小説カイコ ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作

第二章 鎌倉編(7)
そのとき、いい考えがひらめいた。
―――― 壁部屋の中からでも電波は通じるだろうか?
賭けだった。うまくいくかどうかは分からない。
自分の携帯を取り出し、鈴木宛に電話をかけてみた。それからメールも。その間にも、鈴木と俺との距離はじりじりと狭まっていく………鈴木の足取りがいつもよりおぼつかない感じがするのは気のせいだろうか。
ピリリリリリリリリ ピリリリリリリリリリリリ
十数秒して、鈴木の携帯(今は包丁だけどね)からこの静かすぎる空間には不似合いな電子音が鳴り響いた。その後にはメールが届いたのだろう、ジージーとバイブ音が手元が狂うぐらいにずっと鳴っている。
「――――― 小賢しいマネしやがって……!」
鈴木はちっ、と悪態をついて携帯を地面に叩きつけてしまった。その場で立ち止まってこれ以上俺に近づいてくる様子もない。
「お前、時木なのか?
だったらさ、なんでこんな事するんだよ。鈴木は実の弟なんだろ?お前だってこんな事してなにも得なんかないはずだろ。」
「何も知らないくせに、知ったかぶるな。私はどうしてもやんなきゃいけないことがあるんだよ………!もういい、お前の退治はもうやめた。………そうだよ、こんな奴に構ってるヒマなんか無かったじゃないか!!」
言うや否や、鈴木は円の淵まで走り出して行って黑い壁の中に吸い込まれていった。吸い込まれていった、と言うよりは壁に触れたとたんに消えた、と言った方が語弊がないかもしれない。後には、俺といまだに気を失い続けている時木が残されただけだ。
この壁、通り抜けられるのかな。
黑い壁に触れてみると冷たかった。冷たく、指先が痺れるような感覚に蝕まれていく。このまま腕も、体も突っ込んだらどうなってしまうのだろう?
その時、時木の呻き声が足元から聞こえた。
「……時木?気がついた?」
「ああ、最高に最悪な気分だ。って、なんだその黒い壁は」 時木が驚いた様子で壁を見上げながら言った。
「ああ、これ?よく分かんない。お前がぶっ倒れたあと鈴木が豹変してさ、大変だったんだよ。多分鈴木に憑りついたもう一人の方のお前が出てきたんじゃないかな。更にこんな壁残していきやがって………当の本人はやる事がある!とか言って、これに突入してどっかに行っちゃったみたいだけど(笑)」
「……はあ。」
時木が珍しく弱気な声を出した。
しばらく二人で途方に暮れてしまった。だって、なんか妙な触ると痺れる冷たい黑い壁に囲まれた密室に閉じ込められたら誰だってそうなるっしょ? まあ、誰だってこんな状況にならないと思うけどさwww
「なんかさ、笑えてくるよね。ここまでお手上げだと。」
時木はうーん。と曖昧な返事を返した。額に指を当てて、何か考えに耽っている様子だった。
「あのさ、高橋。やる事があるって言って〝私"はこの壁からどっかに行ったんだろ。」 時木が壁を睨みながら言った。
「それってどういう意味?」
振り向いて、時木はニヤリと不敵な笑みを顔に浮かべた。
「……行くぞ。私らも、 突入 だ。」
まじかよwwwwwwwww/(^o^)\

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