小説カイコ       ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作



第一章 幽霊からのテガミ編(14)



それからしばらくすると、佐藤先輩が来て、着替えて、先輩と俺ら3人で部室を後にしていった。なんか自分が話したり着替えたりするの見るのってすごく気持ち悪いね。

確か……この後30分ごろに長距離の先輩たちが来たんだったよな。だったらここにいつまでも居るのはマズいだろう。



ちょうどその時、ガタンと音を立てて鈴木が掃除用具入れから出てきた。

「おーい、高橋ぃー、どこだー。」
「あ、ちょっと待って。」 ……よいしょっと。なんかすごく肩凝ったな。

「鈴木……見えた?あれ俺らだよな……なんかすごく奇天烈な気分なんだけど。」
「あー、見えた見えた。俺って後ろの方の髪の毛あんなんになってたんだなー。なんか恰好悪いから今度切りに行くわwww」



――――― 鈴木……お前やっぱりタダ者じゃないな(´・ω・`)


「んでさ、どうするよ?高橋。っていうか、お前また蚕肩に乗っかってるぞ…!」

え? ああ、ホントだ。
「おい、カイコ。助けてくれ。どーすればいいと思う?」……俺、猫の手を借りるよりも、邪道な手段を取ったね。

すると、カイコは小さい声で(蚕にしたら大きい声なんだろうけど、)答えてくれた。

「う~ん。どうするも、こうするも……どうしたいの?」
「……えっとね、あのマンホールに戻りたいんだけど。あ、勿論鈴木もね。」

「なに言ってるの?高橋も鈴木君もまだマンホールに居るよ?」
「……え?」


どゆこと?
鈴木も首をかしげている。「カイコさんとやら、だってここどう見ても部室だぜ?」

すると、カイコの周りに、一筋、金色の光が走った。

「……あ、わかった!杏ったら意地悪なんだね!」
そう言うとカイコは納得したような声を出した後に、なんか呪文みたいなのを唱えた。



「……うわっ」
ものすごい耳鳴り。キーンってよりも、ゴーンって感じの重たい音。それからしばらくすると、目の前に細い赤い線が、一筋、入ったかと思うと、そこから見ていた視界がパックリと割れて――――― 鏡が割れたように部室の風景が崩れていった。

耳鳴りがやっと治まったかと思うと、周りの風景は、以前来た、マンホールの中の風景になっていた。

「おい、鈴木、大丈夫だったか?」……鈴木がちゃぶ台の上で耳を塞いだ格好のままになっている。
「高橋こそ大丈夫かよ……顔が真っ青だぜ。」
「まじか……」


カイコが何か言っている。
「杏、そろそろ意地悪やめなよ。見えてるんでしょ?」

カイコが喋り終わると、しーん、とマンホールの中は静かになった。なにか、重たい空気が流れている様だった。俺も鈴木もすっかり雰囲気に飲まれて、喋る気が失せてしまった。カイコは、金色の光で包まれていて、カイコ自身からは赤い細い光の筋が何本も出ていた。



その時、突然、後ろから時木の笑い声が聞こえた。



「あっははははははははは……。なんだ、カイコ、お前も妙な術使いやがって…。私の幻を見破るとはね。」


振り返ると、時木が 参った参ったー、と頭を掻きながら笑っていた。
それから時木は口元は笑ったまま、目だけ鈴木の方にギロリと向けた。



「おう、国由。久しぶりだな。」


―――――― 時木はそう短くそう言うと、目にもとまらぬ速さで、鈴木の襟に飛びかかった。

時木に襟首をとっ掴まれて、鈴木はちゃぶ台から転げ落ちた。時木は持ち前の怪力で鈴木をそのまま床に押し倒して、まじまじと鈴木の顔を眺めた。


「国由、お前随分でっかくなったな。ふーん、なかなかイイ面してんじゃん。」
「………姉、ちゃん……?」


時木はニヤリと笑うと、妙なことを言い出した。
「欲を言うと、女の憑代の方がよかったんだがなー。まぁ、この際血が近いし、国由でちょうどいいかもな。高橋、お勤めご苦労さん(笑)」

「……は?」
「悪く思うなよ、国由」

そう言うと、時木は右手の親指と人差し指で指を鳴らした。パチン、と乾いた音がしたかと思った瞬間、時木の姿はあとかたも無く消えていた。

しばらくの間、俺も鈴木もポカンとしてしまった。こんなに短い時間にいろいろな事が起こると、思考の整理ができないよ。

鈴木は今まで時木が居た空間をボケーッと眺めている。そりゃそうだよね。感動の再会には程遠い感じだったもんね。


しばらくして、カイコが口を開いた。

「――――ごめんね、高橋と鈴木君。騙されたのは僕の方だったみたい。」申し訳なさそうな声で、カイコが言った。

「何が?」
「……正直、まだ僕もよく分からないし、まだ説明するべきじゃないと思うんだ。だからさ、高橋。いったん家に帰ろうよ!話はそれから。」

その時、鈴木が口を開いた。
「あのさ、高橋……今気づいたんだけどさ、ポケットの中がスーパーボールで一杯なんだけど……何だコレ。」

あ、そういえば初めて時木と会った朝もスーパーボール攻撃に遭ったな。なんかスーパーボールに意味があるのか?

「うーん。。。ねえ鈴木、なんか意味分かんなくなってきたしさ、カイコの言う通り、いったん家に帰らないか。」
「ああ……そうだな。分かった。」


それから、マンホールから出て、家で鈴木に夕飯を無理矢理に(母さんが)食わせ、やっと落ち着いた……と思ったら、弟と妹が珍しい来客に興奮して騒ぎ出し、母さんが「静かにしなさい!!」とぶち切れたりした。



……うん、それで事件は皆が寝静まった午前1時頃に起こった。