小説カイコ ryuka ◆wtjNtxaTX2 /作

第一章 ふりだし編(6)
「へぇ~ そんでお前は明日からルンルン東北旅行でちゅか。いい御身分なこって。」
昼休み。久々に鈴木と弁当を共にした。
何を考えたのか奴の提案で屋上で食べることとなった。十月と言えどもまだやっぱ暑い。その証拠に俺も鈴木もワイシャツだし、屋上で見る太陽はいつもより数倍ギラギラ光って見える。
「別にいいだろ。しかも遊びに行くわけじゃないんだよ。」
「神子さん、だっけ?それってさ、一体何やんの。」鈴木が某激安店のカレーパンの袋を破きながら言った。
「よく知らんけど。でっかい木の周りで何かやって水かけて終わり。それだけのために俺は明日8時間かけて山形へ行く(笑)」
「8時間!? そんなに時間かかるもんなんだ。つーかお前一人で行くの?」
カレーの匂いがふんわりと風に乗ってきた。「まぁ…俺んちから千葉まで1時間かかっちゃうからね。行く時は一人じゃないけど。てか一人じゃ絶対ムリだorz」
「じゃあ親と?」
「……いや、」 なんかヤバいな(^ω^;)
「兄弟とか?」
「……や、同級生と……」
「へー、誰だれ?俺の知ってる人?」鈴木はもう一個目のカレーパンを平らげて、二個目の袋に手をかけていた。
「えっと、知らない人だと思うな。」
「だれ?何だよ引っ張るな、言いにくい人なのかなwww?」
「別に。言ってもどーせ分かんないよ。」 ケラケラ笑う鈴木を無視して、弁当のフタを開けた。あ、箸が無い………
「言えよ。どーせ俺の知らない人なんだろ?じゃあいいじゃんかw」
「む……」ああ言えばこう言うとはコイツのことか。「柚木と柏木って人。ね、知らない人でしょ?」
鈴木は えっ、と声を挙げた。「柚木?近所だわwww それとさお前、何気なく言ってるけど、俺が覚えてないと思ってるのかwww? 柏木ってこの前好きだ、って言ってた子っしょ。ちゃーんと覚えてましゅよ~(笑)」
なんだろう。ここ最近、自爆することが多いような気がする(´Д`;)
「はぁ…鈴木は記憶力がいいんだね。」
「そんくらいフツーに覚えてるわ。まぁそれ以上は追及しませんけどw 勝手にリア充してろや。」そう言うと、鈴木は三個目のカレーパンに手をつけた。
「やめろよ。そーゆーの柏木に失礼だから。」……ところで、箸ナシでどうやって食おう。
「へへへ、いいよいいよ。青春だねぇ、応援するよwwww」鈴木が面白そうに笑った。
その時、背後の階段を誰かが昇ってくる音がした。コンコンコン、と階段をリズムよく駆け上る音が屋上に小さく響いた。
誰?と思って振り返るとあろうことか杏ちゃんだった。
「ここに居たのかー、高橋君やっと見つけたよ。ちょっといいかな、一分くらいで終わる話だから。」少し、鈴木に謝るような形で杏ちゃんが聞いた。隣に座っている鈴木はニヤニヤと笑いながら肘で俺の脇腹を突いてきた。「どうぞー、高橋君はどーせヒマ人ですからwww」
「あははは、そんなこと無いでしょwww えっとそれで、明日のことなんだけど…京成線で行こうか、って柚木君のお母さんが言っててね。京成で上って上野で新幹線に乗り換えると、山形まで一本で行けるらしいんだ。その後は左沢線に乗り継いで駅に着いたらそれぞれ各自行動、って感じかな。」
「あっと……えっと……、ごめん、よく分かんないや(笑)」
「うん、私も!」杏ちゃんがアハハ、と笑った。「お互い無事に辿り着けるといいね。」
「あ、うん。」どうしてか、だんだんと上手に会話が返せなくなってしまう。「じゃあ千葉駅集合…だ、よね?」
「そう、明日の6時ぴったりに集合ってことで!」そう言うと、杏ちゃんはじゃあねー、と言って階段を下りて行った。
はぁ。杏ちゃん本人を目の前にするとしどろもどろになって口が回らなくなってしまう。こんな今の自分を打破したい……orz
「いいなー高橋。うらやましいぞw」
鈴木のニタニタ顔がムカつくが、気にしないことにしよう。

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