小説カイコ ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作

第二章 鎌倉編(6)
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……コイツの馬鹿さ加減は笑える。
「邪魔なんだよ。」
まだ使い慣れないこの体を自由に動かすのは難しい。なにせ血は繋がってるとはいえ、いままで使ってきた身体よりも20㎝以上は大きいし、20㎏以上は重い。
それが祟ったのか、足を離した瞬間、高橋を逃してしまった。
「ごめん、鈴木!」
高橋はそういいながら、私を体当たりで後ろへ吹っ飛ばし、横に転がっていた“私”を素早く背負って円陣の外へ出ようとした。
………そうはさせるか。
苓見土我の壁部屋作りの腕はなかなかのものだった。けれど、精巧すぎた。……壁部屋の中では血を垂らした人間が絶対的な力を持つ。結果、円陣の外側――――――苓見とカイコはこの中には手を出せない。
きっと苓見は壁部屋の中で私を消そうとしたのだろう。死んでから6年しか経っていない私の霊力なら、高橋だけでもいけると思っての計画だったに違いない。
だったら、ここで高橋に逃げられては後々面倒だ。
「……閉」
短く呟くと、期待どうりに円の線に沿って黑い壁が現れた。想像以上に苓見の腕は確かだったらしい。
◆
「え……嘘だろ……」
鈴木の足が離れた瞬間を狙って逃げ、あと一歩で円から出られそうだったところで……なんか妙な壁が突然目の前に現れた。…後ろから鈴木が立ち上がる音が聞こえる。
「往生際が悪い。」鈴木が低く、呟いた。
「……誰なんだ、お前。」
鈴木は俺の質問には答えず、足元の砂粒を手にすくい始めた。
それからすっくた砂を握りしめて、手を開くと、そこにはあるはずの砂は無く、代わりに小さなナイフが握りしめてあった。
………やばい。まじでやばい。
背中の時木はまだ気を失ったままだ。でも、このままじゃ俺も時木も危ない。……しょうがない、時木はここに降ろすしかないか。
鈴木の方に向き直ると、鈴木は自分の手首にナイフの刃先を立てて、円の真ん中の漢字が書いてあるところに血をたらし始めていた。黄土色のグラウンドが、赤く染まっていく。
「……質量保存の法則って知ってるよな。あんなチンケな法則、この円の中でも通用してるみたいだぞ。」
そういうと、鈴木はジーパンのポケットから携帯電話を取り出した。
「このくらいの重量があればいいかな。」
血が流れ続けている鈴木の右手で握りしめられた携帯電話は一瞬、青色に光った後にぐにゃぐにゃとした動きで形を変えて包丁の形になった。鈴木は携帯が動きを止めるのを見届けると、俺の方に向き直った。目がかなり本気だ。
……やばい。

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