小説カイコ       ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作



第一章 ふりだし編(5)



「じゃあお兄さんの名前は……柚木達矢さん?」ガタンゴトン、と電車が大きく揺れた。
「ああ、」柚木君が頷いた。「そうだよ。そのまんまだけど。ところで高橋君は何しに行くの? 俺らは普通に夏行けなかった分の墓参りだけど。」
「俺は神子(ミコ)さんやりに。つーか生まれて初めて行くんだよね。その衣田さんって人にも超小さい頃に会ったことがあるくらいで、ほぼ初めて会うようなもん。本音言うとちょっとめんどいな(笑)」
「わー、高橋君が神子さんやるの!?」杏ちゃんが笑った。「私ったら、あれ女の子がやる仕事だと思ってた。」

それ、鈴木にも言われたなorz 隣に立っているおじさんが大きなくしゃみをした。
「俺もよく分からないんだけど、なんか神子さんって未婚の人しかやっちゃいけないらしくてさ。んで、去年まで例の衣田さんの娘さんがやってたらしいんだけど、結婚するらしいから俺に順番が回ってきた……ってところ?らしい。あーホント自分でもよく状況を分かってないんだ。妹が中学に入ったら妹がやる予定らしいけど。何が何だか……」

本当、自分でもよく分かっていないのだ。
数日前にいきなり我が高橋家に一本の電話がかかってきた。電話の主は俺の叔父さん、すなわち母親の兄である衣田さんからだった。しかも用は俺にあると言う。
一体何の用だと思って電話にでると、「どーもっお久しぶり。衣田礼治でしたー。任史~、今年から神子(ミコ)さんどうだやー。」と物凄い勢いで衣田さんは話し出したのだ。
聞いたところによると、衣田さんは蟲神神社という神社の神主さんらしい。らしい、というのは俺は生まれてこのかた、あまり親戚やいとこと言った類に会ったことが無かったからである。この衣田さんも記憶が無いくらいに小さい頃にしか会ったことが無い。

それで、何が何だか分からないまま、断る理由も思いつかずに神子さんを引き受けることになってしまった。昨日、最近話題の東北新幹線に乗るべく切符を買ったばかりだ。
十年以上昔に一回だけ行った山形である。正直無事に辿り着ける自信が無い。

「あ、あのさ。」ちょっと恥ずかしいけど迷って大変な目に合うよりはマシかもしれない。「俺、実はずっと前に家族で行ったきり山形行ったこと無くてさ……一人で辿り着ける自信無いんだよね。一緒に着いて行っていい?」
「もちろん!あ、でも柚木君とこのお母さんが連れてってくれるから……」
「俺んちは全然オッケーだと思うよ。新幹線だよね?」柚木君が吊革をぎゅっと掴んだ。
「ああ、新幹線。ほんっと、ありがとう。超助かったよ。」

よかった。これで何とか衣田さんのところまで行けそうだ。
に、しても。
神子さんって一体何をやるんだか……orz