小説カイコ       ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作



第二章 後編(16)



なんか物凄く憂鬱になってきたので、少し、外に散歩に出かけることにした。靴を履いて玄関のドアを開けると、目の前の廊下に鈴木がつっ立っていた。
どうやら、ちょうど練習が終わって帰ってきたところらしい。

「あ、お帰り。」
何気なく言うと、存外に鈴木が不機嫌な顔をした。

「なんだよ高橋、どこ行くつもりだったんだよ。」
「え…、いや外の空気が吸いたくなってさ。そうだ、もう元気になったから。心配かけてごめんね。」
「別に。てめーの体のことなんか心配してねーよ。」

ガーン orz
ショックを受けている俺の横をすり抜けて、鈴木は靴を乱暴に脱ぐと、ベットの端にドスンと座った。
「? どうしたのさ、なんか練習中に気に入らないことでもあったの?」
「……。」
無言で鈴木が俺を睨んでくる。あの、横長に切れた目で睨まれるとけっこう怖い。

どうやら相当に腹が立つことがあったらしい。こういうときは触れずに放って置く方がいいんだろうな。
「じゃ、夕飯までには帰ってくるから……」そう言って、再度ドアノブに手を伸ばす。




「お前の、」
突然、後ろから低い声がした。振り返ると、目が合った。

「お前の、そーゆー態度が気に入らないんだよ。」


「……え?」
「どこまでも関係無い顔して、みんなに散々迷惑かけて、それでも平気な顔して。頭にきてんだよ。」
言っていることがよく分からない。「え、えっと、何のこと?やっぱ練習中なんかあったで……」


「いいかげんにしろよ!」鈴木が、勢いよく立ち上がった。「なんなんだよ、そうやって話逸らしてさ!さっきもそうだった、すっげぇ落ち込んだ顔してんのに俺見るなりパッと表情変えて、お帰り、だなんて、ほんっとムカつくんだよ!いいかげんにしろよ!どんだけみんなが心配してると思ってんだよ!どんだけ関係ない顔してれば気が済むんだよ!!」

頭が真っ白になった。こんなにキレた鈴木を見るのは初めてだった。というか、なんで俺が突然こんなにキレられなきゃいけないんだ。
「……別に。本当に関係無いんだから。……何キレちゃってんの?」気分が高ぶって、普段なら使わない口調になってしまう。

「……ッ、テメェ!」
鈴木の腕が俺のポロシャツの襟首を掴んだ。腹が立ったので睨み返してやると、余計に掴む力が強くなった。

がちゃり。
その時、玄関のドアが外側に開いて、黄色いマネージャーバックが隙間から見えた。ほっしーが帰ってきたのだ。

「わっ、二人とも何やってるの。」

ほっしーの間の抜けた声を聞くと、余計に腹が立った。力任せに鈴木の腕をほどいて、ほっしーを押しのけて、廊下へと走った。とにかく走った。走っていないと、頭がおかしくなりそうだった。

後ろから、ほっしーの名前を呼ぶ声が聞こえたが、無視した。
追いかけてくる気配がしたが、構わない。どうせ追いつけやしないんだから。

建物の外に出ると、アブラ蝉が頭が痛くなるくらいにうるさく鳴いていた。その声にすら、いらついた。