならオケ部だし適任だろうね。
「かっ……柏木さん、ありがとう!」今井が名簿にマル印を付けながら言った。「あと、あと2人お願いします!」
それがなかなかあとの2人が決まらない。しかし時計の針は無慈悲に進んで、あと10分で会議が開始になってしまうところだ。
さっきからずっと、今井がクラス名簿を食い入るように見つめている。そして何かを決心したように勢いよく顔をあげると、間違いなく俺の方をキッと睨んできた。
………やべー、ガッチリ目合っちゃったよ。
今井はそのままつかつかと俺の机の前まで来ると、俺と、俺の後ろの席の田中君を交互に見ながら口を開いた。
「球技大会執行部に体育祭実行委員、文化祭実行委員……風紀委員に書記や班長………あ、あとクーラー係もかぁ………」ぶつぶつと、念仏のように名簿を見ながら今井はそう唱えた。
「え、えと……今井、何が言いたいの?」田中君がビビリながら聞いた。なんか嫌な予感がするなあ。
「……あのね……高橋に田中。君たち二人だけなんだよ……クラスでなんの仕事もしていないの。」今井がニィ、と口角をあげた。「二人でやってくれるよね……?合唱コンクール委員会?」
「あ、そ…そうなんだ……俺たち二人だけだったんだ……」なんか微妙にショック。それと若干、今井の喋り方が怖い。
「わかった、俺、やるよ。」……杏ちゃんも居るしね(笑)
田中君もじゃあ俺も、と頷いた。
「……っ、二人共ありがとう!みなさーん、一件落着ですっ!合唱委員は柏木さんと高橋君と田中君に決定いたしました!」今井が嬉しそうにクラス全体に向かって高らかに叫んだ。
「あ、じゃあ3人はあと5分ちょいしかないから急いで音楽室に行ってね☆」今井が微妙にウインクになってないウインクを俺たちに投げながら言った。
……あと5分とかwww嘘だろwww
すぐに3人で教室を飛び出して西練にある音楽室へと走った。敷地だけは馬鹿に広いこの学校は渡り廊下が半端なく長い。ぜいぜいと息を切らしながら音楽室に着くと、もう他のクラスのメンバーは揃っていた。
「D組、遅い!集合の5分前には集まるもんだ!!」委員長と思われる2年生が叫んだ。
「…すいません!」……だって5分前にメンバーが決まったんですよ……トホホ。。。
そして、無事に全メンバー揃ったところで自己紹介が始まった。
一年生と二年生に別れてやったのだが、8クラス×3人の自己紹介をしても、どの顔が誰なのか簡単に覚えられるものじゃないよね。………今気づいたが、なぜかこの委員会は男子も女子も眼鏡が多いっぽいwww
あ、そーいえば田中君も眼鏡だ(笑)
自己紹介は自分の名前+部活+好きなものといった、ベタな項目で進んでいった。うーん、やっぱりオケ部とか軽音楽部とか音楽系の部活が多いみたいだ。このままいくと音感無しの運動部なのは俺だけかもしれないな~。
そんなこんなしていたら、ついに我らD組の番が来た。
「D組の柏木杏、オーケストラ部です。」杏ちゃんが超簡略な自己紹介をしたので俺もそれに続くことにした。
「高橋任史です。えっと、陸上部です。」「田中誉志夫、帰宅部です(笑)」
帰宅部wwwwwおいおいwwww
田中君のおどけた感じと帰宅部という単語がみんなのツボに入ったようで、一斉に笑いが起こった。本人は少し照れた感じでヘヘヘッと頭を掻いている。
「帰宅部だけど、体操教室行ってたんです。中学までは。」田中君が頭を掻いたままそう付け足した。中学までかよー、とみんながまたしても笑った。たいして面白いことを言っているわけではないのだが、本人から溢れ出ている妙なオーラがすごく笑いのツボを押す。こーゆーのを天然キャラっていうんだろうなあ。
………ん、帰宅部?
なんだっけ……すごく帰宅部に何かが引っかかる。なんか重要な用事があったような……
うーん(´-ω-`)
何だっけな。
そんなことを考えていると、いつの間にか自己紹介はH組まで終わっていて、自由曲だの課題曲だのという話になっていた。んーしかし何だっけな……帰宅部になにかあったっけな……
「じゃあ今日はここまで。何かあったら後日またお知らせします。」
結局考え事で委員会が終わってしまった。杏ちゃんが じゃあ私がクラスに委員長が言ってたこと伝えておくねー、となんとも頼もしい言葉を残して他のクラスの子とどこかに行ってしまった。
残された俺と田中君。
田中君が「お昼どうしよー。俺全然食べてないよー。」とか喋っている。
………あ。
「思い出したぞ!!」思わず田中君の肩を掴んでしまった。
「えっ……な、何を?」ビビって、小柄な田中君が更に小さくなったようだった。
どうしよう。こんなお願いを田中君にするなんて物凄くドキドキする。これじゃあまるで告白前の女子高生みたいだな……
一息ついて思い切って口を開く。
「田中君、一つ頼みがあるんだ………
………その、今流行のマネジメント!とか興味ないか…な?」
―――― サイコーに恥ずかしいです\(^o^)/

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