小説カイコ       ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作



第二章 後編(4)



                 ■

あの日から、一週間が経った。

あんまりにも急に色んなことがあった一日だったから、一週間経っても気持ちと記憶の収集がなかなかつかなかった。



結局、拓哉はあの日の夜に息を引き取った。





けれど、拓哉がもうどこにも居ないなんていう感覚が全くない。幼馴染が死んだというのに、悲しい、と感じられない自分がいる。
もともと、中学の時から学校に来てなくて普段は見かけなかった奴だから、またひょっこり姿を現すような気がしてならないのだ。


「おい、高橋!」
昼過ぎ。部活が終わって、部室で着替えていた俺の肘を鈴木がつついてきた。

「あ、、、ごめん。なんか言った?」
「おいおい、あんだけ耳元で言ったのに聞こえてなかったのかよ。。。最近お前こーゆーの多くない?なんかボケーとしちゃってさ。」
「? そう?」

鈴木はワイシャツのボタンを閉めながら話し続けた。「お前、自分じゃ気付いてなかったの?ホント大丈夫かよ。佐藤先輩も張先輩も、飯塚や小久保まで心配してたぞ。ほっしーなんか四六時中お前のこと気にしてる。」

「え……なんでみんなそんなに心配してんの。そんなに俺やばそう?」
「うん、やばそう。……ほら、ベルトねじれてるしさ。」

自分の腰元に目を落とすと、確かにベルトがねじれていて、ベルトの裏地の茶色い部分が見えていた。なんで気が付かなかったんだろう。

「あ、サンキュ。確かに俺抜けてるかも(笑)」

自嘲の意味も込めて少し笑ったが、鈴木は真面目な顔を崩してくれなかった。
「いやさ、高橋が抜けてるとか抜けてないとかじゃなくて……なんか夏休み始まってからお前ずっと変だよ。その笑顔だって嘘くさいし。話しかけてもよそよそしいし。お前、何かあっただろ?」

「………別に。何も無いよ。」

鈴木は ふぅ、と大きなため息をついた。「何かあった奴はみんなそう言うんだよ。別に、ってさ。いや、話したくなかったら無理して話さなくていいけど。」鈴木は窓の方へ歩いていって、雲一つない青空を見上げた。「何かやばかったら俺に話してよ。お前にはけっこう恩あるし………その、姉ちゃんのこととか。」

鈴木らしくないセリフに少し戸惑ったが、鈴木本人の方はなんだか居心地が悪そうだった。その証拠に窓の外を見たまま、俺に背中を向けたままだ。

「時木……か。鈴木さ、時木の葬式の時、どういう気持ちだった?やっぱすっごく悲しかったんでしょ?」
「いや……別に悲しくはなかったな。まだガキだったのもあると思うけど。もう会えないんだ、っていうことが頭じゃ理解してるんだけども感覚として掴めなかった。まぁ、お前のおかげで6年ぶりに会えたけどさwww」
「ふーん、そうだったんだ……」

6年ぶりに会えた……そうか、時木はあのとき幽霊としてこの世にまだ居たんだった。じゃあ、拓哉もまだどこかにいるのかもしれない。だったら、探したらまたどこかで会えるのかもしれない。

「そうだ、俺、用事思い出したからもう帰るね。」
そう鈴木に言って、急いで靴を履いて外に出た。でも、居るとしたらどこに居るんだろう。拓哉が普段よく行っていた場所なんて俺には見当もつかない。

とりあえず、校門まで歩いていると、遥か後ろの方から鈴木の声がした。
「っ、高橋!」振り向くと、靴も履かずに靴下のまま、鈴木が部室から飛び出してきた。「あのさ………あのさ、明日も部活来いよ!!」


あまりにも鈴木が焦った顔をしていたので、思わず笑ってしまった。
「うん、わかった。わかったよ(笑) どうしたんだよ、そんな焦った顔しちゃってさ。じゃあまた明日ね!」

鈴木に向かって大きく手を振ると、安心したのか鈴木はああ、と生返事をして部室に戻っていった。