小説カイコ       ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作



第二章 後編(18)



「腹減った………」
煽るように、後ろの山から、ホーホーとふくろうの声がする。さらに風が勢いよく吹いていて、木々が擦れる音が轟々と森全体に響いている。


腕時計に目をやると、8時近くになっていた。周りはもう真っ暗で、街灯とかいった気の利いたものも何もないものだから、夜空に見える星々がキラキラといつもより瞬いて見える。どうやら近くに川が流れているようで、さらさらと水の流れる音や、ウシガエルの低い唸り声が風の音に紛れて何重にもなって聞こえた。

どうしよう。鈴木とほっしーには何て言おう。腹減った。っていうかここはどこ?
何が何だかよく分からないまま、いつの間にかここに居た。帰り道もわからない。まじでピンチ。

途方に暮れていると、向こうの方から誰かがやって来る音がした。草木を乱暴にかき分けて、時々、懐中電灯の光が背の高い草の間からちらちらと見える。助かった……
急いでその人物に駆け寄り、声を掛けた。暗くてよく分からないが、たぶん真っ青なTシャツを着ている。

「あの、あの! すいません。ここに合宿に来た者なのですが……」

「うん? なんだこの前の左回りじゃないか。」
「……え?」

そう言うと、目の前の人物はカチッと懐中電灯のスイッチを切ると、ゆっくりとそれを地面に置いた。不審に思って微かな月明かりを頼りに顔を窺うと、なんとこの前駅で会った変なおじさんだった。

昔風の丸眼鏡に、腰まで伸びた長い髪。それに真っ青なTシャツ。

驚いた俺の表情を読んでか、おじさんはにぃーっと口角を上に釣り上げた。唇の間から覗く八重歯が、やけに長いような気がした。
「どうやら、覚えていてくれたんだね。左回りだったから気にしていたんだ……ねぇ、化衣胡。」
すると風が更に吹いて、おじさんの長い髪がバサバサと乱れた。まるで、頭から蜘蛛の足が生えていて、四方八方、好き勝手に動き回っているようだ。

「えっと…なんのことでしょうか……」言いながら、後方に障害物が無いことを確認する。いつでも逃げられるようにだ。


すると、おじさんは残念そうな、それでいて呆れたような、笑顔で笑った。



「おや、随分と勘が鈍ったようだね。
              君の名前じゃないか、化衣胡。」


その時、風が一際強く吹いた。思わず顔を覆う。風に揺られた木々の葉が、頭の上から容赦なく降り注いでくる。

“化衣胡、またね”

そんな声が、風と森の立てる轟音の中で、はっきりと聞こえた。


しばらくして顔を上げると、すぐそこに居たはずのおじさんの姿は跡形もなく消えていた。懐中電灯も一緒に消えている。
かわりに、そこにはジャージ姿のほっしーが呆れ顔で立っていた。間違いなく、ほっしーだ。……ほっしー?


「……ほ、ほっしー?」
「それ以外に誰に見えるのさ。もう高橋、どんだけ探したと思ってるの……ってオイ!!」

いきなり腰の力が抜けて、目の前が真っ暗になった。