小説カイコ ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作

第一章 幽霊からのテガミ編(12)
ついに来たる放課後。母親にはメールで鈴木が泊まる許可をもらった。
学生とサラリーマンでギュウギュウ詰めの満員電車はもう慣れたものだが、まぁ好きには到底なれなそうだ。
「心の準備は?」…しかも電車の中は節電でクーラーが効いていなく、蒸し暑い。
「オーケーとは言い難いけど。」鈴木が居心地の悪そうな低い声で答えた。
駅に着いてからは俺のチャリに二人分の荷物を詰めて、歩くことにした。今の電車で鈴木はすっかり疲れてしまったらしい。
「はあ~。高橋毎日あんなんに乗ってんの?」
「ああ、まあね。慣れれば何ともなくなるよ。」確かに入学したころはすごく疲れてたなー。
駅前の商店街を抜けると、この町は一気に活気が無くなって閑静な住宅街が広がる。その先には田んぼがずっと広がっていて、またその先に住宅街がある。そこに俺の家があるわけだが……
「……高橋、俺、疲れた。あと何キロぐらい歩けばいいんだよ。」
「う~ん、10キロくらいかな?」……まだ歩き始めてそんなに経ってないだろ!?
次の瞬間、鈴木がトンデモ発言をした。
「なあ、高橋。ドキドキな二人乗りしないか?」しかも真面目な顔で言いやがる。
「……はぁ?」
「交代でチャリ漕ぐことにしてさ、後ろに乗るほうが荷物を抱えてればいいだろ?なぁ、いいだろ?いいよな!?」
言うが早い、鈴木はカゴに詰めてあったエナメル×2を俺に投げつけてきた。
「ぐはっ?!何すんだよ!!」
「もう俺歩くのイヤ。最初は俺が漕いでやる。……お前は後ろで荷物持ってろ。」 そう言うと、勝手に人のチャリにまたがって、自転車の後ろの荷物置きに乗るように俺に命令してきた。
「……そんなに歩くの嫌なの?……まぁ、別にいいけどさ。」そこまで言うんなら仕方ない。
「やったー(^∀^)じゃあ道案内頼むぜ。」
そう言うと、ジャキッと鈴木は自転車のギアを最高にセットして、いきなり物凄い勢いで漕ぎ出した。……どこにそんな体力残ってたんだか。っていうか、そんなんだったらまだ歩けるだろっていうね。
漕ぎ手交代の余地なく、鈴木のガッツですぐに俺んちに着いた。結果、俺の初めての二人乗りが男同士でしかも鈴木とだったという事になってしまった(´Д`;) まあ別にいいけどさ。
「で、どうする?ご飯食べてからにするか?」…もう、鈴木の学ランにつかまってチャリに乗っていた自分が恥ずかしい。黒歴史だ。
「えーっ!?メシまで食わせてくれんの?そりゃ、さすがに悪いから遠慮しとくわ。」
「だってお前、そしたら明日の昼まで食べないことになるよ?」
「俺、毎日一日一食だしwwwどうってことないよ。」
「よくそんなんで、今まで体もってたな……」
そんなこんなで鈴木が、悪い、悪い と遠慮しまくるので家に寄らないで先にマンホールに行くことにした。あ、勿論歩いてだよ。さすがに二人乗りはもうやりたくない。
4丁目のゴミ捨て場の前。ここが例のマンホールのある場所。
暗い住宅街の中で、ゴミ捨て場にある電灯の光が、スポットライトのようにマンホールを照らしていた。
「……ここなんだけど。」
「…へぇ」
―――― マンホールの蓋は、開いていた………

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