小説カイコ       ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作



第一章 ふりだし編(9)



              ◇

「高橋くーん、こっちこっち!」
杏ちゃんの高い声に呼ばれて、朝の改札を急いで通る。

午前六時。まだちょっとばかり肌寒い駅に、俺たちは集まった。
服装をミスった、と心底思った。杏ちゃんも柚木君もばっちりキメてきている。ジャージでいるのが恥ずかしい……
そんな俺の心中をお構い無く、柚木君が 陸部のジャージ格好いいね、なんて言って来たもんだから恥ずかしいことこの上ない。

しばらく電車に揺られて、上野で新幹線に乗り換えた。数年ぶりの新幹線に、高校生にもなってちょっと興奮した。
それからは特に話すこともなく、みんなでぼーっと車窓の向こうを眺めていたりした。
東京の高層ビルが林立する都会風景が過ぎ去ると、だんだんと緑が多くなってきて、山がちな地形が目に止まるようになってくる。そろそろ栃木過ぎて福島らへんかな、と杏ちゃんがポツリと呟いた。

「わー、やっぱ山ってデカいんだね。俺久しぶりだ、山見るの。」どーんと、いくつも大きな山がそびえ立っていた。
「そうだね、千葉じゃ山見えないもんねー。」杏ちゃんが頬杖を突きながら言った。「もうちょっと行けば紅葉とか見れるかな。」

紅葉……そういえばもう十月か。いつの間にか、すっかり秋になったもんだ。ついさっきまで蝉が鳴いていたような気がするぐらいなのに(笑)
何となく、携帯を開くとメールが10件も入っていた。普段メールなんてマックから来るくらいで全然来ないもんだから、けっこうびっくりした。誰からかと思ったら、全部鈴木とほっしーと、飯塚からだった。

“鈴木国由:よぉリア充、もう山形着いたか?(^ω^)”
“田中誉志夫:柏木さんと一緒なんだって!? 高橋意外とやるじゃん!がんばれ~!”
“飯塚一弥: お 土 産 よ ろ し く ☆ ”
“飯塚一弥:あ、ちなみにお土産は白い恋人がいいな。”
“飯塚一弥:スマン、あれ北海道か。 じゃあアレだ、ひよ子でいいや。ひよ子”
“飯塚一弥:やっぱひよ子は取り消し。俺まりもっこりがいい。”
“飯塚一弥:あ、張先輩はひよ子食べたいって。やっぱし俺もひよ子でいいや。”
“鈴木国由:小久保がリア充爆発しろだってさ。笑。”
“飯塚一弥:津田Tマジ鬼。今からビルドだって、萎えー(´Д`川”
“飯塚一弥:そーいえば山形って菊食べるって本当?本当だったら写メ頼む♪”




……(-゛-;) まさかのメール攻撃。

携帯の画面を見て唖然としている俺の脇腹を、隣に座っている柚木君がちょんちょん、とつついた。「……外。」

「え、外?」
言われるがままに画面から目を離して、車窓を見た。




紅。

思わず息を飲んだ。
今まで見たことないくらい、山々は鮮やかな色で染まっていた。抜けるような秋の晴天に、よく映えている。こんなに綺麗な紅葉を見たのは初めてだった。
ところどころに、紅の中に黄色というか、それよりももうちょっと濃い山吹色の木がいくつか混じっていて、本当に綺麗だった。……夏は緑色だったあの葉っぱが、秋になるとこんな鮮やかな色になるのかと思うとちょっと不思議な気分だ。知識としては知っていたけれど、本物を見るとかなり圧巻だった。

「うわぁ、綺麗。」杏ちゃんが窓に額をくっつけて言った。「私、こんな綺麗なの初めて見た。」
カシャ、と音がして柚木君が紅い山を写真に撮っていた。「うん、すごいね。カメラ持ってきてよかった。」

柚木君に続いて、俺も携帯のカメラで撮った。何となく誰かに見せたくなったので、別に菊じゃないけど飯塚に送ってやった。